神様、幸運なのはこんなにも素晴らしい事だったのですねぇ!

ジョウ シマムラ

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第 九章 町政と商会の始動そして海賊退治。

幕間27話 ある頭領の決断。①

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    「よし、乗り込めぇ!」
「おー!」

    俺の指図に家の水夫達が剣を片手に乗り着けた商船に乗り移っていく。暫くしてから乗り込んだ水夫から報告があった。

「頭領、商船の船長が降伏しやしたぜ。」
「よし、なら荷物を全て移せ。食料と水だけは残してやれ。」
「承知しやした!」

    憎い恨みのある商会の船とはいえ、船乗り達に罪はない。悪いのは会頭のアイザックである。アイツを中心にハロルド、ベアード等の何件かの商会が集まって、家の親父の『パーシモン商会』を罠に嵌めやがった。それも代官とグルになって、家の商会を潰しやがった。

    親父は密貿易と禁制品の密売の容疑で代官に捕まった。親父も身の回りが次第にきな臭く感じていたんだろうな。もしもの時は家族と全財産と商会の船乗り達を連れて逃げる様に言われていた。逃げる先は。家の商会が所有しているツールの町から五十キロ沖合いにある小島だ。ここは船の造船や修理や嵐避けの為に停泊出来るようにした場所だ。俺のじい様の代に用意した基地だそうだ。

    俺はその基地の中にある商会長の家の執務机に座っている。これから先の事に頭を悩ましていた。
このまま時が過ぎていく程に、俺達の未来は先細りだと言う事にだ。

    確かに今はまだ良いが、二十年先には今の船乗り達も年老いて、船は操れるだろうが、戦闘には向かなくなる。かといって、若手が増えるわけではない。俺の年でさえ若手に入る程だからだ。

    だが、人を拐って使うなんて事は親父の顔に泥を塗るようなものだし、それじゃああのアイザック達と同じになっちまう。さて、どうしたものかと考えているわけだ。

    そんな将来をどうするか考えている内に七の月に入った。いつもの様に執務机で悩んでいると、家の商会の番頭を勤めているエリック爺が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

    「若!大変ですぞ。大事件です。」

    エリック爺は親父の幼馴染であり、親父を失った後は俺を本当の子供のように一人前の商人になるように教え込んでくれた師匠でもある。珍しく慌てた様子のエリック爺に興味をもって訊ねた。

    「エリック爺、何をそんなに慌てているんだい?まさか、海賊どもが大挙してやって来た訳じゃないよな?」
「若、そんな些細な事じゃありませんや。今港町から連絡が入りまして、あのクソッタレ代官と先代の仇のアイザックやハロルド、ベアードといった商会や他の密貿易、密売をしていた商会が一斉に取っ捕まって、昨日処刑されたそうです。刑の軽い者でも、商会は取り潰しに一家は町から追放となり、やましい仕事をしていた所は全て町から消えました。あとこれは噂ですが、町に巣くっていた、闇ギルドも一人もいなくなったそうです。」
「何だよ。つまり突然町の悪党どもが、全て消えちまったと言うのか?」
「そうです。何でも王宮が七の月からツールの領主に任命して新たにやって来た伯爵様が、アイツらの悪事の証拠を突き付けて公開裁判をして、そのあとバッサリと死刑執行したそうでさ。その時にこう町の衆に言ったそうです。この町は真っ当な人間が真っ当に働き、真っ当に生きていく場所だと、わたしゃその言葉を聞いて涙が出ましたぜ。」
「真っ当な人間が、真っ当に働き生きる場所か。当たり前の事なんだろうけど、俺達にとっては天からの声と同じだな。よし、その伯爵様のことを調べろ。場合によっては接触するぞ。」
「了解しました。」

段取りを手配しにエリック爺が出ていった。入れ替わりに母ちゃんと妹が部屋に入ってきた。

    「母ちゃん、マリン、二人してどうした?」
「先程エリックからツールの事を聞きました。あの代官やアイザック達が赴任してきた伯爵様に全て綺麗に捕まったと。ドレイク、お前はこの後『パーシモン商会』をどうする積もりですか?いつまでも、今の暮らしを続ける事が出来ないのは私にも分かります。そこでお前にこれからの商会をどうするのか、聞いておきたいのです。」
「兄貴、私はその伯爵様とやらに渡りを着けた方が良いと思うんだ。どうだ?」

    長年、気の荒い船乗り達に混ざって生活したせいか、妹のマリンの言葉使いが荒くなっちまった。だが、オツムの方は時々鋭い事を言うし、剣の腕も船乗りとしての技量も一流だ。
そんな妹が勢い込んで言ってくる。二人を前に俺は正直に本音を語る。

    「母ちゃんもマリンも聞いてくれ。正直今の暮らしは後十年程しか持たないだろう。年を取る毎に、戦える人数は減り、海賊達と渡り合う事が出来なくなるだろう。勿論対策を考えもした。だが、何も思い浮かばなかった。そんな先細りの中でこの話だ。正直、神様に感謝したよ。その伯爵様がとんでもないお人でなければ話をしに行くつもりだ。だが、すぐは駄目だ。その伯爵様の事を調べてからだ。足元を見られる訳にはいかねぇからな。」
「分かりました。その様子なら安心です。お前の思うようにしなさい。」
「ありがとう。母ちゃん。絶対この商談はしくじらないぜ。」

    結局、ツールだけでなく、王都にも人をやって、伯爵様の事を調べ上げた。
三週間かけて調べた報告書を見ながら思わず呟いてしまう。

「おいおい、本気まじかよ。これじゃまるで始祖王様じゃないか。本当に人間かよ。Aランクの冒険者で先月のクロイセン帝国との戦争をほぼ一人で勝利に導いてるって?その前には、あの貴族派や王都の闇ギルドを潰す中心になっていたって?しかもまだ十五歳だって?他国の出身らしいが、冒険者ギルドに登録してまだ四ヶ月だと?ある意味化け物だな。こいつは絶対に逆らってはいけない存在だな。まあ、やって来た事を見れば、悪党じゃないのは分かるが。あの言葉『この町は真っ当な人間が、真っ当に働いて、真っ当に生きる場所』か。俺達が望むのは、正にそんな場所だ。よし、決めた。この人に懸けよう。一世一代の大取引だが、何故か損する気がしねぇな。(笑)」

    この翌日に、ツールに向かい、アノ伯爵様と会うことになる。




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