上 下
4 / 12

根源

しおりを挟む
 ラカンティアは、全部で30の惑星から成り立っている。
 恒星大爆発、約9999兆年前、一つの星があった。
 名前はなく、「彼女」と呼ばれている。
「彼女」は、寂しがり屋だった。
 自分の出自はわからない。
 しかし、いつ生まれたのかは知っていた。
 無限の時を生きながら、孤独に震え、暗黒宇宙にいることはつらくて仕方がなかった。
 銀河系ユブリットにある星雲102に、彼女は、迷い込み、巨大な渦に飲まれて、意識を失った。
 もともと親がいた。
 楽しく過ごした記憶はないが、家族写真をいつも持っていた。
 意識野に刻まれたそのビジョンを大切にして、迷子になった宇宙の中で、家族の面影を追った。
 星雲102のビッグバンに飲み込まれ、落ちていった。
 彼女には友達が一人だけいた。
 リスで「夢乃リス」と名付けた。
 毛並みは蒼く、美しく澄んだその両目、知性豊かで、気高い、何とも言えないしゃべり方。
 彼女は、ビッグバンから生き延びて、怪我をして、夢乃リスと離れ離れになった。
 散々、1000兆年探したが、過去、未来、合計9593億の星々をめぐる。大切な友達を見つけることはできなかった。
 辺境惑星にも行った。
「リス……一人にしないで」
 彼女の声は、弱弱しく、リスを求めるその姿は哀れでならなかった。
 黒いフードを深々とかぶり、危険な辺境惑星の超生物に出くわすことも度々、全くなんともなかったのは、彼女が、「神」だったからだ。
 神聖人は神と違った。
 神は「家族」だったらしい。
 何人家族かはわからないが、はっきりしていることは、写真を見る限り、四人だ。それ以上かもしれないけれど、考えにくいだろう。
 神聖人は、突発種だった。
 イレギュラーで、恒星爆発のたびに生まれる基本的には一回に一人。
 自然の摂理かはわからないが、やはり、神に近いが、彼女が彼らを嫌う理由は、「生意気」だからだ。
 かつて、度々、神に迫ってきた神聖人は、彼女の放浪の中で、その存在に気付くと、戦いを仕掛けてきた。
 ゴーダ(人間)を操り、愚かな戦争は約8900兆年続いた。
 それを知ったのは、彼らのパラデット宇宙図書館でだった。スクールにある図書館だ。
 歴史の本。
 彼女は記憶を取り戻した。
 そして、ラカンティアを創ることにした。
 理由は相変わらず、夢乃リス。
 友達、その子に執着するのはやはり、強烈な夢幻テンプテーションを感じたから。
 何かを知っている。
 そう、家族のこと、何かを。

 彼女は、発見した。
 夢乃リスは、好奇心旺盛だ。
 やってきた。
「見つけた。私の可愛い、友達」
 草原を走りながら、夢乃リスは、その声に反応し、ぞっとして空を見上げた。
 風が、風が、草原を駆け抜けていく、毛並みが揺れて、心地いい酔いに気分が高揚していた。
 夢乃リスは、ザバ産の果汁豊富な林檎をかじりながら、草原を二足歩行で走っている。
 旅装束に身を包み、さかんに背後を気にして、気配に気が付くと、急いで次元テレポートを試みる。
「待ちなさい! リス」
「勘弁してください。誰ですか?」
「ふふ、しらばっくれないで」
「……」
 夢乃リスは、バインドされた。
「助けて! 誰かあ!」
「さあ、私と一緒に行くのよ」
「助けて!」
 がさり。
 草原の茂みの奥から音がして、リスは救いが来たと、そちらを振り返る。
「どうした?」
 男だ。
 それも超イケメンだった。
「あ、そこのお方、どうかあたしを助けて下さらない」
 風に紛れて聴こえてくる捕縛者の声は、途絶えた。
「ふう、お嬢様とは、まだいけないな。あたしだって、自由が欲しもの」
 リスは上目づかいで無限テンプテーションを仕掛けた、その超イケメンに。
 ウインクをする。
「うっふーん」
「何だ、お前、うっふーんじゃねえよ」
「うふーん」
「だから、ん、よく見ると、かわいいな」
「ふふ、でしょー。あたしをペットにしてよ」
「いくら?」
「ザバ産の林檎さえあればそれでいいわ」
「ザバ産か、いいよ。俺も一人だった。俺はザクロ」
「あたしは夢乃リス」
「変わった名前だな。第六あたりか?」
「そうよ」
「まあ、いい」
 リスは、内心ガッツポーズをして、小躍りしたい代わりに、子細に男を観察すると、怪我をしているらしい。
「神聖人ね」
「ああ」
「私は、希少種よ」
「わかるよ。俺の友達を紹介する」
 すると、鳥が空からやってきた。
 セリアと紹介され、軽くやり取りをかわした。
「どこまで行くの?」
「お前、夢乃リス。いや……」
 ザクロが何を言いかけたのかはわからないが、察知した。
「大丈夫よ」
「さっきのは、姫だな」
「そうよ。第何番目の爆発?」
「知らないよ。記憶がないんだ」
 リスの眼が大きく開いた。
 これは面白くなりそうだ。
 記憶喪失の神聖人なんて、馬鹿みたいと思って、しばらくいてやろうと思った。
 リスは懐から、治療薬を取り出した。
「それ神聖人にやられたんでしょ」
「ああ」
「死んじゃうから、これを飲んで」
 薬を与える。
 テンプテーションのおかげで、ザクロとはすぐに仲良くなった。
 きっとあたしのことが、白雪姫にでも見えたのかもしれない。
 リスは前歯を出して人懐っこく笑う。
「さあ、付き合ってあげるわよ。行きましょ」
「心強いな」
 そして、リスとザクロは、旅を共にすることになった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

賢者が現世を支配したら

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

近未来と抵抗の村。

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

婚約破棄を受注すな

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

コップ一杯になみなみの感情を

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

どすぇー

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

よし、社長になろう!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...