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第2章魔法少女見習いと大海の怪物
アロハのおっさん
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午前中の授業が中止になり、放送がかかる。
「教職員の先生方は、至急職員室に集まってください。」
クマ先生も例外ではなく。
「……。魔法体育はここでおわる。各自それぞれのホームルームクラスに行って自習だ。ワルス。お前も来なさい。」
「え、あ、ああ……」
なにかとロック教諭につっかかる彼だったが、今日は大人しい。なにやら顔色も悪い。
「あいつ、どうしたんだ」
「さぁ」
するとさくらこの杖がぷるぷると震える。杖の先の水晶玉に文字が浮かぶ。魔法少女各員は至急職員室へ
と。
「ごめんマツリちゃん、アンリちゃん、ちょっといってくる!」
職員室の入り口に見知らぬ中年の男が立っていた。丸く黒いサングラスをかけて、派手なシャツをそのまま素肌の上に羽織っている。すごくラフな格好だった。中年ながらも身体は鍛えているようで、浅黒い肌は腹筋も割れていた。桜子に気づくとひらひらと手を振って言葉を交わした。整った歯はやけに白く、彼は爽やかに笑顔を振りまいた。
「YAH YAH YAHお嬢さん、こんにちは。職員室に用があってね。ただ誰も出てこないんだよ。中の音も聞こえない。呼ばれて来たってのに、よぉ。全く困ったもんだぜ。せっかくおしゃれしてきたのにさ。アロハシャツって言う古代の服らしいぜ。イカしてるだろ?」
「え、えっと、はい。」
戸惑うさくらこをよそに彼は会話を続ける。
「君は1年生さんかな。水晶の色がまだまだ薄いね。もっとしっかり勉強して、将来この街の役に立ってくれよ。HAHAHA」
「は、はぁ」
たしかに職員室は固く閉ざされ、中の音は全く聞こえない。これは魔法のようだ。正直剣を使うこともできるが、よしておこう。物騒だし。
「防音魔法まで掛けてるなら、どうやって中に……えっとおじさんは誰か先生をお待ちなんですか」
「うん?HAHAHA!おじさんなんて初めて言われたね。君は私が誰なのか分からないのかい?とってもフレンドリーなお嬢さん」
フレンドリーなのはあんただよって、いいたい気持ちを飲み込んでさくらこは、困ってしまう。
「はい、すみません。あ、お兄さん?」
誰か保護者なのだろうか。しばらく沈黙があり、冗談では無いということがわかったようで。おじさんは目をパチクリさせて言った。
「HAHAHA!悪かった悪かった。困らせるつもりはなかったんだ。謝罪するよ。こんなことはなかったな。まだまだ、頑張らねばならないみたいだ。知名度は大事だからな。広報活動に力を入れないと行けないみたいだ!HAHAHA。帰ったら検討しよう。なに。校長先生に用があってね」
がらりと扉が開き、中からメガネをかけた小柄の教頭先生が現れた。
「だれだ、さっきから、静かにしなさい!!あ、す、すみません、気づかず、さ、さ、こちらに。うちの生徒がなにか粗相はしませんでしたか?」
あの教頭先生がペコペコしてる。
「えっと……すみま、せん」
「いやいや、気にしないでくれ。楽しく話をさせてもらったよHAHAHA。きみは私をアロハのおじさんとでも呼んでくれHAHAHA!」
「そ、そんな滅相もない。教育しておきますので何卒」
教頭先生は驚いた様子で額の汗をせわしなく拭きながら、その男の人を中に連れて行った。
「お嬢さん。また会うかもしれないから、その時にはしっかり力をつけておくんだよ。see.you」
「……なんて言うか。変わった人だったな」
さくらこが呟くと、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「さくらこちゃん。こっちこっち」
