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第1章 はじまりの魔女とサクラサク
世界は魔法に満ちている。
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桜が舞い散る春。朝日の降り注ぐ景色のなかに、響き渡る怪人の声。
「ねーばねばねば!!魔法少女め!俺様がこの街を納豆まみれにして、支配してやる。この、ネーバナトウ様がこの街に来たからには、な」
民家の屋根の上で、黒いタイツ姿の変態が、納豆をぐるぐるとかき混ぜながら、笑う。
「みーんな、朝は納豆ご飯派にしてくれるわ」
「んなこと、させるかってーの!!町中に納豆の糸をひきやがって、支配の仕方が陰湿すぎんだよ!うっとおしいわ!!」
水色と白の衣装を纏った少女が、キレながら言う。勝気な瞳に、口元から八重歯が見える。
「マジブルーか!貴様にやられた同胞たちの仇!納豆巻きにしてくれるわ」
マントの下から、糸引く巨大な豆が現れ、糸を引き始める。
「やれるもんなら、やって見やがれ!!登校前のクソ忙しいときに暴れやがって!今日の昼食にしてくれるわ!」
「ネバあああ」
「おらあああ」
××年後、魔法都市マジブロッサムの日常である。人々は魔法を使い、日々を生きる。明るい空に浮かぶのは2つの月。
「うっし!今日からあたしも高校生!!学生証よぉし!カバンよぉし!!そして」
水晶玉の埋め込まれた木の杖を手に取り、にまにまと笑う。
「魔法の杖よぉし!!春風さくらこ!学校に行ってきます!!」
元気よく、玄関を飛び出る!爽やかな風が吹き、心地よい風に深呼吸をする。鼻をくすぐる匂いは、納豆!!
「う、うん!!大丈夫!」
若干さくらこは顔をしかめつつ、1歩踏み出す。ピカピカに磨いたローファー。にちゃあ。
踏んづけたのは、納豆。
「うら!うら!オラァ!」
馬乗りになって怪人を殴打する魔法少女!!拳は真っ赤な血に染まっている。
「あ?」
「ひぃ!」
世界は魔法に満ちている。
「いや!物理やん!!?」
怪人をタコ殴りにしてる少女にツッコミをいれつつ、そのことに
「んあ?あんた、そのブレザーうちの生徒の新入生か。ネクタイの色がピンクってことは一年生か。よっ新入生。ちょっと待ってな。こいつ片付けたら、送ってやるから」
血の着いた笑顔で彼女は言った。
「い、いえ、わたしは、」
「遠慮するなっての、な。見るからにその杖、まだ魔法入ってないだろ。箒で送ってやるよ。だから、このことはな、内密にな?」
「え、っと、」
「ち、しかたねーな。これやるから、な。わかるよな?」
彼女はぐちゃぐちゃと怪人の懐に手を突っ込みネバネバした、光る小石をおしつけてきた。怪人の持ち物らしい。糸ひいてらぁ。
「か、かえせ」
という怪人を殴り黙らせ、わたしの手に握らせてきた。うわああああ。
「い、いらな」
「よしよし!魔石なんてまだ、新入生は持ってないからな!いやぁ!よかったな!新入生!!秘密頼んだぞ!」
うんうん。と大きく頷き、いやぁ、いい取引だった!と彼女は満足気だった。その間もひたすら怪人をぼこしていた。
「あ、やべ、遅刻する。会長に殺されちまう。一年坊。またあったら、よろしくな!ん、名前なんてんだ?」
「えっと、春風さくらこ、です」
「よっし、さくらこ!また学校でな」
彼女は何も無い空中から棒状の機械を取り出す。ホウキだ。いいなー。魔力と免許がないと乗れないもんな。謎の先輩はサーカス団のようにひらりと回転しホウキの上に着地した。既にホウキは稼働しており、後ろには青白く魔法陣が浮かび上がっていた。
「んじゃあな!!」
先輩は一気に飛び去ってしまった。朝の通勤通学ラッシュ。魔法都市マジブロッサムの空は慌ただしい。先輩以外にも、学生や会社員が空を飛んでいる。個人のホウキや、電車が流星のごとく流れていく。
「あ、私も!急がなきゃ!」
先輩からもらった魔石はとりあえずポケットティッシュに包んで、学校へ急ぐ。
さくらこの去ったあと、重症だった怪人は、仲間に念波を飛ばし通信をする。
「ま、マザー、申し訳ない。魔法少女と交戦してしまい、敗北してしまったねば」
「過信しすぎです。あれは増幅器であっても、お前たちを強くするわけではないのです。朝食を食べながら作った怪人だから、あなたが強いとは思っていませんよ。あ、そういえば、あれは無事ですか?」
強くは無いと言えど、それでも大抵の魔法攻撃に耐えれるように設計してある。計算のし直しか?魔法少女の成長か?
