神様、幸運なのはこんなにも素晴らしい事だったのですねぇ!

ジョウ シマムラ

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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。

第322話 見送りと雑事を片付けに東へ南へ。 ①

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    今私が居るのは、王宮の練兵場だ。目の前には、整然と整列した兵士達が私が言葉を発するのを待っている。こんなシチュエーションは苦手なんだが、やらない訳にはいかない。ぁ~胃が痛い。

    「国軍兵士諸君。長期の訓練ご苦労でした。これから全軍ツールへ移動となります。ツールへの行軍も訓練の一環です。到着するまでが訓練と心得て下さい。脱落などでない到着を願っています。以上!全軍行軍開始!」
「行軍開始!」

    私の掛け声のあと、キスリング大佐の復唱が発せられ、部隊長が部隊ごとに号令を発して出発していく。

    一番最後の輜重しちょう部隊が出ていくまで、見送った。最後にキスリング大佐と敬礼を交わして、全てが出発し終わる。
これで昨年の七の月からの懸案がやっと片付いた訳だ。

    今日はこの後、あちこちに顔を出しに行く予定だ。まずこの後には、私にとって今一番の緊急の課題となった、シュークリームについての相談をビルさんとしなくてはならない。
そして、ヒラドとセイトにそれぞれ顔を出して近況の確認をする予定だ。

    まずは、国軍のツールへの移動するのを見送った。今月以内に彼らにはツールに到着してもらえば終了だ。

(さて、次だ次。ツールのエチゴヤだな。まあ、朝早いうちだから、ビルさん居てくれるかな。)

「〈テレポート〉。」

    目に映る光景が歪んだと思ったら、エチゴヤの商館の脇道に現れる。周囲を確認して、誰もいない事を確認すると、商会に向かって移動する。

「いらっしゃいませ!どの様なご用件でしょうか?」

    初めて見る従業員だ。若いまだ成人したばかりの見た目だ。新人かなと思いつつ話しかける。

「ビルさんいるかな?オオガミだけど。」
「あの、オオガミ様と言うとご領主様の?」
「ああ、そのオオガミだ。」
「少しお待ち下さい!直ぐに呼んで参ります!」

    慌てて、奥に駆け込んで行った若い従業員。待つこと直ぐに、奥からビルさんが先程の従業員を引き連れて出てきた。

「これはオーナー。新年おめでとうございます。今年も宜しくお願いします。」
「ビルさん、こちらこそ、宜しく頼むよ。」
「確かオーナーは今・・・?」
「シーッ!それは奥で話そうか。」
「あっ、これは失礼しました。では、こちらへどうぞ。」

内容的に不味い話になりそうだったので、場所を変えてもらう。

    「先程は済みませんでした。転移魔法については、内緒でしたな。」
「済まんが、気を付けけてくれよ。どこから情報が漏れるか分からないからね。」
「承知しています。それで今日は、どの様なご用件で?」
「実はね、新作のデザートを試作したので、試食して貰い感想を聞きたいのだ。そして、問題が無いならツールとリヒトそして王都のエチゴヤで販売を出来るだけ早くして貰いたいのだが、お願い出来るかな?」
「おや、何やら訳有りですか?新作のデザートがどうかしましたか?我々としても、確かにそろそろ新作が欲しい所でしたが、どんなデザートですか?」
「『シュークリーム』という甘いデザートだ。王都で先に試食してもらった限り、評判は良かったけどね。これだよ。」

    インベントリィから小皿と小さいスプーンを取り出すと、小皿こ上にシュークリームを乗せて、ビルさんにすすめる。

「ほう、クッキーの生地の間にクリームですか。どれ。」

スプーンで生地を割り、クリームごと掬い取り頬張る。噛むとシューのサクサクした歯応えと二層のクリームの味わいに目を見張る。

「むっ!こ、これは何と旨いのだ。回りの生地のサクサク感といい、中身の二層のクリームの味の違いによる驚きといい、甘いが言う程にはベタついた甘さではなく、お茶等の飲み物にも合う良い甘さだ。オーナー、またとんでもないものを作り出しましたね。文句無いです。商品化しましょう。これはプリン並みに売れますよ。絶対だ。」
「そこまで太鼓判なら、大丈夫だね。では、これがレシピだ。商業ギルドへの特許登録とか諸々宜しく頼みます。」
「お任せください。私の方で申請しておきますから。所で、ツールは分かりますが、リヒトと王都の店でも至急に売り出して欲しいとは、何がありました?」
「ああ、実はね先日王都で試食して貰ったんだが、相手は陛下の御一家とリヒト公爵の御一家になんだよ。」
「なんと、王族の方々にですか?」
「うん。そうなんだ。で、王妃様と公爵夫人がね、早く王都で買えるようにしなさいと、凄い目力でいってきてね。仕方なく善処しますと言ってしまったんだよ。特に王妃様が怖いくらいに食いついてきてね、ビルさん何とかしてくれるかな?でないと私の身が危険なんだよ。」
「・・・・そんな大袈裟な。分かりました。王室御用達の品として、まず王都から販売しましょう。そこで製造、販売のノウハウを確立してツールとリヒトの店での販売に入りましょう。如何でしょうか?」
「うん、助かる。運用は任せるから。お願いします。」

    何とか王妃様やシュザンナ様の追求を逃れる事が出来そうだ。
注意点として、玉子の衛生管理に注意することを伝えて次の話に移る。

    事業報告については、月毎の報告書に詳しく頼み、最近始めた事業についてだけ状況を聞く。

「ビルさん、冷蔵庫または冷凍冷蔵庫の販売はどうなってますか?」
「はい、まだ始めたばかりでもあり、ツール以外の都市での展開はまだまだこれからですが、ツールに於いては、飲食店や肉屋を中心に売れ出してます。大きな所では、冒険者ギルドや商業ギルドからも問い合わせから契約となっております。業務用として倉庫サイズでの申し込みが予想外に多く、個人向けはまだこれからと言えますね。」
「成る程ね。個人向けはこれからか。分かったよ。次は改良型仕様の馬車の展開はどうかな?」
「申し訳ありません。馬車については、以前リヒト公爵家から一台注文があったきりで、商品の認知がまだ低く、申し込み自体がありません。そこで、提案なんですが、王都で契約している鍛冶屋の職人を専属として契約し取り込み、ツールから職人を送り込んで、馬車は王都の工房で生産させた方が、注文が入りやすくなるのではと思うのですが。如何でしょうか?」
「そうだね。ジンテツ親方には、ツールにいてもらいたいから。それを考えると、王都に工房を持つのは、市場の大きさからして便利なのは認めるよ。いいでしょう。ポールさんの業務としましょう。連絡を頼みます。あと最後にイーストンへの食料輸送の状況はどうなってますか?」
「はい、先月の内に第二便を送りまして、今月には最終の第三便が、月半ばに到着の予定です。都合三回で約十五万人の一年分の食糧を輸送しました。以前渡された予算ではこれで一杯です。追加されますか?」
「いや。ひとまず、これで様子を見よう。帝国へ送られる前にかなり食糧を押さえたから、今年の冬は越せるだろう。手間をかけたね。有難う。イーストンは半年後には、西部全域市場化するから、その積もりでいてくれ。」
「オーナー。それはどういう事でしょう?」
「今はちょっと内緒だ。二、三ヶ月後には報告出来ると思うから、待っていてくれ。また、新作を作ったら試食してくれるかな。では、次の用事が有るのでね。報告書宜しく。・・・〈テレポート〉!」


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