短編集

かなり柘榴

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密かな趣味と、得た友人

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握りしめる手に、あらん限りの力を籠める。
力が強まるほどに苦痛にゆがむあなたの顔を見て私は、どうしようもないほどに興奮してしまっていた。
自身の異常に気づいたのは小学校に入ったころ。みんなでペットとして飼っている鶏についばまれ、傷を負った事件がきっかけであった。
あの時はただのよくあることとして処理されたが、それは真相ではない。
私は近くへと歩み寄り、身を摺り寄せてくる可愛い鶏を見て抑えがたい強い衝動を解き放ったのだ。
抱き上げ、掴み、締め上げる。最初は激しかった抵抗が少しずつ失われていく感覚に、子供ながらに底知れぬ背徳感と愉悦を感じるのを禁じえなかった。
もっとも最後の一線は越えなかったが。その時は。
ぬるま湯につかるような心地よさの中で、快楽の海へと沈む。
より深いところへと水をかき分け進むように、力を込めて締め上げる。
手足を振り回し抵抗するあなた。
ああ、いけない。そんなことをしては。そそられてしまう。歯止めが利かなくなってしまう。
私のそれとは対極的な歪み方をするその顔が、喉から漏れ出るその声が、口からこぼれるその涎が。ひどく私を興奮させる。
おいしい食事も食べると消えるように、あなたは抵抗をやめ、力なく横たわってしまった。
事切れてしまった。食事は終わったのだ。
「ごちそうさまでした」
一礼し、垂れる涎を指で拭い口に運ぶ。蜂蜜のような、甘美な味がした。
突然、玄関に気配を感じた。中には誰もいない。外だ、誰かが覗き穴から覗いているのだ。
どうするかも考えずに扉を開くと、そこには奇妙な男が立っていた。
「みていました?」
「はい」
「おかしいですね。慌てていないし、恐れてもいない。それはとてもおかしなことだ」
言葉にして腑に落ちた。見た目におかしな点はないのになぜ奇妙と評したのかが。
「慌てることなんて起きてないですよ」
「やはりおかしいですよ。殺人を見たなら、慌てて警察でも呼ぶべきです」
「呼んでほしいのですか?」
「いいえ」
「ならよかったじゃないですか。winnwinnですよ」
どういうことだろうか。そう思いながらも私は、目の前の彼に対してある種の共感を覚えつつあった。
「あなたが彼女にしたことは、僕が彼女にしたかったことなのです」
「なるほど、お仲間でしたか」
「まあ、横取りされたという気持ちは否めませんが外から見るというのもそれはそれで」
「歪んでいますね」
「あなたがいいますか」
もはや我々の間には古くからの友であったかのように深いところで絆が育まれつつあった。
「どうします?」
「どう、とは?」
「彼女ですよ」
「正直困っています」
「手伝いましょうか?」
彼女の昏い瞳と目を合わせ、
「お断りします」
「そうですか。なぜか聞いても?」
「料理は片づけるまでが終わりですから」
「こだわり、ですね。よくわかる」
理解を得られるとは思わなかった。彼は私の理解者であるのかもしれない。
抱き上げた彼女の瞳には、笑みを浮かべる私の顔が浮かんでいた。
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