魔法少女世界線 Re:START 〜勇者も魔法少女もやれってか!〜

お花畑ラブ子

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第2章魔法少女見習いと大海の怪物

新しい先生

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「んじゃ。またな。」
 ホウキで飛び去る先輩を見て、さくらこは走り出す。
「わたしもホウキに乗れたらなぁ。」
 魔力の安定しないさくらこはホウキを浮かせるのさえ、困難である。移動中、魔力を常時消費してしまうホウキと魔力が少ないさくらこは相性が悪い。
「おいさくらこ!急げ」
 2階の窓から声がする。マツリちゃんが手を振っている。よし。
 魔力を足に込めて、壁を駆け上がる。
「よっと、っと、っと、とぉ!」
「すっげぇな、さくらこ」
「ふっふーん」
 得意げなさくらこ。毎日毎日、あんだけボコスカやられたら、否が応でも魔力による身体強化は身につく。今のさくらこは2階くらいまでなら大抵の壁は駆け上がれる。
「さくらこ、おはよう」
「おはようアンリちゃん」
 2人ともほとんど怪我は完治しており、彼女らとの仲が深まった。最近はほとんど一生に行動していて、ほぼ無表情だったアンリも少し微笑むようになった。
「……春風って君かい?窓から登場たぁ君は余程お転婆に見えるなぁ」
 聞きなれない声だった。入口の方に目をやると、ポニーテールの青みがかった髪をもつ、ライダースーツの女性が立っていた。背丈は高く、すらりとしていた。
「前任のチャールズ先生は、家庭の都合で退職された。今日から君たちの魔法歴史学を担当するフクロだ。よろしく」
 爽やかに言った。ピッタリとしたライダースーツから分かる曲線美。中性的な声。みんなの視線を釘付けにしていた。彼女は教室をぐるりと一周しながら語り始める。
「魔法歴史学を語る上で大切なことを君たちに話しておきたい。三つある。1つ目歴史は積み重ねだ。偉大な先人たちに感謝を。2つ目。探究心を忘れるな。探し求めるものに真実が訪れる。3つ目歴史を学ぶことでより良い道を選択できる。正解はひとつではない。学ぶことで道は開かれる。それではまずは、魚人世界線についての話をしよう。いまから3つ前の世界線だ。」
 彼女はライダースーツを少し下ろし、胸の谷間から杖を取り出した。
「んな!」
 男子どもが鼻をのばしていた。あたしだってそのうち。そんなことは気にもとめずに杖を振るいフクロ教授は話始めた。彼女の杖から溢れ出したベールが教室を包む。
「…この世界樹の樹齢を知っているか?」
 突然話題が変わり、皆が顔を合わすが、答えれる者はいなかった。
「正解だ。不明だ。年輪を調べようにも、伐採が禁じられている。木の種類は?なぜ魔力を供給してくれる?誰も教えてくれない。今も尚、成長を続けるこの大樹の成長のエネルギーはどこから来ているんだろうね。」
 何故かさくらこはフクロ教授が最後のひとつを言う時にこちらを見ているきがした。
「魔法の歴史の中で新魔法が開発されたのは、最近のことだ。なぜ我々は新魔法を使うようになった?」
 すっとアンリが手を挙げた。
「大気中の魔力や、体内の魔力が枯渇してしまうからです」
「世間で言われてるのはそれだ。この星における魔力の絶対量が決まっている。こんだけ魔法人口が増えたら、大気中の魔力が無くなり、魔女からの侵略に対抗できない。ってね。だけどね。勇者がいた時代。」
 彼女が喋ろうとした時に、扉が開き、校長先生が入ってきた。ベールはたちどころに消え去り、フクロ先生は、何事もなかったように話を続けた。
「だけどね。アトランティスの古代魚人たちは、エラ呼吸と肺呼吸の両立を可能にしていたのだよ。驚くべきことにね。」

