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11 女友達

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 エッジウェア伯の奥方のお茶会に行く前に、一度エッジウェア伯の三女、コーネリアと会ってみないかということになり、その方が気楽だということでガラティーンはだいぶ着慣れてきた乗馬服で訪問をさせてもらった。
「すみません、まだちょっと普通の女性の服はどうも苦手で」
「お気持ちわかりますわ、私もローンテニスの服の方がよっぽど気楽」
 コーネリアは、ガラティーン相手にくだけたところを見せた。それを見て、ああこの方はエッジウェア伯の娘だな、という印象を受けた。性善説とはまた少し違うものだろうが、人間に対する愛情が深いのだ。
「ところでガラティーン様、今回、父に頼んでお会いさせていただいたのは、ひとつお伺いしたいことがあったからなんです」
「……どんなことでしょう?」
 つい、「あなたの頼みならなんだって」と付け加えてしまい、コーネリアは顔を赤くする。
「あの、ガラティーン様は、お父様のいらっしゃる陸軍に顔を出していらっしゃったそうですけれども、いつもその調子でしたの… !?」
「えっ」
「やっぱりガラティーン様は、陸軍のプリンス・チャーミングでしたのね !?」
 ガラティーンは目を見開いた。
「……プリンス・チャーミング?」
「ええ、プリンス・チャーミング!」
 責められているのが、男装をしていたことではなくてガラティーンは、少し安心したが、呼び名については恥ずかしくてとても聞いていられなくなった。
「いや、私ではないのでは…」
「でも、女性と見まごうほどの麗しい金髪の男性は一人しかいらっしゃらなかったって聞いたわ。父にも聞いてみたけど、ガラティーン様に初めてお会いした時はいかにも貴公子という風情だったって」
 一生懸命に彼女の友人の令嬢方の中で評判だった「プリンス・チャーミング」のことを語り、しまいにはコーネリアは別の令嬢が描かせたという似顔絵まで見せてきた。
「指名手配書か… !?」
 ため息をついて天を仰ぐガラティーンを見て、コーネリアは頬を染める。
「やっぱり素敵ですわ」
「勘弁してくれ…」
「ふふ、私ばっかり喜んでしまったわ。ごめんなさいね」
 頬を染めて、嬉しそうに話すコーネリアを見ていると、ガラティーンは文句を言う気も失せていた。
「他の令嬢方には、内緒にしてくださいね。あなたと私だけの秘密です」
 ついつい以前と同じ調子で話をしてしまい、良くなかったかな、とガラティーンは思ったが、コーネリアはその方が嬉しいらしくまたきゃあきゃあと声を上げて喜んでいる。
 自分も、例えば素敵な男性と近づくことがあったらこんなに喜ぶようになるのかな、と考えるが、「素敵な男性」の顔がなかなか思い浮かばない。
 まず顔が浮かんだのが義父のダニエル、次に家令やフットマンなど、「身内」の男性ばかりだった。
 本来であれば陸軍の青年たちがそういう対象になるのだろうけれども、仲間としてやいのやいのやっていた青年たちにはどうもそういう視点から見るという気持ちにはなれなかった。
 コーネリアと付き合って、仲良くしていればいつかはそういう気持ちがわいてくるだろうか。
 そう思ったガラティーンはコーネリアの手を取って、彼女の緑色の瞳を見つめる。
「コーネリア様、仲良くしてくださいね」
「……喜んで!」
 コーネリアとガラティーン、二人が仲良くしたい気持ちというのは少し方向が違う理由だったかもしれない。しかし、その後も毎週のように行き来をしているうちに、ガラティーンとコーネリアは普通に仲良くなっていき、ほかの令嬢たちとも女性同士の付き合いができるようになっていった。ただ、ガラティーンはコーネリアと二人でいるときだけはふと、昔のガラという青年のようなところが出てしまう。そしてコーネリアはそのガラティーンの姿に喜ぶ。
 二人の家の使用人たちは、「役者に入れ込む令嬢のようだ」と思いながら、いずれにせよガラティーンに女性の友人ができたことを微笑ましく思っていた。

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12/6 ちょっと修正しました。(近衛→陸軍)
今後は最後まで通して書いてから投稿することにしたいです…。
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