上 下
4 / 16

昇る

しおりを挟む
 階段を蹴って、青春時代の幻に飽きたら、夢を見ていたあの頃へ帰りたい。でも、星が近いから、故郷を思って、泣いているあの子の笑顔に微笑みかける。
 揺蕩うように、語る、孤独の悩みとか、痛みを知った青春の幻が、足元で丸くなる猫に投げかけた、まだ10代半ばの青い時。
 帰り道、草の陰に隠れる小さな小石、輝くようなダイヤモンドではなく、反射する日差しに、語りかける、空をゆく鴉に、黒いカラスに、語った恋の話、
 失恋とは程遠い、僕を信じた、ボタンを送ってと言ったあの子の顔が、今でも、焼き付いている。
 まるで映画のワンシーンのストリートエンジェル。
 ボールを蹴って、散っていく命の価値を、知った年頃に、愛は暮れていく、ほしいのは恋や夢ではなくただ、太陽を見つめる瞳から溢れる一筋の涙。 
 それが、アスファルトに落ちたら、コンタクトレンズを拾う、すると照りつける夕方の光が、まるで雨上がりの水溜まりのような冷たさ、生ぬるい風にあめんぼうが広げる波紋のステップ。
 一緒に踊りたい。
 あなたの希望でありたい、なんていうセリフは言えないけれど、手ではなく指ではなく、心の赤い糸でもない、繋がり、ベルの音に、目が覚めた、朝食から、幻灯。
 白熱球にたかる、ぶとの、ゆらめくような独り言に、もう記憶は、夜のまま。
 一斉に、空に登っていく虫たちの悲しげな季節が過ぎて、一人きりの寒さが、体を焼くころ、あの子はもう、行ってしまったのだろうか。
 感傷ではなく、ハートビートの鉛筆が、リリックを綴る歌手のように、声を失う、静寂の夜に、ひとり遊び。
 空想の世界で、天使の翼の汚れを拭き取った、まるで口を拭うように、落とす、黒から白へ、登っていく、白くなる世界に、天使の肩甲骨を見つめる。
 子供を空にやって、失った、時間が返ってくる。
 僕は、崖を上る登山家のように、登ることができないから、一足単に、水たまりを飛んだ。
 すると、光の幻が、後ろ髪を捉えた。
 青春の終わりはきっと、上ることをやめた瞬間に、無視される。
 群衆から逸れて、制服を捨てる。覚悟さえあれば、きっと未来は光り輝くものだろうか。

しおりを挟む

処理中です...