緋色の魔王(α)と暴君王子(α)の寵愛は愛に飢えた僕(Ω)を離してくれない

子犬一 はぁて

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桜を見たシュカ王子(2)

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 僕は桜が礼を重んじて額を下げている姿に、いつしかの僕を見つけた。

 そうだ。僕も最初は王子様と聞いて、身分が高いだろうからと礼儀に慎重になっていた。

「シュカ王子。どうかご理解ください。母上は決してわたしとシュカ王子を裏切るようなことはしておりません。わたしは、魔王・ジスよりフォリーヌ王国の政治を改革するために産まれました。本日より、正式なシュカ王子の世継ぎとしてこの国のために貢献していきたく思っています」

「……桜。こんなに立派になったのか。ああ、もう再会できて嬉しいやら、驚きやらで頭が発熱しそうだ……」

 シュカ王子は珍しく参っている様子だ。それも無理はないだろう。僕だって、桜を産む前まであんなに何日も困惑したんだもの。それをたった今この瞬間で理解して受け容れるなんてこと……。

「……まあいい。阿月と、桜が無事なら……。だが、これだけは主張したい。その魔王・ジスとやらに会って話したいことがある。桜の従者にはきなこを付けよう。おい、きなこ!」

「さ、桜くん……! あちゅきしゃまあ!」

 涙でぐちょぐちょの顔できなこくんが姿を現す。子どものように泣きじゃくっている。

「きなこさん。どうぞご指導をお願いします」

「桜くん……きなこさんだなんて、きなこって呼んでよ! わあ、大きくなって……」

 まるで兄弟を見つめるかのようなきなこくんの視線に安心する。相当心配してくれていた様子だ。少し痩せこけた印象がある。僕と桜が連れ去られて、17日間寝食もままならなかったのかもしれない。

 きなこくんに連れられ、桜は王宮の中に入っていった。

 シュカ王子と僕だけが夕陽の差し込む中庭に残る。王子は人払いをさせて、守備衛兵を下がらせた。僕と2人きり。一体何を話されるのだろう。

「阿月……魔王・ジスに会わせてくれ。直接、話したいことがある」

「……わかった。でも、その前に1つ聞かせて」

「なんだ?」

 震える声でシュカ王子に問う。

「幻滅した? 僕のこと軽蔑するよね。だって、こんなに身勝手に生きて、桜の成長の過程もシュカ王子に見せることができなくてっ……僕は最低の母親だ。本当にごめんなさい」

 沈黙が今は痛くてたまらない。いっそ、殴ってほしいくらいだ。そうでもしなければ、僕の罪悪感は払拭できない。

 くくく、と不意に王子が笑い出した。 

「な、なにっ!? 笑うようなこと言ってないよ」

「違う。阿月がずっと、困り眉だからかわいくてな……すまない。笑うつもりではなくて、俺は安心して笑ってるんだ。お前と桜の行方がわからなくなって17日間。まるで生きた心地がしなかった。普段は軍議だ会合だと留守にしていて、いざ身近にいなくなった途端、自分の弱さに直面した。桜が俺の政治を改革するという主張も理解できる。俺はあまり自国の民に優しい政治を行えているわけではないからな。魔王・ジスとは慈悲深い者なのだろう。弱き民の声を聞く唯一の人物かもしれないな。そんなに慈悲深い魔王と過ごしてきたから、お前は17年間の時を経てもそんなふうに優しいままなんだ」

 僕はシュカ王子の言葉に涙ぐみ、嗚咽が止まらなくなる。

 あんなに酷いことをしたというのに、許してくれるの? こんなに、受け容れてくれるの?

「今はありがとうって言わせて……」

 僕の言葉にシュカ王子は微笑みを浮かべる。

「お前は歳を取っていないみたいだ。あの頃の幼きままだな」

 首を傾げるシュカ王子に、僕はジスに召喚されて異世界からやってきたことを話す。異世界の人間の僕はこの世界では歳をとらないことも。

「そういった理由があるのか」

 思案顔で僕を見つめていたシュカ王子は気持ちを切り替えるかのように言う。

「さあ。連れて行ってくれ。魔王・ジスの元へ」

「わかった……」

 僕は首からさげていたネックレスを掴み、唱える。

「ジス。お願い。僕とシュカ王子を冥界へ連れ帰って」

 ズズ、と暗がりから人影が現れる。闇から現れたジスの手に指を絡めて、僕とシュカ王子は影の中に消えていった。
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