現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

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第一章 国家消滅

第12話 新兵器

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 帝都某所に於いて、大勢の兵士が慌ただしく動き回る中、数名の白衣に身を纏った研究者が集まっていた。
「よろしいですか、大佐殿。決して規定値を上回らないで下さい!」
「あーまあこれから向かうのは戦場だよ。どうなるかわからない。それにさ、限界を超えることも必要だよね」
「限界を超えるとあなた方は死んでしまうのですが……」
「ハハハッ、もしかしたら壊れないかもしれないぞ」
「大佐……」
 研究者は大きな溜息を吐いたが大佐と呼ばれた男には暖簾に腕押しだった。
「大佐殿、物資の積み込み。兵員の搭乗完了いたしました!」
「おう! それじゃあ、行こうか!」
 彼は兵士の報告を受けると将校に与えられた軍帽を被り研究者に言い放った。
「無事にお返しいたしますよ、技術者殿。ただ、兵士を守る為なら俺は非情になることは忘れないでいただきたい」
「もう分っていますよ……」
「それでは吉報を待っていてくれ!」
「はい、御武運をお祈りいたします」

 大佐は建物を後にすると、仲間が待つ場所へと移動した。
「こいつは壮観だ……」
 彼が目にしたのは20機の飛行船だった。残念なのは出撃時間が夜遅くと言うことだ。だがライトに照らされた空飛ぶ船の大きさに彼は感心した。
「準備万端かね、大佐」
 その声に瞬時に彼は反応する。
「ヘルマール中将!」
「いよいよこの時が来たね」
「はっ! 中将には大変お世話になりました」
「何、私は君の言葉を受けて多少支援しただけだ。むしろこの兵器群が予想通りに機能してくれることを祈るよ」
「はっ、無事戦果を挙げて御覧に入れましょう!」
 太々しいもの言いながらヘルマールは柔らかな笑みを浮かべた。
「戦果を望むあまり戦死することは許さぬぞ、義息子よ。娘を悲しませることはどのようなことがあっても許さん」
「分かっております、義父上。妻を悲しませることは致しません」
 大佐は堂に入った敬礼を見せると中将も返礼する。
「それでは!」
 大佐は踵巣を返し、飛行船に乗り込んだ。

「お父様……」
「エマ、なぜここに?」
「伯父さまに連れてきていただいたの」
「兄上に…… まったく、姪には甘いな」
「ダメでしたか?」
「ダメではない。だが戦地へと赴く夫を見送るのはつらくないか?」
「確かに辛いです。ですが、これで最後かもしれないという思いが、私を動かしました」
「そうか、少し待て」
 ヘルマールは娘の思いを汲み取りすぐさま義息子の乗る飛行船に駆け込み彼を呼び出した。
「エマ、なぜ君が……」
「あなた、申し訳ありません……」
「いや、謝る事じゃない。ただ、此処に居ることは辛くないか?」
「お父様と同じ事を言うのですね。大丈夫、と胸は張れませんが覚悟してきましたから」
「そうか…… 私はこれから王国を成敗してくる」
「はい。悪魔のような者と聞いております。その方々を成敗してくるあなたのご活躍を期待しております」
 エマはそう述べると夫に抱き着いた。
「大丈夫だ。私は必ず帰る」
「はい。御武運をお祈りいたしております」
 抱きしめた瞬間エマの体は震えていた。だからこそ彼女が勇気を振り絞り、一歩前に進んだことを喜ぶと共に、必ず生きて帰ろうと覚悟した大佐だった。
 それから十分後、帝都近郊に在った。飛行船専用ドックから20機の飛行船が空へと飛び上がった。
「さあ、出撃だ! 目指すは王都クーレン。必ず落として見せる!」





 一方、ローテルへ向けて進軍中のユウスケたちであったが、別同部隊の存在に動きを封じられていた。伝書鳩を使い状況報告を行いはしたが、届くまでには時間がかかる。そのままこの地で待つわけにもいかないが、無視してよい状況でもない。
 すべては指揮官のレイム少将にかかっていた。
「斥候を出そう」
「やはりそうなりますか」
「ああ、小規模なら叩き潰した後、進軍する。多ければ身を隠しつつローテルへ向かうさ」
「承知しました。ならば人員は私が選んでも?」
「ああ任せるよ。少佐」
 レイムから委託されたティーダは五名を選抜すると直ぐに出撃させた。
 それまでの間、彼らたちは者カギに身を潜ませ待機となった。幸い身を隠す場所は多く、身を休ませるのにはもってこいな状況が生まれた。