手招きをしてるのは、生徒会の面々。
「あ、先輩!」
「シーっ!」
「?」
彼女らについて行くと、ドアがある。
こんな場所にドアなんてあったっけ。職員室と校長室の間にちいさなドア。
「静かに入れよ。中は狭いんだから」
手を引かれるまま中に入るとそこには、ちいさな部屋があった。4人が入るとギリギリの大きさだ。
「お前たちも聞くようにとの先生の指示だ。」
会長が指を立てると、校長室側の壁が透ける。
「わ!」
「バカ!」
「……す、すみません」
会長が紙をわたす。
「防音はされてるが完璧じゃない。剣は使うなよ。我々が壁に閉じ込められるからな。」
剣を使う必要ないのになんでそんなことを言ったのだろうか。
校長室の中は重たい空気が流れていた。そこにいたのは、先生たちに、あのいけ好かないワルスだった。彼は先ほどのおじさんの横に座り、小さくなっていた。いつもの自信満々の顔はなく青白く怯えているようだった。あとは、教頭先生。校長先生は居ないようだった。
「yeh!で、だ。」
一息つくと、
「……うちの息子が、行方不明って話は悪い冗談って訳じゃあねーのか」
「残念ながら」
お兄さんなのだろう。面識はないのだが。
「HAHAHA!残念ながら!なぁ、おいどういうことだ!」
彼はかなり怒っているようだった。机に拳を叩きつけ、横にいたバロスも動揺しているようだった。
「なんで、死体がないんだ。弔ってやることもできない」
「ま、まだ亡くなったと決まった訳ではありません。救助の準備をしておりますし、魔法少女の協力も取り付けます」
「救助?なんで?」
彼はキョトンとした。その反応に周りは慌てる。
「え、いや、え?」
事もなげに彼は言う。
「たった1人の人間を助けるために大勢を危険に晒す訳にはいかないだろ?このマジブロッサムの外での行方不明。危険地域に人員を割く訳にはいかない。ましてや、貴重な魔法少女を使うなんて言語道断!」
机を叩く。凄く違和感を感じる。不気味ですらある。
「ご子息は」
「HAHAHA大丈夫!わたしは彼を信じている。」
父親はとなりに座っていたワロスの肩を叩く。
「予備がある」
その一言に絶句した。
なんだこいつは、本当に親なのか。人間なのか。ワルスのことが気の毒になった。あの自慢している姿からは想像できない歪な父親。さくらこは頭に来ていた。気がついたら、剣に手をかけているが、それは、ミナトに制される。
「ん?」
父親は、さくらこたちのいる空間を凝視した。
「さくらこ!落ち着け」
その時にガチャりとドアが開く。
「よぉ!わりぃな。レオナルド!待たせたな」
「HAHAHA!ガリレオ!なんかわるいな。息子のために。話はついた。帰るぞ」
なんにも話はついていない。見捨てられた長男と、引きつった表情の次男。絶句する教師陣に、校長は目をやり、ため息をついた。
「あたしが来るまでは待ってろって言ったんだけどな!なぁ!教頭先生」
「あ、え、と、すみません。」
「ったく。済まなかったな。ことの次第は聞いてる。市長として、息子を見捨てる姿は見せるべきじゃあ無いぜ。子どもの死は支持率に響くだろう」
「ふむ。なるほど、そういうものか」
「ああ。3日ほど救出作業して、帰ってきたらいいのさ。即断で見捨てましたよりは、いいはずさ。英雄ならそうするべきだ。」
「なるほど!いいアイデアだな!わかった!君がいうのなら、そうなんだろう。救助の手筈はまかせる。おい、行くぞ。」
グイっとバロスを引っ張りあげる。
「ま、待って。父上。兄様を助けるために来たんじゃ?」
それまで黙っていたワルスは思い切って話しかける。
「何を不思議なことをワロス家の長男はそんなことをいわないぞ、こいつめ」
