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Q
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「おい、夢乃リス」
とザクロは言う。
「なによ、あたしは、いま入浴中なんだから、失礼よ、あなた」
湖で、体を洗う夢乃リスに声をかけてしまったザクロはレディの扱い方を知らないらしいと言われんばかりに、思いっきり睨まれた。
「いいじゃねえか、お前栗鼠だろ?」
「はあ?」
「はあって、そんなことより」
「はあ?」
「ああ、すまない、何ていわねえよ。とっととしろって、もう一時間たつぞ」
「だからあ、なんなのよ」
「何なのって、お前、どこ洗って……」
「最低!」
夢乃リスは、潜ってしまった。
「おいおい、溺れんぞ」
「……」
「まったく、下心なんてあるわけねえだろ」
ザクロは頭を掻いて、しばらく見守っていた。
ぶくぶく。
夢乃リスが、まるでシャーク潜水船のように、浮かび上がってくる。
「ばーか」
「わかったって。怒んなよ」
「裸踊りでもやってよ。あたしの裸を見たんだからね」
どうやら、本当のレディらしい。
夢乃リスは怒っている。
「やるわけねえだろ」
「やって」
「やらない」
「やって」
「やらない」
「やって」
「しつけえな」
「しつこいわよ」
「わかったから、あーあ、ザバ産の林檎三個でいいか?」
「え、ほんとう? やったー、何て言うと思う?」
「何なんだよ、お前」
プライドの高さに驚く、こいつは相当なたまだ、気性でも最トップクラスと見立てたが、仕方がない。
ザクロは服を脱ぐ「やってくれるのね」「ああ」、そう、振りをして、ざっと地を蹴って、森の奥へ逃げていく。
「最低!」
「最低は、お前だ、夢乃リス」
夢乃リスは裸のまま(しかし青い体毛に覆われていてどこからどう見ても栗鼠なのだが)急いで上がると、服を、よいしょっとっという感じでいそいそと着て、大きく伸びをする。
「おお!」
森の奥に行ったザクロの悲鳴が聞こえる。
「ちょっと、どうしたの?」
夢乃リスが訊くと、「ああ、何でもねえよ。まあいい、来いよ、リス」
「わかったわよ」
夢乃リスがザクロの隣に来ると、その生物を発見した。
純白の鱗を持つ蛇だ。弱っている。
「まあ、かわいそうに」
「ああ」
するとセリアが木の枝に止まっていたが降りてきて、サーチした。
「白雪蛇」
とセリアが幻灯機で答えた。
夢乃リスが近づく。
「おい、気をつけろよ」
「あら、あたしが蛇なんて怖がるわけないでしょ」
「食うなっていうことだよ」
「……はあ?」
「わりい、冗談だって、いいから助けてやれよ」
夢乃リスが、白雪蛇に手をかざす。
蛇は、一瞬びくっとなったけど、なすがままに、治療を受け始める。
ものの十秒で治る。
ザクロは、思った。
もし、マヒナルが死んだときにこのリスがいてくれたら、助かったかもしれない。いや、助かったはずだ。マヒナルの笑顔が思い浮かぶ、ふっと悲しくなって、唇を結んだ。
「おわったわ」
「ああ、よかったな、白雪蛇」
そう呼びかけられて、白雪蛇は、首をうねっとさせた。
「感謝の気持ちのようね」
リスが笑う。
そして、するすると茂みの奥へと行ってしまった。
セリアがザクロの肩に止まる。
「さあ、行こうぜ」
「うん、裸踊りを見てからね」
「……」
「さあ、踊るのよ」
「……」
ザクロは「わかったよ」と言ってまた走り出した。
「待ちなさいよ!」
「待つわけねえだろ」
ザクロが全力で疾走する。
まるで明日なき暴走のように。
「きゃ!」
背後から悲鳴がした。
「ん」
ザクロは足を止めた。振り返る。
「いってーな!」
「おい」
「ザクロ、来なさいよ」
「こえーな」
「そうよ、あたしは怖いのよ」
「わかったって」
ザクロは闘衣を脱いで、上半身裸になった。
見事に鍛え抜かれた肉体に一瞬夢乃リスの表情が華やぐ。
そして、きわめて美しい舞いを踊る。
ザクロは自身に舞踊の手ほどきがあるのを体で覚えていた。
「すごいじゃない」
しばらく踊っていると、茂みが、ガサゴソと動いて、白雪蛇がまた戻ってきた。
ザクロは目ざとく発見し、舞いをやめる。
「これでいいか?」
と投げやりに言った。
「いいわよ」
とリスがまた笑う。
今度は飛びっ切りお茶目な笑顔で。
機嫌が直ってザクロはほっとした。
まさか幻獣に舞いを見せるなんて思ってもみなかったが。
「Q」
そう聴こえた。
二人は白雪蛇の方を見た。
「Q、QQQQ」
キューと鳴くのだ。
するすると蛇はザクロに寄ってきて、足に巻き付く。
「おいおい」
白雪蛇は離れない。
「あ、恋されちゃったみたいね」
「ああ、ははは」
「あはははっは」
南中する太陽が三つ
赤と青とオレンジ。
白雪蛇が旅のお供に加わった。