「おい、ユウスケ」
 俺も命令通り体を休めようと適当な場所を選んでいたとき、マルに呼び止められた。
「なんだよ、マル」
「少将がお呼びだ。すぐに来てくれだとさ」
「……わかった。ありがとな」
 レイを述べた俺は駆け足でレイムの場所へと向かった。

「ご苦労様、ユウスケ中尉」
「いえ、どうしたのでしょうか」
「列車での話をもう少し聞きたくてね。悪いけどのこの時間を利用させてもらう」
「はあ」
 なるほどな、確かにしっかりと話すことなくあの場は終わった。
「早速だけど。君なら王都を陥落させるとして、どのような手段を講じる? 絵空事でも構わないから思ったことを聞かせて欲しい」
「思ったことですか……」
 俺はすぐに考える。すべてを知るわけでもない。ただ外観と規模は短い時間の中でも理解したうえで考える。

「列車内でも言いましたが、空から攻める……」
「それは爆弾を落とすということかな?」
「そうですね…… ですが、それだけだと効果は限定的か……」
 現世の俺は時間だけはたくさんあった。女から貰った金銭を使って本を買い、または買ってもらい読み合った知識はある。
「人を乗せて城壁を超えさせる……」
「部隊を空から直接王都内に送り込むということかな?」
「はい。そうすれば城門を開ける。城壁の大砲を破壊することは容易ではありませんか?」
「確かに。人数さえ揃えば、いや、少数でも一方面の城門と大砲を無力化すれば……」
 俺の発言にレイムは思考の海へと潜り込んでしまった。

 俺もその間に色々と考えた。
 そもそも現実的に考えて、航空機が存在するとしてだ。爆撃は必須だと思う。前提として堅く守られた防御陣地を抜くには空からの攻撃が有効だと思う。あくまでも対空火器がない場合だけど…… 後は制空権か~こちらには航空機は存在しないんだよな。

「おっと悪いね。考え込んでしまった……」
「いえ、それでですね。王国には対抗手段はあるのでしょうか?」
「それだけどね。技術部はその概念の研究に勤しんでいる。その程度なんだ」
「つまり」
「そう。ないということだ……」
 レイムは首を横に振りつつ俺に答えた。
「ではどうします?」
「どうするか…… ここで止めるという選択はないんだよ。残念だけどね」
「そんな……」
「今は作戦行動にのっとり動くしかない。それに王都周辺は二十万の兵と王都内に五万の兵士が詰めている。容易く落ちるわけがないよ」
 確かにその通りだ。ダメだな、どうにもマイナスに考え始めると良くない想像しか生まれてこない。これは前世でもそうだったな……

 それから程なくして斥候部隊が戻ってきた。
 結果として大隊規模の勢力が集結していたということだった。
 そこで急遽レイムとティーダ、各小隊長が集まり作戦会議となった。俺はもちろん待機だ。
「ユウスケ、お前はどうなると思う?」
 どこかで聞いた言葉だな。
「大隊規模だろ。そんなの俺たちが動かなくても後続部隊がどうにかするだろ」
「だよなー しかし我が国の情報収集能力はどうなっているのかね……」
 確かに、それは言えてる。口が裂けても言えないけどな。だけど戦場は情報の鮮度、量、質どれも高いほど勝利に近付くってものだ。

「中隊集合!」
 小声ながらもティーダの声は通る。息を殺していたというのも効果があった。
「迂回する。ここで我々の存在を知られるわけにはいかない」
 その通りだ。おそらく我らと同等かもう一個中隊規模なら攻撃の判断を下したのだろう。
 レイムの判断が中隊各員に伝わると直ぐに進軍することとなった。





「んっ、なぁあれはなんだ?」
「何だよ…… もう帝国軍が来たのか?」
「いや、地平線の少し上だよ」
「上? 何バカなこと言っているんだよ」
 双眼鏡を覗き込んでいる同僚の言葉を馬鹿にするように答えつつ、自らも双眼鏡を構えた。
「おいおい、なんだよあれ……」
「船が飛んでいる……」
 それらはあっという間に彼らの頭上を飛び去った。
「て、帝国軍だ……」
「れ、連絡を……」
 彼らは彼らの職務を果たす。混乱する中、彼らは立派に成し遂げた。
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