「ま、魔法学校のガキにブツをとられたねば。」
「……なるほど。で、どこの魔法少女にとられたのですか?」
「わ、分からない」
「は?」
「分からないねば。俺はマジブルーってのにやられたが、ブツを持って行ったのは別の人間だねば。ぼこぼこに殴られてたから。わからねーんだ」
「はぁ……。ほかの魔石と同じ見た目してるから、大事にはならないでしょうけど。」
「申し訳ないねば!マザー!必ず取り返してくるねば!」
「期待してますよ」
通信を切る。連絡を受け取ったが、紛失するとは。魔法少女あたりに取られたなら、どうとでもなっただろうが。
「……場所は?」
コンピューターの前から動かず、助手たちに声をかける。
「マジブロッサム西側、住宅エリアです。」
「清掃員スイーパーを向かわせて。怪人は焼却処分。マジブロッサム内にある学校の潜入員モグラに欠片を回収させてください。」
「よろしいのですか?あの怪人は、マザーの技術の粋を集めた。」
「所詮は実験です。次に期待します」
「例の欠片の所有者はどうしたら」
「あたしが請け負うよ」
白衣でコンピューターに向かって作業していた。彼女はタバコをふかし、丸いメガネをくいっとあげる。
「んー、とらえて、モルモットだぁ。ひひひ。欠片が人体におよぼす影響が見てみたい。怪人と、泥棒ちゃんのことがわかったら、念波で知らせてね。」
ばかな奴だな。人のもん取りやがるとは。
「さて、次はどんなのを作ろうかな」
「ひぇええ」
さくらこは、魔法都市マジブロッサム中心にある巨大な木の麓にいた。木の葉1枚が車ほどの大きさのこの世界樹ユグドラシルは、世界最大にして、現存する世界唯一の巨大樹として知られている。樹齢は数千年もしくは数万年とも言われており、太い根はこの大地をがっしりと掴み、力強くそびえている。
この魔法都市マジブロッサムの中にある巨大な樹木郡は人々の憩いであり、生活の場として、木々の中をくり抜き、そこに家や店、施設を構えている。当然この世界樹ユグドラシルも街の中心地として、官公庁がある場所となっていて、今日からさくらこが通う学園もこの大樹の中にある。上の方ではスーツを着込んだ役人たちが、ホウキで次々と出勤していた。
「おや、そのブレザーは第3魔法学校の生徒だね。」
「は、はい!」
唐突に話しかけられて、さくらこが戸惑っていると、足元で声がした。
「あっちだよ」
と、指をさした。ちいさな生物だった。ふわふわもこもこと、ぬいぐるみのようだった。手足がクネクネと動いている。
「わぁ!かわいい!」
「やめてくれ!かわいいなんて。俺は勇者なんだ。淑女に優しくするのは、常識さ」
「ふふありがとう、ちいさな勇者さん」
「どういたしまして。魔女の子よ。早くしないと、上にあがる最後の大型箒モップが行ってしまう。」
「いけない!!またね!」
彼女は元気よく手を振りその場を後にした。ギリギリで、大型箒モップに乗り込み、運転手に駆け込み乗箒を怒られる。謝罪しつつも、彼女は目の前に広がる景色に感嘆の声をもらした。朝日に輝く、木々の巨大な雫がシャンデリアのように、魔法都市を明るく照らす。
「すっごい、、、綺麗、、、、」
目を奪われた少女の素直な反応に嘆息しつつ、運転手はさらに上へと上がっていった。
「第3学校【鳥の巣】前、第3学校前嬢ちゃんここだよ。次からは気をつけてね」
「はい!すみませんでした。」
お辞儀をした彼女を横目に大型箒モップの運転手は出立した。太い枝に降り立つ、地面とは違うゴツゴツとした感覚が足の裏に伝わってくる。ローファーじゃあちょっと歩きづらい。どでかい幹線道路のような幹は、優しい葉っぱの香りがした。目の前にあるのが、学校だ。パンフレットで見るのと比べて、実物の迫力は想像以上だった。