彼が息子をデコピンすると、その衝撃に仰け反り、彼は額から血を流し、気を失った。
「お、っと大変だ。全く最近のは、脆くて困る。」
「おい、子どもだぞ」
ベアーズが歯をむきだしにして、唸る。掴みかかろうとする彼を必死に周りの先生が食い止めていた。
「子ども?あぁ、俺のな。お前に言われなくても分かっているさ。HAHAHA!」
アロハシャツの男は笑い飛ばした。
小脇に抱えられ校長室を後にする市長。連れていかれるワルス。額から血を流している。
「待って」
さくらこは秘密の部屋を飛び出した。
「おいさくらこ」
制止する声を後ろに、さくらこはおじさんの後ろから声をかける。
「アロハのお、おじさん。ワルス、君、をどこに連れていくんですか?頭から血が出てる!医務室に行かないと!」
アロハシャツのおじさんはゆっくりと振り向く。初めは不思議そうな顔をしていたが、彼はにかっと笑い。
「HAHAHA!またあったね!こいつが寮で滑って転んだらしくてな。いまから病院に行くところなんだ!大事な1人息子なんだ」
「学校にも保健室の先生がいますよ!」
「うん!だけど、わたしの大事な一人息子なんだ。万全を期すために、わたしの直属の医師に見せたくてねー。」
「え、えっと」
引き止めるのは不自然だ。
「また、会えますよね。ワルス君と」
彼のことは良くは思っていない。だけど、先ほどの彼の表情が脳裏にこびり付いて離れない。
「……君は息子のなんだ?」
この人の笑顔は空っぽだ。感情がない張り付いた笑顔でこちらを観察している。怖い怖い怖い怖い怖い怖い!友達、ではない。嫌がらせしてきたし。クマ先生や友達、私を侮辱した。でも。このまま行かせる訳には。知り合いだと、理由としては弱い、か。だったら
「ラ、ライバルです!!!いつか、彼を倒します。」
あ、いや、倒しちゃダメか。何言ってんだわたし。
「ライバル?」
張り付いていた笑顔が解け真顔で凝視する市長。
「コレにライバル。君みたいなのが」
「はい」
桜子の瞳には怒りが写っていた。
「君が何にそんなにたくさん怒っているのかをわからないが、力がない人間が何を言っても現実は覆らないよ。君自身がそんなに弱いのに。ただ叫ぶだけでは誰も救えない。言いたいことがあるのなら成果を出していいたまえ。またね。ライバルのおじょーちゃん」
「さよなら、アロハのおじさん」
彼の背中を見ながらさくらこは歯噛みした。
「おいおいさくらこどうしちゃったんだよ。お前あいつのこと好きじゃないんじゃないか?」
「そんなんじゃないんだよ。家族はそうであるべきではないんだよ。あったかいもんなんだよ。」
「さくらこ?」
「ミナト先輩私お兄さんを探してくる。」
「おい、春風もどれ」
「……」
さくらこは無言で頭を下げ、かけだした。
市長は転移の魔法を2度使い、馬車止めの施設に向かう。遠い昔に切り落とされた広い幹の上だ。
空中に浮かぶ馬車、翼の生えた馬がそれを引いている。
「春風……ね。まさか、その名を聞くとは。」
彼は息子を雑に投げ込み、しばらくして異変に気づく。馬車が急に止まり動かない。
「HAHAHA大丈夫かい?」
「ガセかと思えばほんとにいやがる。あんな公共の場で護衛もつけずにどこに行かれるので、市長。参観日ですか」
杖を構えた青年が現れる。フードとマスクで顔をかくしている。
「HAHAHAなんで僕よりも弱い人間に護衛してもらわなければならないんだ。君だれ?」
「あんたに恨みを持つ人間の1人さぁ。杖は使うなよ。お前の息子が消しとぶぞ」
「それは困る。あと1個しかない」
「1個?何を言って。馬鹿なのか?人間は1人2人って数えるんだぜ。なぁ、やっちまえ」
目の前にいたはずの中年の男はその姿を消した。
襲撃者は無線を手に取り状況を確認する。ターゲットはどこに行った?
