この世の沙汰は運次第

緋水晶

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そしてとうとう、決戦の日はやってきた。
「いよいよだな」
「…ああ」
部屋で支度を終えた俺とスミスは窓から見える朝日を眺めながら、これからの戦いに思いを馳せた。
俺にとっては未知の強敵であり、スミスにとっては因縁の相手であるドライガとの一戦。
考えるまでもなく人生で一番の大戦となるであろう戦いだ。
戦わない俺に変な気負いはないが、それでもやはり緊張はする。
「絶対に、ルアナの敵を取ってやる…!!」
一方のスミスの目には大いなる決意が宿っていた。
静かだが激しい闘志が全身に漲っている。
「あ、そうだ」
「ん?」
俺はごそごそと鞄を漁り、手の中に納まるほど小さく細長い包みを二つ取り出す。
「これさ、幸運のお守りなんだって。だからお前に一つ渡しておくよ」
俺は不思議そうな顔をするスミスの手を取ってその一つを握らせた。
「この間お前に俺の家に連れて行ってもらっただろ?その時母さんから渡されたんだ」
それは今から一週間ほど前のこと。
「戦いに赴く前にそれぞれ家族に一度報告して来い」と言うギルド長の指示の下、俺はスミスの飛行魔法で連れて行ってもらい里帰りをした。
その際俺は母からこれを渡されたのだ。
『これはね、我が家に代々伝わる幸運のお守りだよ』
帰り間際、母はそう言って俺に細長い筒状の物を渡してきた。
『古くから猫の髭は幸運のお守りとして有名でね。我が家特製のこれはキャトレットさんの髭さ』
『キャトレットさんの?』
『そう。うちでは年に何本か抜けるのをいざって時のために大事に取ってあるんだ。今こそ使い時だろ?』
その中身に驚く俺にそう言って母はウインクすると、
『何かあった時、それがピンチであればあるほどこのお守りは役に立つ。スミス君の分もあるから渡してあげておくれ』
と、俺にもう一つ同じものを渡してきた。
そのスミスはすぐそこにあるカウンターでキャトレットさんを撫でているのだから直接渡せばいいのではと思っていると、
『これはね、渡す相手への思いが強い人が贈る方が何故か効果が高いのさ。だから戦いの出発前にアンタが渡しておやり』
母はそう言ってその時まで俺の鞄に二つともしまっておくようにと付け加えた。

「ってことがあってさ。今まで俺が預かってたんだ」
俺はスミスに事情を説明し、自分の分を鞄に戻す。
「親友への応援の気持ちは誰にも負けないからな。つまり俺がお前に渡せば効果は絶大!」
そして俺はスミスを正面から見つめ、
「だから絶対、お前は勝てるよ」
と言って笑った。
その時のスミスの顔は実に見ものだった。

「なんだ、これから決戦って時に随分とリラックスしているじゃないか」
「意外に生真面目なスミス君なら、もっと強張った顔をしているかと思ったんですけどね~」
「けれど緩み切っているわけではない。見事だな」
出発前にギルドに寄った俺達に見送りに来ていた先生とキアラとギルド長は、俺達の様子を見るなりそう言って驚いた顔をしていた。
確かに成人したての俺達が人生を賭けた戦いに向かうにしては妙に落ち着いているこの状況は彼らにとって意外だろう。
だから俺は得意になって理由を説明した。
「うちのキャトレットさんは凄いので!」
だが聞いた方は『???』と揃って頭に?を浮かべていた。
「よかった、間に合った!」
「見送りに来たぞ!」
「まだ行かないでください~!」
するとパタパタと三人の人影がこちらに向かってきた。
俺達には顔を見るまでもなくそれが銀級トリオだとわかる。
「おう、ありがとな!」
スミスは駆け寄ってきた三人に礼を言うと、不意にしみじみとした様子で一人一人の顔をしっかりと見た。
「……入学した時はお前らとこんな風になるなんて思わなかったよなぁ」
そしてしんみりとした表情でそう言ったものの、すぐに「しししっ」と猫のように笑うと、
「でもまあ、6年間組んだのがお前らでよかったよ」
と珍しく素直に自分の思いを告げた。
きっと決戦前でスミスも少しセンチな気持ちになっていたのだろうが、
「…スミスが」
「…デレた!?」
「僕達に!?」
三人は思いもよらな過ぎて、犬の盆踊り大会を目撃してしまったような顔で慌て始めた。
「ど、どうしよう!?」
「天変地異の前触れでしょうか!?」
「い、一旦落ち着こうぜ!無理だけど!」
彼らはわたわたと、それはもう見ていて失礼なほど慌てるので、俺はつい笑ってしまった。
「お前ら…」と言って頬を引くつかせているスミスも、多分思いは一緒。
「しまらねぇな」「君ほどじゃないですよぉ」「はは、いいチームじゃないか」と笑っている先生達も。
これからの戦いに似つかわしくないほど温かなこの空気は彼らのお陰だと。
だから俺は「三人ともありがとな」といまだ慌てふためく三人に感謝を告げた。
「レィヴァン君まで!?」
「やべーよ、やべーって!!」
「俺まだ死にたくない!!」
ただ、俺に向けてまでそう言った三人に若干の殺意を覚えたところまでスミスと一緒にならなくてもよかったなとは思う。
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