現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

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第一章 国家消滅

第2話 昇進

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 俺は日が昇る前に部隊に戻った。そして、目の前には親父が待っていた……
「よく戻った。お前、俺が言ったことわかっているのか?」
「褒めては?」
「それは俺が決めることじゃねー、行くぞ」
 有無を言わせず、親父は俺の腕を掴むと塹壕内でも頑丈に造られた場所へと移動する。

「ケル兵長入ります!」
 俺が来たのは連隊本部だった。嘘だろ、普通大隊本部じゃないの…… 俺やらかした?
「入りたまえ」
「失礼いたします!」
 俺と親父は声を揃えて入室する。するとそこにはお目に掛ったことのない面々が揃っていた。末端の兵士じゃわからない人々だ。
「ご苦労。ケル兵長、君は戻ってよろしい」
「はっ!」
 そう答えると親父はこの部屋を後にして、残された俺は蛇に睨まれた蛙状態となった。

「楽にしたまえ…… 副官、彼の名は?」
「ユウスケ二等兵であります」
「フム…… では、ユウスケ二等兵。この度の戦果は真であろうな?」
「せ、戦果……」
「報告はすでに受けている。貴様は闇夜に紛れ敵塹壕内へと忍び込み、敵一個大隊を壊滅させたと。違うかね、副官?」
「報告書の通りであります」
 冷静に答える副官と呼ばれた男は上官に答えると俺に視線を向ける。何かを伺うような視線に俺は目を逸らす。

「ユウスケ二等兵、もっと楽にしたまえ。私は君を裁こうなどとは考えていないのだよ。」
 俺は目の前に座る恰幅の良い中年を中心にコの字型に囲まれた中に立たされている。その彼の言葉に思わず素っ頓狂な声を発した。
「へっ?」
 俺は思わず間抜けな声を出した。するとこの場に集う面々が我慢し切れず失笑する。
「君は単身闇夜に紛れ一個大隊を壊滅させるという赫々たる戦果を挙げたのだ。これに対し命令違反、規律違反だのと指摘する者は居ない。安心したまえ」
「は、はぁ…… そうでありましたか……」
 俺は思わず腰を抜かしそうになったが、それはここに至るまでの訓練がものをいう。

「副官、彼を立たせておくのは忍びない。椅子を用意せよ」
 上官の言葉に速やかに対応され俺は腰掛ける。すると目のまえの上官は名乗り始める。

「まずは名乗っておこう。私はホーブル」
「ホ……」
 俺は思わず名前を出しそうになったがすぐに口を押えた。その態度に彼はニヤリと口元を緩める。
「失礼いたしました!」
「なに構わぬ。貴官からしたら一生お目に掛ることのない人物だからね」
 嫌味ではない。俺の目の前に居るホーブルという名の男は俺なんかが、お目に掛るような存在ではない。
 否、この様な最前線に居るような、居て良いような人ではないことは分かる。
 だがなぜ俺の前に居るんだ……?

「何故という顔だね」
「は、はい……」
「少し考えてみるかね?」
 ホーブルはそう言うと俺に考える時間を与えてきた。
 まず間違いなく俺の魔法による単独潜入と殺しだろう。だが、この程度のこと俺以外でも出来る筈だ……
「この程度俺でも出来る筈。そう考えていたかね?」
「えっ?」
「すまないね、……」
 ホーブルがそう答えると後ろに立つ副官の男は驚いた表情を見せた。
「閣下!」
「なに、別にここならば問題あるまい。それとも貴官はこの場にスパイがいるとでも?」
「い、いえその様なことは……」
「ならば気にするな。他の者も異論はないな」
そう言われては俺は漸く周囲を見渡した。どうやら出世者の面々は緊張している様子だ。

「さて、話を続けようか。君は単独で潜入し一個大隊を壊滅させた。その事に対し咎められると考えてはいないかね?」
「はい」
その通りだ。俺は攻撃命令が出る前に攻撃するという行為をしてしまった。これでは処罰されても言い訳出来ない。
「違うのだよ。君は最高の結果を出してくれた。現に敵は未だ攻撃を開始していない」
 そう言われると確かにいつもの攻撃がないことに気付いた。

「分かるかね。これは君が齎した結果だ。よくやった」
 ホーブルはそう述べると席を立ち上がると全員が一糸乱れず起立する。
 ホーブルは俺の手を握り締め、もう片方は肩に手をやると労いの言葉を掛ける。そして副官が近付いてくると言葉を発する。
「功には報いる。ユウスケ二等兵! 貴官は敵塹壕へ単独潜入し、敵一個大隊を壊滅させるという最高の戦果を挙げた。よって貴官を特進させ中尉に任じる!」
「へっ⁉」
 俺の声は周囲の言葉にかき消されたが、目の前で行われていることに間違いはなかった。
 確かにホーブルから階級章を着けられ、それに相応しい将校の軍服を手渡されていた。あまりの出来事に呆然としていたみたいだ。

 その後、再び着席を言い渡されると俺の今後について話が始まる。
「今後のことだがユウスケ中尉は王都に移動してもらう」
「王都ですか……」
 辺境出身の俺が夢にまで見た王都。その言葉に驚きつつもホーブルの言葉は続く。
「うむ。我が王国はイラバニア帝国の侵攻を受け戦力の拡充、反撃体制を整えている最中だ。君の腕前は一個大隊以上であると判断し、反撃の要となってもらいたい。この言葉の意味は分かるね?」
「は、はい」
「よろしい」
 分かるに決まっている。
 王国が帝国に勝る魔法における打撃部隊を編成し、帝国を押し戻そうと考えていることなど……
「押し戻すだけではないよ。これを機に我が王国は敵領土に深く進撃し、再侵攻の芽を摘み取りたいと考えている」
「えっ⁉」
 ホーブルの言葉に周囲はざわつく。此処は連隊本部ではあるものの、上には師団本部、軍団本部が存在する。連隊長閣下の顔は蒼白だ。その訳は二つだろう。
一つは劣勢な中、反撃を行えば多大な犠牲を被るのは必至だ。特に敵陣深くと言うのがまずいのではないかと思う。
もう一つはまだ計画段階の作戦をこの場で聞いてしまったことだ。
機密漏えいは重罪だ。
「驚くのも無理はない。我が王国は建国以来外征を行ったことはない。あくまでも我が国は防衛に徹し、他国とは友好関係を結んできた。だがイラバニア帝国はどうか。我が国の国境を幾度となく越え、国境付近の村々を侵略してきたではないか。国王陛下はこの事を大変憂慮しておられる。そして我らに対し、対策を命じられた。そして中央参謀部は決めたのだよ」
 次第に語気を強めたホーブルに対し、だれもが固唾を呑む。それが建国以来初の軍事行動となることに場の空気は最高潮に高まった。
「二度と我が王国に対し侵攻するというバカな考えを起こさぬよう完膚なきまでに叩き潰すと、ね」
 最後の笑顔程俺は恐ろしいと思ったことはなかった。きっと俺の顔にも表れていたのだろう。ホーブルは最後にこう言った。
「おいおい、そう身構えないでくれ。君は側になるのだからね…… さて、話は以上だ」
 そう述べるとこの場は解散となった。
 俺は直ちに王都への異動が命じられ、私物を取りに塹壕へと戻ることが許された。しかし、そこには護衛が付いていた。分かるぞ、これは俺が余計な事を言わないための監視だと言うことだ。事実三名付けられて圧力が半端なかった……
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