「お前はもう狙撃したのか。」
無線で呼びかける。無線から聞こえてきた声は先ほど話していた男とそっくりだった。
「君は声をかけるべきではなかったんだ。やっちまえなんて、そんなことを言ったら、複数敵がいるに決まってるじゃないか。奇襲の意味が無い。時間稼ぎのつもりだったらもう少し別の方法を考えるべきだったね。HAHAHA無能な指揮官は味方を殺すんだよ。マジでさぁ」
無線の先から聞こえてきたのは、先程まで話していた男の声だった。
「なんでそこにいるんだ。そこはここから1キロ以上離れた場所なんだぞ。おい!ミラは!ジャックは!無事なんだろうな!!」
「無事なわけないじゃないか。ちゃんと殺してるよ。」
「てめえ!化け物め」
人を化け物扱いするなんてひどいじゃないか。こんなにも人間なのに
その声は男の後ろから聞こえた。吐息を感じるほど近くに奥歯がカチカチとなる音が響く。
「HAHAHA」
彼の耳に残る最後の音となった。
「教職員の先生方は、至急職員室に集まってください。」
クマ先生も例外ではなく。
「……。魔法体育はここでおわる。各自それぞれのホームルームクラスに行って自習だ。ワルス。お前も来なさい。」
「え、あ、ああ……」
なにかとロック教諭につっかかる彼だったが、今日は大人しい。なにやら顔色も悪い。
「あいつ、どうしたんだ」
「さぁ」
するとさくらこの杖がぷるぷると震える。杖の先の水晶玉に文字が浮かぶ。魔法少女各員は至急職員室へ
と。
「ごめんマツリちゃん、アンリちゃん、ちょっといってくる!」
職員室の入り口に見知らぬ中年の男が立っていた。丸く黒いサングラスをかけて、派手なシャツをそのまま素肌の上に羽織っている。すごくラフな格好だった。中年ながらも身体は鍛えているようで、浅黒い肌は腹筋も割れていた。桜子に気づくとひらひらと手を振って言葉を交わした。整った歯はやけに白く、彼は爽やかに笑顔を振りまいた。
「YAH YAH YAHお嬢さん、こんにちは。職員室に用があってね。ただ誰も出てこないんだよ。中の音も聞こえない。呼ばれて来たってのに、よぉ。全く困ったもんだぜ。せっかくおしゃれしてきたのにさ。アロハシャツって言う古代の服らしいぜ。イカしてるだろ?」
「え、えっと、はい。」
戸惑うさくらこをよそに彼は会話を続ける。
「君は1年生さんかな。水晶の色がまだまだ薄いね。もっとしっかり勉強して、将来この街の役に立ってくれよ。HAHAHA」
「は、はぁ」
たしかに職員室は固く閉ざされ、中の音は全く聞こえない。これは魔法のようだ。正直剣を使うこともできるが、よしておこう。物騒だし。
「防音魔法まで掛けてるなら、どうやって中に……えっとおじさんは誰か先生をお待ちなんですか」
「うん?HAHAHA!おじさんなんて初めて言われたね。君は私が誰なのか分からないのかい?とってもフレンドリーなお嬢さん」
フレンドリーなのはあんただよって、いいたい気持ちを飲み込んでさくらこは、困ってしまう。
「はい、すみません。あ、お兄さん?」
誰か保護者なのだろうか。しばらく沈黙があり、冗談では無いということがわかったようで。おじさんは目をパチクリさせて言った。
「HAHAHA!悪かった悪かった。困らせるつもりはなかったんだ。謝罪するよ。こんなことはなかったな。まだまだ、頑張らねばならないみたいだ。知名度は大事だからな。広報活動に力を入れないと行けないみたいだ!HAHAHA。帰ったら検討しよう。なに。校長先生に用があってね」
がらりと扉が開き、中からメガネをかけた小柄の教頭先生が現れた。
「だれだ、さっきから、静かにしなさい!!あ、す、すみません、気づかず、さ、さ、こちらに。うちの生徒がなにか粗相はしませんでしたか?」
あの教頭先生がペコペコしてる。
「えっと……すみま、せん」
「いやいや、気にしないでくれ。楽しく話をさせてもらったよHAHAHA。きみは私をアロハのおじさんとでも呼んでくれHAHAHA!」
「そ、そんな滅相もない。教育しておきますので何卒」
教頭先生は驚いた様子で額の汗をせわしなく拭きながら、その男の人を中に連れて行った。
「お嬢さん。また会うかもしれないから、その時にはしっかり力をつけておくんだよ。see.you」
「……なんて言うか。変わった人だったな」