世界樹から伸びる木々の枝のひとつに作られた、巨大な鳥の巣。小枝1本1本が鉄骨のような強度があり、バカでかい。宿主が去ったあとに改修して出来たのが、ここ第3学校であるそうだ。通称【鳥の巣】。コロシアムと同じように、グランドをかこむようにぐるりと校舎がある造りになっている。
小枝が複雑に絡み合った外壁の中に、校舎があるようだった。次々と生徒たちが、ホウキから降りて、校舎に走ってさくらこはギリギリで、校舎に滑り込む。玄関には何人かの守衛さんが立っていた。守衛さんから杖を見せるように言われた。
「うん、新入生だね。グランドへ行きなさい。このまままっすぐ歩けばいいから」
建物の内部は木製であり、暖色の照明で温かみがあった。鼻をくすぐるような爽やかな香りが漂っていた。生徒たちが足しげに教室に向かう中、ジリリリとベルが鳴り響く。ベルの後、穏やかな音楽が流れ、校舎内に声が響く。
「新入生の皆さんは校舎中央のグランドへ集まってください」
まばらに集められた新入生たちは、とまどいの表情を浮かべていた。さくらこも不安と期待の入り混じった顔で、周りを見ていた。
グランドをぐるりと囲む校舎からは上級生と思われる黒いかげが静かに新入生たちを見ていた。
「あー、あー、チェックチェック。よぉ!新入生諸君!」
魔法で拡張された声が響く。
「ようこそ!【鳥の巣】へ!歓迎する若き才能たちよ」
若い女の声だった。新入生の1人が指を上空を指指すと、白衣をたなびかせた女性が腕を組み、仁王立ちで立っていた。頭には大きな山高帽子。かなり年季が入っている。燃えるような赤い瞳は鋭く、鷹の目のようだった。
「君たちに支給した杖は無垢の杖だ。これからの3年間で多くの魔法を詰めることになる。何人かはすでに魔法を入れているようだが。自ら学んだものが真に血肉となる。」
さくらこは周りを見渡すと、自分のように透明な玉は少なく、色の濃淡に差はあるものの、色がついている者がほとんどだった。
そのうちの1人がさくらこに気づき、仲間に指さしでヒソヒソと話す。3人はバカにしたような目でさくらこを見ていた。朝までは誇らしげだった自分の杖が急にみすぼらしく思えた。
「再発行はしない。杖は君たちにとっての文具であり、学生証であり、友である。」
「へへ、あそこには、みすぼらしい友達もいるみたいだがな」
さっきの3人のうちの1人がこちらに向かって、小声でいう。腹がたったが、無視をした。
「数々の授業、試験、そして、試練が君たちを待っている。大いに励め、そして学べ。【鳥の巣】一同君たちを歓迎する」
彼女が自らの漆黒の杖を振るうと、空中に色鮮やかな魔法たちが、踊るように景色を変えていく。それに合わせて、校舎からも次々に魔法が花火のように現れる。上級生や教職員たちが得意の魔法を空に放った。
「最後に、お前たちの足元にある世界樹は異世界の魔女と呼ばれた始まりの魔女が植えたとされる木だ。何度世界が滅びても、科学と魔法で守られてきた。彼女の歴史そのものだ」
「彼女のまいた芽が、世界一の大樹となったように。君たち魔法使いの卵たちが大輪の花を咲かせることを心から願っている!そして、はじまりの魔女を超える魔法使いが現れることを楽しみにしてる。今、世界は魔法に満ちている!以上!解散!!」
すると、ホウキに乗った小柄な男性が慌ててやってきた。
「ちょっと、校長先生、勝手に解散させないで下さい。あと自己紹介、自己紹介!」
「ああ!すまない。私は【鳥の巣】第3魔法学校、校長。ガリレオ・A・チェリーブロッサム!若木たちよ!諸君らの研鑽を期待している。」
彼女は白衣を翻すとその場からきえていた。かっこいい人だったな。
「では、新入生のみなさん今からクラスを決めるので、こちらに集まってください。」
「ねーばねばねば!!魔法少女め!俺様がこの街を納豆まみれにして、支配してやる。この、ネーバナトウ様がこの街に来たからには、な」
民家の屋根の上で、黒いタイツ姿の変態が、納豆をぐるぐるとかき混ぜながら、笑う。