「さあ、先を急ごう」
「うん」
「Q!」
そして旅は続く。
とザクロは言う。
「なによ、あたしは、いま入浴中なんだから、失礼よ、あなた」
湖で、体を洗う夢乃リスに声をかけてしまったザクロはレディの扱い方を知らないらしいと言われんばかりに、思いっきり睨まれた。
「いいじゃねえか、お前栗鼠だろ?」
「はあ?」
「はあって、そんなことより」
「はあ?」
「ああ、すまない、何ていわねえよ。とっととしろって、もう一時間たつぞ」
「だからあ、なんなのよ」
「何なのって、お前、どこ洗って……」
「最低!」
夢乃リスは、潜ってしまった。
「おいおい、溺れんぞ」
「……」
「まったく、下心なんてあるわけねえだろ」
ザクロは頭を掻いて、しばらく見守っていた。
ぶくぶく。
夢乃リスが、まるでシャーク潜水船のように、浮かび上がってくる。
「ばーか」
「わかったって。怒んなよ」
「裸踊りでもやってよ。あたしの裸を見たんだからね」
どうやら、本当のレディらしい。
夢乃リスは怒っている。
「やるわけねえだろ」
「やって」
「やらない」
「やって」
「やらない」
「やって」
「しつけえな」
「しつこいわよ」
「わかったから、あーあ、ザバ産の林檎三個でいいか?」
「え、ほんとう? やったー、何て言うと思う?」
「何なんだよ、お前」
プライドの高さに驚く、こいつは相当なたまだ、気性でも最トップクラスと見立てたが、仕方がない。
ザクロは服を脱ぐ「やってくれるのね」「ああ」、そう、振りをして、ざっと地を蹴って、森の奥へ逃げていく。
「最低!」
「最低は、お前だ、夢乃リス」
夢乃リスは裸のまま(しかし青い体毛に覆われていてどこからどう見ても栗鼠なのだが)急いで上がると、服を、よいしょっとっという感じでいそいそと着て、大きく伸びをする。
「おお!」
森の奥に行ったザクロの悲鳴が聞こえる。
「ちょっと、どうしたの?」
夢乃リスが訊くと、「ああ、何でもねえよ。まあいい、来いよ、リス」
「わかったわよ」
夢乃リスがザクロの隣に来ると、その生物を発見した。
純白の鱗を持つ蛇だ。弱っている。
「まあ、かわいそうに」
「ああ」
するとセリアが木の枝に止まっていたが降りてきて、サーチした。
「白雪蛇」
とセリアが幻灯機で答えた。
夢乃リスが近づく。
「おい、気をつけろよ」
「あら、あたしが蛇なんて怖がるわけないでしょ」
「食うなっていうことだよ」
「……はあ?」
「わりい、冗談だって、いいから助けてやれよ」
夢乃リスが、白雪蛇に手をかざす。
蛇は、一瞬びくっとなったけど、なすがままに、治療を受け始める。
ものの十秒で治る。
ザクロは、思った。
もし、マヒナルが死んだときにこのリスがいてくれたら、助かったかもしれない。いや、助かったはずだ。マヒナルの笑顔が思い浮かぶ、ふっと悲しくなって、唇を結んだ。
「おわったわ」
「ああ、よかったな、白雪蛇」
そう呼びかけられて、白雪蛇は、首をうねっとさせた。
「感謝の気持ちのようね」
リスが笑う。
そして、するすると茂みの奥へと行ってしまった。
セリアがザクロの肩に止まる。
「さあ、行こうぜ」
「うん、裸踊りを見てからね」
「……」
「さあ、踊るのよ」
「……」
ザクロは「わかったよ」と言ってまた走り出した。
「待ちなさいよ!」
「待つわけねえだろ」
ザクロが全力で疾走する。
まるで明日なき暴走のように。
「きゃ!」
背後から悲鳴がした。
「ん」
ザクロは足を止めた。振り返る。
「いってーな!」
「おい」
「ザクロ、来なさいよ」
「こえーな」
「そうよ、あたしは怖いのよ」
「わかったって」
ザクロは闘衣を脱いで、上半身裸になった。
見事に鍛え抜かれた肉体に一瞬夢乃リスの表情が華やぐ。
そして、きわめて美しい舞いを踊る。
ザクロは自身に舞踊の手ほどきがあるのを体で覚えていた。
「すごいじゃない」
しばらく踊っていると、茂みが、ガサゴソと動いて、白雪蛇がまた戻ってきた。
ザクロは目ざとく発見し、舞いをやめる。
「これでいいか?」
と投げやりに言った。
「いいわよ」
とリスがまた笑う。
今度は飛びっ切りお茶目な笑顔で。
機嫌が直ってザクロはほっとした。
まさか幻獣に舞いを見せるなんて思ってもみなかったが。
「Q」
そう聴こえた。
二人は白雪蛇の方を見た。
「Q、QQQQ」
キューと鳴くのだ。
するすると蛇はザクロに寄ってきて、足に巻き付く。
「おいおい」
白雪蛇は離れない。
「あ、恋されちゃったみたいね」
「ああ、ははは」
「あはははっは」
南中する太陽が三つ
赤と青とオレンジ。
白雪蛇が旅のお供に加わった。
「さあ、先を急ごう」
「うん」
「Q!」
そして旅は続く。
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