さくらこが呟くと、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「さくらこちゃん。こっちこっち」
手招きをしてるのは、生徒会の面々。
「あ、先輩!」
「シーっ!」
「?」
彼女らについて行くと、ドアがある。
こんな場所にドアなんてあったっけ。職員室と校長室の間にちいさなドア。
「静かに入れよ。中は狭いんだから」
手を引かれるまま中に入るとそこには、ちいさな部屋があった。4人が入るとギリギリの大きさだ。
「お前たちも聞くようにとの先生の指示だ。」
会長が指を立てると、校長室側の壁が透ける。
「わ!」
「バカ!」
「……す、すみません」
会長が紙をわたす。
「防音はされてるが完璧じゃない。剣は使うなよ。我々が壁に閉じ込められるからな。」
剣を使う必要ないのになんでそんなことを言ったのだろうか。
校長室の中は重たい空気が流れていた。そこにいたのは、先生たちに、あのいけ好かないワルスだった。彼は先ほどのおじさんの横に座り、小さくなっていた。いつもの自信満々の顔はなく青白く怯えているようだった。あとは、教頭先生。校長先生は居ないようだった。
「yeh!で、だ。」
一息つくと、
「……うちの息子が、行方不明って話は悪い冗談って訳じゃあねーのか」
「残念ながら」
お兄さんなのだろう。面識はないのだが。
「HAHAHA!残念ながら!なぁ、おいどういうことだ!」
彼はかなり怒っているようだった。机に拳を叩きつけ、横にいたバロスも動揺しているようだった。
「なんで、死体がないんだ。弔ってやることもできない」
「ま、まだ亡くなったと決まった訳ではありません。救助の準備をしておりますし、魔法少女の協力も取り付けます」
「救助?なんで?」
彼はキョトンとした。その反応に周りは慌てる。
「え、いや、え?」
事もなげに彼は言う。
「たった1人の人間を助けるために大勢を危険に晒す訳にはいかないだろ?このマジブロッサムの外での行方不明。危険地域に人員を割く訳にはいかない。ましてや、貴重な魔法少女を使うなんて言語道断!」
机を叩く。凄く違和感を感じる。不気味ですらある。
「ご子息は」
「HAHAHA大丈夫!わたしは彼を信じている。」
父親はとなりに座っていたワロスの肩を叩く。
「予備がある」
その一言に絶句した。
なんだこいつは、本当に親なのか。人間なのか。ワルスのことが気の毒になった。あの自慢している姿からは想像できない歪な父親。さくらこは頭に来ていた。気がついたら、剣に手をかけているが、それは、ミナトに制される。
「ん?」
父親は、さくらこたちのいる空間を凝視した。
「さくらこ!落ち着け」
その時にガチャりとドアが開く。
「よぉ!わりぃな。レオナルド!待たせたな」
「HAHAHA!ガリレオ!なんかわるいな。息子のために。話はついた。帰るぞ」
なんにも話はついていない。見捨てられた長男と、引きつった表情の次男。絶句する教師陣に、校長は目をやり、ため息をついた。
「あたしが来るまでは待ってろって言ったんだけどな!なぁ!教頭先生」
「あ、え、と、すみません。」
「ったく。済まなかったな。ことの次第は聞いてる。市長として、息子を見捨てる姿は見せるべきじゃあ無いぜ。子どもの死は支持率に響くだろう」
「ふむ。なるほど、そういうものか」
「ああ。3日ほど救出作業して、帰ってきたらいいのさ。即断で見捨てましたよりは、いいはずさ。英雄ならそうするべきだ。」
「なるほど!いいアイデアだな!わかった!君がいうのなら、そうなんだろう。救助の手筈はまかせる。おい、行くぞ。」
グイっとバロスを引っ張りあげる。
「ま、待って。父上。兄様を助けるために来たんじゃ?」
それまで黙っていたワルスは思い切って話しかける。
「何を不思議なことをワロス家の長男はそんなことをいわないぞ、こいつめ」
彼が息子をデコピンすると、その衝撃に仰け反り、彼は額から血を流し、気を失った。
「お、っと大変だ。全く最近のは、脆くて困る。」
「おい、子どもだぞ」
ベアーズが歯をむきだしにして、唸る。掴みかかろうとする彼を必死に周りの先生が食い止めていた。
「子ども?あぁ、俺のな。お前に言われなくても分かっているさ。HAHAHA!」
アロハシャツの男は笑い飛ばした。
