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兄のディビットは杖になる

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ディビットは城の者に聖女の事を話し図書室へ案内してもらった。
図書室の本は数えられないくらいたくさんある。いそいでさがさなければ、レイド王子はだんだん力を使い果たしてしまうだろう。

本棚の中に光り輝く本があった。手にとると本がパラパラとめくられ、あるページをひらいた。本が突然しゃべった。
「必要とするものにのみ、与えられる」
ひらかれたページは、聖女の資料だった。本がしゃべるなんて、と驚いたが頭の中は不思議と冷静だった。
聖女は魔方陣からうまれるらしい。図書室の机の上にあったチョークを使い広い図書室の床に魔方陣を書いた。ずいぶん時間がかかったが、間違いはないはずだ。
後は魔方陣にむかって資料の呪文をとなえた。まぶしい輝きとともに聖女があらわれた。後必要なものは、と覚悟した。人の命が必要だった。愛するユキの幸せのために、この命を使おう。

聖女が言った。
「誰の命をつかう?」
「私の命を」
ディビットはためらわず、答えた。
「承知した」
聖女がそういうとディビットの体が宙にうきぐるぐる回転をはじめた。
だんだん高速回転し、その姿は杖となった。

聖女は杖になったディビットを持ち、レイド王子の寝室へ向かった。
自分は聖女であるとなのると、皆おどろいたがレイド王子のもとへ近づけた。

聖女がレイド王子の傷口に杖をあてると、ぽうっと光があらわれた。聖女が呪文をとなえると、レイド王子の傷口はふさがり、元の元気なレイド王子に戻った。
ベッドから起き上がり、体をさわってみたけれど、どこの傷も消えていた。

ユキは嬉しくて涙があふれた。レイド王子と抱き合って喜んだ。
レイド王子は言った。「ディビットはどこだ?」
「ここだ!」
と、杖から声がした。ユキはふるえていた。
「どうなってるの?」
聖女は答えた。
「聖女の杖には人の命が必要じゃからの。ディビットは杖になったのだ」
「そんな」
「何て言うことだ」
「信じられない」

ユキは杖にしがみついた「お兄様」
「ユキくすぐったいぞ。望んで杖になったのだ。何も心配することはない」
レイド王子も肩をおとしていた。
「すまない、ディビット」
「いや、これからは、たくさんの人の命を助けられるんだ。だから幸せさ」

知らせを、きいた王妃もレイド王子の寝室へ来た。
「レイドがこんなに元気に」
王妃は涙した。王妃は聖女の話をきき
「ラウル家には礼をせねばならぬ。ディビットがこんな姿になり申し訳ないかぎり」
そう言って涙した。

聖女はユキのお腹をみて
「赤毛の男の子がお腹にいますね」
と言った。
それをきいて王妃も皆も喜んだ。

今度こそユキは正妻になり、レイド王子と幸せに暮らすことができるようになった。
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