神様、幸運なのはこんなにも素晴らしい事だったのですねぇ!

ジョウ シマムラ

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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。

第314話 お嬢さん、私と一曲踊って頂けますか?

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    案内されたパーティー会場は流石に広く王国中の貴族家が集まるだけあって余裕がある。また今回のパーティーで社交界にデビューする若いお嬢さん方が顔を紅潮させて興奮している。年齢的には私と変わらないのだが(笑)。

    壁際に客が集っている中を銀のトレイに飲み物を乗せて、客の間を行き交う給仕から、オレンジジュースに色がそっくりのフルーツジュースを二つ貰った。少しぬるかったので、こっそり〈冷却〉の錬金術魔法をかけてからシーラに渡す。因みに今の職業はメインが『魔法剣士』でサブは『精霊士』だ。

    壁際に並べられているテーブルの上に置かれていた大皿に盛られた様々な料理を小皿に取って摘まんでいる。

    「ショウ様、そんなに今から食べてしまって大丈夫ですか?」

シーラが心配顔で聞いてくる。

「だって、緊張すると腹が減るんだよな。何故かさぁ。」
「お気持ちは判りますが、程々にされた方が宜しいかと思いますわ。」
「そうだね。判ってはいるんだが、流石に王宮の料理人だ。見事な味付けだよ。」
「それは私も思いましたわ。流石に美味しいですわ。でも、基本塩味と甘味辛味酸味だけですし、私はお屋敷の料理の方が好きですわ。」
「まあ、あっちは私が作り出した調味料だからね。知らない人の方が多いよ。」

    シーラを相手に料理の話をしているうちに、生演奏の楽団員が大勢ホールに入ってきた。それぞれ決まった所定の場所に座ると、最後に指揮者が入って来て、一段高くなっている指揮台に上がり、指揮棒を振り上げ演奏が始まった。 

    演奏している楽曲は、当然だがこの世界の物で、私にとっては、全く知らない旋律だ。ただ、リズム自体は単純で、ワルツのように三拍子で踊りやすい感触の曲だ。曲が流れ始めると、一斉に若いお嬢さん達がパートナーを連れてホールの中央で踊り始める。
    
「お嬢さん。私と一曲如何ですか?」

シーラをダンスに誘う。

「有難いのですが、ショウ様、まずソニア様をお誘いするのがマナーですよ。」
「え、そうなの?知らなかったな。彼女はえーと、あ、あそこに一家でいるか。お、側にはセイラもいるね。分かったよ。ちょっと誘ってくる。シーラはここにいてくれるかな。」
「承知しましたわ。行ってらっしゃい。」

シーラの元から離れ、ソニア達がいる一角に近付く。

「陛下?」
「おう、ツール辺境伯か。楽しんでいるかな?如何した?」
「はい、宜しければ、王女殿下を一曲ダンスにお誘いしたいと思いまして。宜しいでしょうか?」
「うむ。ソニアよ、どうする?」
「はい、わたくしで宜しければ。」
「では、陛下、王女殿下を暫くお預かり致します。王女殿下、さぁお手をどうぞ。」

    差し出されたソニアの右手をとり、ホールの中央に入っていき、レッスンで習った様に腕をホールドする。

    この世界のダンスはそれ程複雑ではなく、ステップも簡単である為、直ぐにリズムに乗り、踊ることが出来た。

    「あら、ショウ様ダンスがお上手ですのね。」
「いえいえ、ただの付け焼き刃ですよ。」
「あら、とてもそうには思えませんわ。わたくし、長らく病に臥せっておりましたので、長いことダンスのお稽古をしておりませんでしたから、今日ちゃんと踊れるのか心配でしたの。ショウ様がお上手ですので、わたくし安心して踊れますわ。」
「そう言って頂くと、恥ずかしい限りですね。そう言うソニアも暫くぶりに会うが、ピンクと白のドレスがとてもお似合いで、ますますお綺麗ですよ。」
「有り難うございます・・・。」

私からの、賛辞を聞き、顔を真っ赤にして俯くソニア。
    それにしても、身体レベルが上がった為か、結構ダンス位の運動では息一つ切らさなくなった。結局、一曲終わるまでソニアは顔を赤くして、俯いたままであった。

    曲が終わり、彼女を陛下の居る場所に連れていくと、陛下が不機嫌な顔で言ってくる。

    「踊ってる最中、娘に何を言ったのかな?ソニアはどうなんだ?」
「し、知りませんわ。」

陛下に聞かれ、顔を更に赤くしてそっぽを向いてしまう。

「オオガミ、どう言うことなんだね、これは一体?グワッ!」

    妙な迫力を見せて、顔を近付けながら私を問い詰めようとする陛下が、突然に脇腹を押さえて踞り痛そうにする。

「貴方も懲りないですわねぇ。いい加減諦めれば宜しいのに。オオガミさん、この人の言うことなど、聞き流してくださいね。それより結婚まであと三年ですわね。待ち遠しいですわ。この娘も十五歳になりました。大人の仲間入りです。今後も、この子を守って下さいね。」

    王妃の言葉にソニアは赤い顔が更に赤くなり、収まりが着かなくなりかける。その時、一緒の集団を作っていたリヒト公爵が言葉を挟んでくる。

    「兄上も義姉上も、その辺りにしないと娘に嫌われてしまいますよ。それにしても、いやぁ、初めて見たけどダンス上手だねぇオオガミ君?」
「いえ、付け焼き刃ですよ。武術にも通じますからね。足運びとか特に。」
「成る程ね。次は家のセイラと踊ってくれるのだよね?」
「お父様!」
「おや、珍しい。顔を赤くして。知っているのだよ?セイラが昨日懸命にダンスのレッスンをしているのを。」
「な、な、何故それを?」
「何故も何も、昼食後に何も言わずに部屋に籠ってお茶も飲まずに何やらやってたからね。それは、親として気にはなるからね。メイドのニーナに聞いたのさ。今日のダンスの為に練習しているのだってね。」
「ニーナのバカッ!」
「さあ、オオガミ君。家のセイラの努力を、まさか無にはしないよね?ね?ね?ウゴッ!?」
「貴方も焼き餅なんて焼かずに、そっとしてあげれば良いでしょうに。本当に兄弟で似てますわね。何を煽っているのですか。娘の一大決心を茶化して。ほら、セイラが泣きそうではありませんか。」
「ううう・・・、お父様もお母様も知らない!コーチ、行きましょう。」

そう言って、私の手を取り、ホールに向かっていく。

「さあ、踊りましょう!」
「いや、セイラ。そんな、これから戦いましょうみたいに言わなくても大丈夫さ。ぜひ、私と一曲踊って下さいお嬢さん。」
「・・・・はい、お願いしますわコーチ。」

    流石に武術の心得のあるセイラだ。足運びが、ソニアよりも軽やかだ。何とか。〈舞踊〉スキルのお陰でついていけたが、スキルが無かったら見るも無惨な結果だったろう。それでも、曲の後半は、私がリード出来たので何とか及第点かな。

「出だしは、それなりでしたが、途中からは素敵でしたわ。」

    ストレートな評価を頂いた。どうやら昨日もっと練習に時間をかけた方が良かったようだね、

    セイラを親元に返すと、一旦シーラの待つ場所に戻る。

    確かにシーラは、元いた場所にそのままいたが、その周りには、見たことの無い若い三人の男達が集っている。

(おや、またトラブルの種かな?)
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