「みーんな、朝は納豆ご飯派にしてくれるわ」
「んなこと、させるかってーの!!町中に納豆の糸をひきやがって、支配の仕方が陰湿すぎんだよ!うっとおしいわ!!」
水色と白の衣装を纏った少女が、キレながら言う。勝気な瞳に、口元から八重歯が見える。
「マジブルーか!貴様にやられた同胞たちの仇!納豆巻きにしてくれるわ」
マントの下から、糸引く巨大な豆が現れ、糸を引き始める。
「やれるもんなら、やって見やがれ!!登校前のクソ忙しいときに暴れやがって!今日の昼食にしてくれるわ!」
「ネバあああ」
「おらあああ」
××年後、魔法都市マジブロッサムの日常である。人々は魔法を使い、日々を生きる。明るい空に浮かぶのは2つの月。
「うっし!今日からあたしも高校生!!学生証よぉし!カバンよぉし!!そして」
水晶玉の埋め込まれた木の杖を手に取り、にまにまと笑う。
「魔法の杖よぉし!!春風さくらこ!学校に行ってきます!!」
元気よく、玄関を飛び出る!爽やかな風が吹き、心地よい風に深呼吸をする。鼻をくすぐる匂いは、納豆!!
「う、うん!!大丈夫!」
若干さくらこは顔をしかめつつ、1歩踏み出す。ピカピカに磨いたローファー。にちゃあ。
踏んづけたのは、納豆。
「うら!うら!オラァ!」
馬乗りになって怪人を殴打する魔法少女!!拳は真っ赤な血に染まっている。
「あ?」
「ひぃ!」
世界は魔法に満ちている。
「いや!物理やん!!?」
怪人をタコ殴りにしてる少女にツッコミをいれつつ、そのことに
「んあ?あんた、そのブレザーうちの生徒の新入生か。ネクタイの色がピンクってことは一年生か。よっ新入生。ちょっと待ってな。こいつ片付けたら、送ってやるから」
血の着いた笑顔で彼女は言った。
「い、いえ、わたしは、」
「遠慮するなっての、な。見るからにその杖、まだ魔法入ってないだろ。箒で送ってやるよ。だから、このことはな、内密にな?」
「え、っと、」
「ち、しかたねーな。これやるから、な。わかるよな?」
彼女はぐちゃぐちゃと怪人の懐に手を突っ込みネバネバした、光る小石をおしつけてきた。怪人の持ち物らしい。糸ひいてらぁ。
「か、かえせ」
という怪人を殴り黙らせ、わたしの手に握らせてきた。うわああああ。
「い、いらな」
「よしよし!魔石なんてまだ、新入生は持ってないからな!いやぁ!よかったな!新入生!!秘密頼んだぞ!」
うんうん。と大きく頷き、いやぁ、いい取引だった!と彼女は満足気だった。その間もひたすら怪人をぼこしていた。
「あ、やべ、遅刻する。会長に殺されちまう。一年坊。またあったら、よろしくな!ん、名前なんてんだ?」
「えっと、春風さくらこ、です」
「よっし、さくらこ!また学校でな」
彼女は何も無い空中から棒状の機械を取り出す。ホウキだ。いいなー。魔力と免許がないと乗れないもんな。謎の先輩はサーカス団のようにひらりと回転しホウキの上に着地した。既にホウキは稼働しており、後ろには青白く魔法陣が浮かび上がっていた。
「んじゃあな!!」
先輩は一気に飛び去ってしまった。朝の通勤通学ラッシュ。魔法都市マジブロッサムの空は慌ただしい。先輩以外にも、学生や会社員が空を飛んでいる。個人のホウキや、電車が流星のごとく流れていく。
「あ、私も!急がなきゃ!」
先輩からもらった魔石はとりあえずポケットティッシュに包んで、学校へ急ぐ。
さくらこの去ったあと、重症だった怪人は、仲間に念波を飛ばし通信をする。
「ま、マザー、申し訳ない。魔法少女と交戦してしまい、敗北してしまったねば」
「過信しすぎです。あれは増幅器であっても、お前たちを強くするわけではないのです。朝食を食べながら作った怪人だから、あなたが強いとは思っていませんよ。あ、そういえば、あれは無事ですか?」
強くは無いと言えど、それでも大抵の魔法攻撃に耐えれるように設計してある。計算のし直しか?魔法少女の成長か?