小脇に抱えられ校長室を後にする市長。連れていかれるワルス。額から血を流している。
「待って」
さくらこは秘密の部屋を飛び出した。
「おいさくらこ」
制止する声を後ろに、さくらこはおじさんの後ろから声をかける。
「アロハのお、おじさん。ワルス、君、をどこに連れていくんですか?頭から血が出てる!医務室に行かないと!」
アロハシャツのおじさんはゆっくりと振り向く。初めは不思議そうな顔をしていたが、彼はにかっと笑い。
「HAHAHA!またあったね!こいつが寮で滑って転んだらしくてな。いまから病院に行くところなんだ!大事な1人息子なんだ」
「学校にも保健室の先生がいますよ!」
「うん!だけど、わたしの大事な一人息子なんだ。万全を期すために、わたしの直属の医師に見せたくてねー。」
「え、えっと」
引き止めるのは不自然だ。
「また、会えますよね。ワルス君と」
彼のことは良くは思っていない。だけど、先ほどの彼の表情が脳裏にこびり付いて離れない。
「……君は息子のなんだ?」
この人の笑顔は空っぽだ。感情がない張り付いた笑顔でこちらを観察している。怖い怖い怖い怖い怖い怖い!友達、ではない。嫌がらせしてきたし。クマ先生や友達、私を侮辱した。でも。このまま行かせる訳には。知り合いだと、理由としては弱い、か。だったら
「ラ、ライバルです!!!いつか、彼を倒します。」
あ、いや、倒しちゃダメか。何言ってんだわたし。
「ライバル?」
張り付いていた笑顔が解け真顔で凝視する市長。
「コレにライバル。君みたいなのが」
「はい」
桜子の瞳には怒りが写っていた。
「君が何にそんなにたくさん怒っているのかをわからないが、力がない人間が何を言っても現実は覆らないよ。君自身がそんなに弱いのに。ただ叫ぶだけでは誰も救えない。言いたいことがあるのなら成果を出していいたまえ。またね。ライバルのおじょーちゃん」
「さよなら、アロハのおじさん」
彼の背中を見ながらさくらこは歯噛みした。
「おいおいさくらこどうしちゃったんだよ。お前あいつのこと好きじゃないんじゃないか?」
「そんなんじゃないんだよ。家族はそうであるべきではないんだよ。あったかいもんなんだよ。」
「さくらこ?」
「ミナト先輩私お兄さんを探してくる。」
「おい、春風もどれ」
「……」
さくらこは無言で頭を下げ、かけだした。
市長は転移の魔法を2度使い、馬車止めの施設に向かう。遠い昔に切り落とされた広い幹の上だ。
空中に浮かぶ馬車、翼の生えた馬がそれを引いている。
「春風……ね。まさか、その名を聞くとは。」
彼は息子を雑に投げ込み、しばらくして異変に気づく。馬車が急に止まり動かない。
「HAHAHA大丈夫かい?」
「ガセかと思えばほんとにいやがる。あんな公共の場で護衛もつけずにどこに行かれるので、市長。参観日ですか」
杖を構えた青年が現れる。フードとマスクで顔をかくしている。
「HAHAHAなんで僕よりも弱い人間に護衛してもらわなければならないんだ。君だれ?」
「あんたに恨みを持つ人間の1人さぁ。杖は使うなよ。お前の息子が消しとぶぞ」
「それは困る。あと1個しかない」
「1個?何を言って。馬鹿なのか?人間は1人2人って数えるんだぜ。なぁ、やっちまえ」
目の前にいたはずの中年の男はその姿を消した。
襲撃者は無線を手に取り状況を確認する。ターゲットはどこに行った?
「お前はもう狙撃したのか。」
無線で呼びかける。無線から聞こえてきた声は先ほど話していた男とそっくりだった。
「君は声をかけるべきではなかったんだ。やっちまえなんて、そんなことを言ったら、複数敵がいるに決まってるじゃないか。奇襲の意味が無い。時間稼ぎのつもりだったらもう少し別の方法を考えるべきだったね。HAHAHA無能な指揮官は味方を殺すんだよ。マジでさぁ」
無線の先から聞こえてきたのは、先程まで話していた男の声だった。
「なんでそこにいるんだ。そこはここから1キロ以上離れた場所なんだぞ。おい!ミラは!ジャックは!無事なんだろうな!!」
「無事なわけないじゃないか。ちゃんと殺してるよ。」
「てめえ!化け物め」
人を化け物扱いするなんてひどいじゃないか。こんなにも人間なのに
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