「うむ。新任の先生はどうかね。1年生諸君。フクロ教授は、世界中を旅していた考古学者だ。魔法考古学者として、フィールドワークをしていたのだが、無理を言って本校に来て貰った。当然今は、古代魚人世界線の話をしているのだろう、よく学ぶんだぞ1年生。あ、そうだ。わたしも知見を広めるために、ここに耳をおかしてもらおうかな」
「あー私の話はお忙しい校長先生に聞かせるには、少し長いかもしれませんよ」
「はははいやいや、つまらない話はするまいよ。給料は弾んでいるからね」
 校長先生は杖を一振すると、机からニョキりと耳が生えてきた。
「よし、では、アトランティスの場所を知ってるかね。みんな」
 その後は世界樹の話は出ることなく終わった。
「世界線は繰り返し、また始まりの魔女との戦いが始まるのだった……か」
 放課後さくらこは、フクロ教授の言葉を思い出してつぶやいた。
 自分の手に収まる勇者の剣を見つめる。タコさんは、今日の話で言う魚人、ということになるのだろうか。いまから、千年以上前の世界。魔女との戦いはどうだったのだろうか。分からないことばかりだ。

 放課後道場で待つことしばらく。ストレッチをし、走り込みをし、教わった動作を反復する。
「春風くん。待たせたな」
 声の主は生徒会長だった。切れ長の鋭い目がさくらこを見下ろす。
「素振りをしていたようだな。」
「今日もよろしくお願いします」
 会長が手をかざすと、刀が握られていた。
「抜け」
 桜子は手に持っていた剣をゆっくり抜いた。刀身があらわれる勇者の剣。柄や鞘はボロボロだが、刀身は美しかった。さくらこの見える景色が変わる。空中に漂うキラキラとした魔力。足下の世界樹に流れる川のような魔力の流れ。目の前の人物から溢れる穏やかながら切り刻まんとする鋭い魔力の渦。そして、全身をめぐる強化魔法。さくらこは勇者の剣を抜くことで魔力や魔法を可視化することができる。
「そろそろその剣の名前は考えたか?」
「いいえ、まだです」
 生徒会長が言うにはものに名前をつけることで、その物の力をひき上げることができるらしい。名前には言霊が宿り、その刀を強化してくれる。だが、さくらこはまだ名前をつけることができていない。良い名前が思いつかないのだ。
「私が魔法少女として変身するのは、マジカルわさび。この名前はわたしがつけた」
「?」
「春風くん、わさびの花言葉を知っているか?」
「いえ」
「『目覚め』だ。私は魔法少女として、みんなに目覚めて欲しいのだ。夢を見ている彼女らを。みんなを。だから、この刀にも『菊咲一華(きくざきいちげ)』と名付けた。花言葉は覚醒だ。…少し無駄話が過ぎたか。とにかく思いをこめろ。刀を握るたびに思い出せ。」
 来る。足元の魔力がわずかに膨れる。普通に見ただけでは、まったくきづけないほどのちいさな揺らぎ。喉元に迫る切先を後ろにジャンプすることでかわす。
「いい目だ。が、眼だけでは勝てんぞ」
 さらに一歩踏み込んでくる。からだを仰け反らしよける。体勢が傾くが、すぐに身構える。まだ次の攻撃が来る。油断出来ない。守ってばかりじゃ
「っく!どっせい!!!」
 着地と同時に片手に魔力をこめ、潜るように姿勢を低くする。勇者の剣には、魔力を斬る力がある。生徒会長に向かって駆け出し、すれ違いざまに腹に拳ふるう。
「おらあ!!」
「ほぅ。拳で来るか。…胡桃(くるみ)」
 生徒会長の腹で、拳が止まる。鈍い金属音と衝撃が響く。冷や汗が流れる。まずい。
「ぐぅっ。っつ、らああ」
 逆手に持ち替えた剣を振るう。が、それも止まる。
「迷いのある剣でわたしは切れないよ。まったく、まるで君はイノシシだな。ふふ、わたしの腹は鉄でできてるのさ。」
 この距離は完全に会長の距離だ。
「戦いの最中に仰け反るのは良くないな。体勢を崩すことは隙を与えることにつながる。あと、剣を振るうのにまだ抵抗があるようだな。わたしのほうが段位も経験も実力もはるかに上だというのに。まぁ、しかたないか。さて、次は君の番だ。魔力で防御を固めるんだ。」
「ひっ、な、何をなさるので」
「防御訓練だ。大丈夫。刀は使わない。」
 指を鳴らし笑顔でさくらこを見下ろす。
「お、お手柔らかに」
 案の定ボコボコにされた。
「魔力による身体強化はまずまずだな。」
「ヴぁい」
 あまりにもボコボコにされて、上手く喋れない。
「くくく、ヴぁい。くくく、いや、すまない。おもしろくてな。どうやったら、そんな、くくく」
 あんたのせいだよ!
 なんか生徒会長はじめとだいぶ印象が違うな。近寄り難い雰囲気と思ったけど案外フランクなのか?
「わたし、強くなれますか」
「どうして、そんなことを聞く」
「だって」
「……ふむ。」
 会長は少し考えていった。
「剣を人に向けることに抵抗を感じるのはわるいことではない。むしろ人として当然の感覚だ。」
「……はい」
「だが、戦わないといけないこともある。自分や大切なものが危機に陥ったとき、君はどうする。指をくわえて見ているのか、泣いてことが済むのを待つのか。わたしは、否だ。変えられる結果があるのなら、わたしは最善を尽くしたい。」
「最善」
「魔法少女見習いの君は、魔女を倒せと言われている。世界にとっての最善はそうだ。だが、君にとっての最善はなんだ。君を狙うやつらは君だけを狙う訳では無い。時に卑怯な手を使うかもしれない。君自身や君を守るための力が必要な時がくる。」
 さくらこの頭に傷ついた友達やタコさんのことがよぎる。さくらこは剣を握りしめる。
「もう一本お願いします」
「ふふ、今度は油断しないほうが良さそうだな」