「ま、魔法学校のガキにブツをとられたねば。」
「……なるほど。で、どこの魔法少女にとられたのですか?」
「わ、分からない」
「は?」
「分からないねば。俺はマジブルーってのにやられたが、ブツを持って行ったのは別の人間だねば。ぼこぼこに殴られてたから。わからねーんだ」
「はぁ……。ほかの魔石と同じ見た目してるから、大事にはならないでしょうけど。」
「申し訳ないねば!マザー!必ず取り返してくるねば!」
「期待してますよ」
通信を切る。連絡を受け取ったが、紛失するとは。魔法少女あたりに取られたなら、どうとでもなっただろうが。
「……場所は?」
コンピューターの前から動かず、助手たちに声をかける。
「マジブロッサム西側、住宅エリアです。」
「清掃員スイーパーを向かわせて。怪人は焼却処分。マジブロッサム内にある学校の潜入員モグラに欠片を回収させてください。」
「よろしいのですか?あの怪人は、マザーの技術の粋を集めた。」
「所詮は実験です。次に期待します」
「例の欠片の所有者はどうしたら」
「あたしが請け負うよ」
白衣でコンピューターに向かって作業していた。彼女はタバコをふかし、丸いメガネをくいっとあげる。
「んー、とらえて、モルモットだぁ。ひひひ。欠片が人体におよぼす影響が見てみたい。怪人と、泥棒ちゃんのことがわかったら、念波で知らせてね。」
ばかな奴だな。人のもん取りやがるとは。
「さて、次はどんなのを作ろうかな」
「ひぇええ」
さくらこは、魔法都市マジブロッサム中心にある巨大な木の麓にいた。木の葉1枚が車ほどの大きさのこの世界樹ユグドラシルは、世界最大にして、現存する世界唯一の巨大樹として知られている。樹齢は数千年もしくは数万年とも言われており、太い根はこの大地をがっしりと掴み、力強くそびえている。
この魔法都市マジブロッサムの中にある巨大な樹木郡は人々の憩いであり、生活の場として、木々の中をくり抜き、そこに家や店、施設を構えている。当然この世界樹ユグドラシルも街の中心地として、官公庁がある場所となっていて、今日からさくらこが通う学園もこの大樹の中にある。上の方ではスーツを着込んだ役人たちが、ホウキで次々と出勤していた。
「おや、そのブレザーは第3魔法学校の生徒だね。」
「は、はい!」
唐突に話しかけられて、さくらこが戸惑っていると、足元で声がした。
「あっちだよ」
と、指をさした。ちいさな生物だった。ふわふわもこもこと、ぬいぐるみのようだった。手足がクネクネと動いている。
「わぁ!かわいい!」
「やめてくれ!かわいいなんて。俺は勇者なんだ。淑女に優しくするのは、常識さ」
「ふふありがとう、ちいさな勇者さん」
「どういたしまして。魔女の子よ。早くしないと、上にあがる最後の大型箒モップが行ってしまう。」
「いけない!!またね!」
彼女は元気よく手を振りその場を後にした。ギリギリで、大型箒モップに乗り込み、運転手に駆け込み乗箒を怒られる。謝罪しつつも、彼女は目の前に広がる景色に感嘆の声をもらした。朝日に輝く、木々の巨大な雫がシャンデリアのように、魔法都市を明るく照らす。
「すっごい、、、綺麗、、、、」
目を奪われた少女の素直な反応に嘆息しつつ、運転手はさらに上へと上がっていった。
「第3学校【鳥の巣】前、第3学校前嬢ちゃんここだよ。次からは気をつけてね」
「はい!すみませんでした。」
お辞儀をした彼女を横目に大型箒モップの運転手は出立した。太い枝に降り立つ、地面とは違うゴツゴツとした感覚が足の裏に伝わってくる。ローファーじゃあちょっと歩きづらい。どでかい幹線道路のような幹は、優しい葉っぱの香りがした。目の前にあるのが、学校だ。パンフレットで見るのと比べて、実物の迫力は想像以上だった。
