iラバーポエマーズ

鏑木ダビデ

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ボディガード

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 ある日のロックミュージシャン。
 陰りのあるその頬が、ゆがんだように、うなりに揺れる。
 さんざめくトキメキの少年は、恋をした。
 エッジのある少しエッチなギターは、よどみのないボーカルの魂の叫びに、飲み込まれた猛りゆく夕凪に揺れるカリフォルニア。
 叫び、共鳴、悼み、多くの血が流れた、もう、あの頃の君はどこへ行ったのかと、詩人の声がする。
 俺は、ある女のボディチェックを受けた。そこにはダイナマイトのような情熱が眠っていた。女はそれに気が付かない。俺はニヤッと笑った。すると女がこう言った。
「どうぞ、その先には楽園があるわ」
「ありがとう」
 そして、セブンスターの箱には細切れになった弾薬と、ばらばらになった拳銃の部品。
 俺は、アリーナに入っていった。
 観客の喝さい
「滅んで行け。ロックスターめ!」
 怒りの心は意味もない焦燥と青春の失望をロックスターに重ねていた。
 爆発寸前のテンション。
 ヴァーティゴ!
 鋭いエッジのギターが、俺の心臓の横を、ナイフのようにかすめていく。
 俺は血を吐く。
 そして、反撃の準備。
 バッグから、組み立てる。体中が焼け付く。胸糞の悪い悩みが、俺を眩暈のように襲う。
「あいつめ。いつか、俺は……、」
 信じていた。
 青春が、俺の体を蝕んで、もう一歩も動けないと叫んで、床に倒れる。
 しかし、もがいて、もがいて、光へと手を伸ばす、そこに憧れのスターがいた。
 銃はいつの間にか華に変わっていた。
 すると、俺は取り押さえられた。
 一直線に血を吐きながら、ボノに向かっていく。
 ボディガード。
 俺は、捕まり、天を仰ぎ見た。
 そこには、あの日の母の父の友の過ぎ去っていった片思いの人の面影があった。
「ごめんよ」
 俺は、消えて逝く。
 そして、ロックコンサートが終わり、夢から覚めた。
「さいこー」
「いまいち」
 いろんな声の中俺は一人こうつぶやいた。
「プライド」
 そして、皆に紛れて、夜遅く、電車に揺られて、家路についた。
 そんないつかの思い出。
 俺とロックスターは、きっと恋に落ちたのだ。

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