「ふぅ。身体強化はだいぶ様になってきたな。剣術も基礎は叩き込んだ。そろそろ、魔力を伴った魔剣術に移りたいが」
「ふぁ、ふぁい」
 疲労困憊のさくらこを見て、会長はしかたない、と、ため息をついた。
「それはまた今度にするか」
 彼女はカバンから取り出した購買のパンをさくらこにわたした。
「いつも、あ、ありがとうございます」
「さっさと食べるんだ。フラフラだろう。全員が寮生活になって、通学しなくてよいとはいえ、寮まで歩く。エネルギー補給して行くんだ」
 もぐもぐと食べ終わることを見届けてから、会長は帰ることを促してくれた。
 さくらこを見送ったあと、通信魔法をいれる。
「こちら、マジカルわさび。校長先生今日の魔法少女見習いの訓練終了しました。やはり、勇者の魔法が足かせになって、私の魔法剣術の習得はなかなか難しいと思われます。マジカルブラッドのような召喚魔法も不調で、勇者の剣の取り出しと収納くらいしかできてないみたいです。」
「ご苦労。この2ヶ月の訓練でわかったことがいくつかある。体の内部に働きかける身体強化魔法、この辺は習得可能だ。体内の属性付与される前の魔力なら利用可能のようだ。やはり勇者の魔法の肝である対魔法の性質があるから、習得するための魔法は厳選しないといけないな。魔法と言うのは、自分の魔力と周囲の魔力を混ぜ合わせて発動する。自分の魔力だけだと、出力がたりない。そういったことをクリアするために新魔法の仕組みを作ってきたのだが、彼女は例外になりそうだ。となると、やはり勇者のオリジナルを習得しないとやっていけないか。」
「しかし……」
「ああ現在、勇者の魔法を知っているものは少なく、扱えるものは皆無だ。過去の世界線まで遡らないと勇者の魔法の記録は無い。まぁこの辺のことを研究しているフクロ=ティアンを学校に招いたのは正解だったな。元は冒険家、扱いにくい人間ではあるが、春風さくらこのことを知れば乗ってくるだろう。彼女の研究は個人の趣味と公言している位世間には知られていない。そもそも普通の考古学ではなくて、世界が崩壊する前に起こったことを研究する世界線考古学はオカルトじみたものであり、亜人の存在がなければ、世界線の研究そのものが妄想の類だと思われていたんだ。」
「協力は得られそうですか?」
「さてなぁ。彼女がこの学園に来たのは、世界樹の研究をするためだ。おそらくな。だが、それはこの世界じゃ禁止されてる。何を知りたいかは知らないがしっぽを出すまで泳がせておくさ。お前たちは引き続き春風を鍛えてくれ。ラボの連中はここのところ元の低コストの怪人を送り込むことしているが、油断はできない。この間のやつみたいに過去の世界線のDNAを使った強力な怪人を呼び起こす可能性がある。奴らが何体過去のサンプルを持っているのか、一体だけじゃないだろう。こちらもできるだけ準備をしておく。じゃあマジカルわさび。今日も特訓いってみよーか。いつも通り100人切りか?」
「後輩が健気に頑張ってるんだ。倍でお願いします。」
「ははっ!いいね」
 彼女の周りに武装した黒いゴム人形が現れる。
「いくぞ」