世界樹から伸びる木々の枝のひとつに作られた、巨大な鳥の巣。小枝1本1本が鉄骨のような強度があり、バカでかい。宿主が去ったあとに改修して出来たのが、ここ第3学校であるそうだ。通称【鳥の巣】。コロシアムと同じように、グランドをかこむようにぐるりと校舎がある造りになっている。
小枝が複雑に絡み合った外壁の中に、校舎があるようだった。次々と生徒たちが、ホウキから降りて、校舎に走ってさくらこはギリギリで、校舎に滑り込む。玄関には何人かの守衛さんが立っていた。守衛さんから杖を見せるように言われた。
「うん、新入生だね。グランドへ行きなさい。このまままっすぐ歩けばいいから」
建物の内部は木製であり、暖色の照明で温かみがあった。鼻をくすぐるような爽やかな香りが漂っていた。生徒たちが足しげに教室に向かう中、ジリリリとベルが鳴り響く。ベルの後、穏やかな音楽が流れ、校舎内に声が響く。
「新入生の皆さんは校舎中央のグランドへ集まってください」
まばらに集められた新入生たちは、とまどいの表情を浮かべていた。さくらこも不安と期待の入り混じった顔で、周りを見ていた。
グランドをぐるりと囲む校舎からは上級生と思われる黒いかげが静かに新入生たちを見ていた。
「あー、あー、チェックチェック。よぉ!新入生諸君!」
魔法で拡張された声が響く。
「ようこそ!【鳥の巣】へ!歓迎する若き才能たちよ」
若い女の声だった。新入生の1人が指を上空を指指すと、白衣をたなびかせた女性が腕を組み、仁王立ちで立っていた。頭には大きな山高帽子。かなり年季が入っている。燃えるような赤い瞳は鋭く、鷹の目のようだった。
「君たちに支給した杖は無垢の杖だ。これからの3年間で多くの魔法を詰めることになる。何人かはすでに魔法を入れているようだが。自ら学んだものが真に血肉となる。」
さくらこは周りを見渡すと、自分のように透明な玉は少なく、色の濃淡に差はあるものの、色がついている者がほとんどだった。
そのうちの1人がさくらこに気づき、仲間に指さしでヒソヒソと話す。3人はバカにしたような目でさくらこを見ていた。朝までは誇らしげだった自分の杖が急にみすぼらしく思えた。
「再発行はしない。杖は君たちにとっての文具であり、学生証であり、友である。」
「へへ、あそこには、みすぼらしい友達もいるみたいだがな」
さっきの3人のうちの1人がこちらに向かって、小声でいう。腹がたったが、無視をした。
「数々の授業、試験、そして、試練が君たちを待っている。大いに励め、そして学べ。【鳥の巣】一同君たちを歓迎する」
彼女が自らの漆黒の杖を振るうと、空中に色鮮やかな魔法たちが、踊るように景色を変えていく。それに合わせて、校舎からも次々に魔法が花火のように現れる。上級生や教職員たちが得意の魔法を空に放った。
「最後に、お前たちの足元にある世界樹は異世界の魔女と呼ばれた始まりの魔女が植えたとされる木だ。何度世界が滅びても、科学と魔法で守られてきた。彼女の歴史そのものだ」
「彼女のまいた芽が、世界一の大樹となったように。君たち魔法使いの卵たちが大輪の花を咲かせることを心から願っている!そして、はじまりの魔女を超える魔法使いが現れることを楽しみにしてる。今、世界は魔法に満ちている!以上!解散!!」
すると、ホウキに乗った小柄な男性が慌ててやってきた。
「ちょっと、校長先生、勝手に解散させないで下さい。あと自己紹介、自己紹介!」
「ああ!すまない。私は【鳥の巣】第3魔法学校、校長。ガリレオ・A・チェリーブロッサム!若木たちよ!諸君らの研鑽を期待している。」
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