緋色の魔王(α)と暴君王子(α)の寵愛は愛に飢えた僕(Ω)を離してくれない

子犬一 はぁて

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さようなら、僕の魔王様

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「忘れ物はないかい?」

 ジスの最終確認で、僕は背負ったリュックの中身を確認する。中には、飲水と、ライアが作ってくれた弁当が入っている。唐揚げときんぴらごぼうと、ちくわのチーズ入りだ。

 メビウスとライアはそんな僕のことを心配そうに眺めている。

 天上の国へ行くには、城の3階にある煙突から入るのだという。以前、城内を散策していた時には気づかなかった隠し扉があるらしい。ジスはその扉を引くと、僕をその中に閉じ込めた。ここが、最後の会話になると思う。そう思ったら、目に溢れるばかりの水滴が、ジスの羽織を濡らす。

「短い間だったが……阿月のことを深く知れたような気がする」

 僕の肩をひし、と抱きとめながらジスは。

「感謝している」

 ちゅ、と額に口付けをされた。

 ああ、ほんとうにさよならなんだ。

「そんなに頬を濡らすほど、寂しいのかい?」

 くすくす、と頭上から降ってくる笑い声。僕はコクンと頷く。

「そんな泣き虫の阿月にこれを託そう」

「え?」

 首の後ろに手を回される。シャラン、と胸元の飾りが。ジスが僕にネックレスをつけてくれた。飾りは先端が尖っている。まさか、これは。

「わたしの角を少しばかり砕いて、メビウスが作ってくれたお守りのネックレスだよ」

「えっ。い、痛くなかった?」

 ふふ、とジスは微笑むだけ。

「痛くはないさ。阿月のためなら」

「ジス……」

「この角のネックレスには、わたしの念をしっかりと込めておいたから。ライアとメビウスもしっかり念を込めていたよ。3人からのお守りだ」

「ありがとう……みんな」

 僕は最後ばかりはと、自分からジスの唇にキスを届けた。ぎゅ、と抱擁してもらい寂しさを満たす。

「ああ。行かせたくないものだな」

 僕はひとつだけ気になっていることをジスに問いかける。

「僕を召喚した条件はオメガということ以外に何かあるの?」

「ああ。召喚の条件は……心が美しい者を選んだ」

「……そっか」

 僕の心は美しいと、ジスが思ってくれたんだ。嬉しいな……。冥界に来る前の1度目のオメガの人生が少し報われた気がする。

 僕は決意を胸にジスに伝える。

「大丈夫。すぐにシュカ王子の世継ぎを産んで、赤ちゃんが1歳の誕生日を迎える頃に冥界へ連れ帰るよ。だいたい1年くらいの辛抱だ、っよ……」

 言いながら、涙が止まらない。

 僕はこれから暴君王子に抱かれ、子どもを産む器になりに行くのだ。

 願わくば、ジスの赤ちゃんを産みたかったな……。

 そんな僕のささやかな願いは誰にも届かない。

「冥界にはどうやって帰るの?」

「その角のネックレスを使うことになるから、大切に持っていてくれ。詳しいことはその時に伝える」

「えっ……伝えるってどうやって……」

 焦る僕を微笑みの中に閉じ込めて、ジスは

「さあ。おゆき」

「わっ」

 突如、下から突風が吹き始める。ジスは数歩後ろに下がりその様子を見ている。そうして、何かを唱え始めた。人語ではないからわからない。

「阿月。待っているよ。皆で、このテルー城で」

 僕は風に煽られ、目を細めながらジスを見つめる。しっかりと、瞼の裏に焼き付けるようにして。

「ジス。いってきます」

 ビュー、という竜巻に僕の身体を持ち上げられる。そのまままっすぐ城の煙突の上に持ち上げられた。さらに下から強い力を感じると、僕の身体は冥界の空に投げられて、意識がじぃんとぼやけていく。更に背中を押す突風。あまりの風の強さに目を開けることができなくなり、閉じたまま僕は意識を失った。

 ジスがくれた角のネックレスを強く手に握りしめて。
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