 そんな様子を世界樹に登り双眼鏡で覗くものが1人いた。
 棒状のレーションをさくさくと食べながら、嵐のような剣技に見蕩れる。人影が次々に切り倒されて行く。
「ひゃあ、さすが噂に名高い雷牙だな。あいつ第一魔法学校でもやってけんじゃないか?」
 フクロは黒いライダースーツに黒い目隠し帽をかぶり闇に同化していた。
「身体強化に剣の技術。魔法剣も使え、さらには世界樹のバフがあるとなると。相手にしたくはないなぁ」
 世界樹の枝に広げていた道具を片付けはじめる。何かの計器や、シャーレ、瓶の中には切って細かくされた世界樹の葉が入っていた。またなぜか徳利とお猪口。それらがアルコールの匂いを漂わせていた。徳利以外のものを箱のようなかばんに詰め込み、最後にくしゃっとレーションの入っていた袋を丸め握る。開いたときには、袋は砂のようになっていた。
「さて、何秒で現れるかな」
「貴様、なにをしている、……フクロ教授?」
 目の前に転移魔法で、警備員が2人現れる。
「わぉ、警備員さん。杖下ろしてくれよ。眩しいっての。いやぁ、ここで月見酒でもしようとしたらね。絶景でね。毎日子どもたちの相手してると静かな空間にいたくなってね。警備員さんもいっぱいどぉ?いまなら熱燗あるけど」
 警備員たちは呆れた顔でこちらを見ていた。
「フクロ先生、この時間は外出禁止ですし、世界樹の近くでの個人の魔法は厳禁です。火属性の魔法使ってたでしょ。燃えたらどうするんですか」
「ああそうなの?ごめんごめん。あたし長らく外の世界にいたからさ。」
 彼女は頭をかきながら照れたように言った。
「お酒飲んでるなら、危ないんで我々が送りますね。あと、世界樹の葉をお皿替わりにしないで下さいね。始末書レベルですよ!」
「あははは物資が足りないのは日常茶飯事で、使えるもの使わないと」
「やめてくださいよ。我々も校長先生に叱られてしまうんですから」
 転送魔法を準備する様子をみながらフクロはつぶやく。
「……30秒、属性まで感知、校長直属。個人で転移魔法つかえる。怪人に突破されたらしいが、十分優秀だな」
「なにかいいましたか?」
「いんや、ありがとうね警備員さん。色々教えてくれて。お礼を言いたかっただけ」
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