タイト&レイブ

鏑木ダビデ

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スペーストレイン

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 光のベクトル。
 カンカンっと音がする。
 トランスミュージック。
 宇宙の音楽。
「スペーストレイン」
 激しい打ち込みの音が、鳴り響く。
 カンカンカン。
 光のベクトルが、月と星々に反射しながら、一種のレイブ会場のように、栗鼠原市を覆う。
 完全包囲網。
「エックス」、王浄太郎は、街を一望できる展望台にいた。
「月子よ」
「はい」
「面白いことになってきたな」
「はい」
「このXファーファ」
「はい、アークです」
「なかなかの曲だが、甘い。ビート感覚が、ありきたりだな。私のつくる曲とは違うか」
「そうです、浄様は偉大なる芸術家」
「わかっている。駅前で試す予定だったが」
「ここでいいと思います」
「いいか、月子、奪うぞ」
「いいと思います」
「さあ、レイブパーティーだ」
 王浄太郎すなわちエックスは、「スペーストレイン」のリズムに乗りながら、快感を押し殺すように、月子の首筋に接吻をした。
 月子は無言で受け入れた。
 殺意を感じたが、王は、その殺意こそ欲していた。

 人々は、発狂していた。
「神様」
 と発しながら、神輿を担いでいた。
 宮司が、「ああ、ああ、神様、ああ、ああ、リスさま」
 と音頭を取りながら、笛を鳴らし、街を練り歩く。
 女も男も、いたるところでセックスをしながら、祭りは最高潮に達してきた。
 路上では、喘ぎ声と唸り声が飽和して、絶頂を迎えても、何度もすぐに混じり合う。
 Xファーファ。
 しかし、宮田は、確信した。
 このパルスは、Xファーファではない。
「音をあげろ」
「はい、司令官」
「すさまじいな。これは、人外だな」
「いったい、どうなっているのでしょうか」
「ああ、神輿を狙うぞ」
「はい」
 操作官が音楽のボリュームを一気に上げる。
「レベル七」
「はい」
「レベル八」
「はい」
「レベル九。びくともしない。精神破壊してやる。エックスポイントを破壊しろ。最大値だ」
「レベル十」

   それは一瞬のことだった。
   銀河の中で、控えている宮田達。
   まさにこの曲のように、列車に乗っていた。
   宇宙攻撃車両通称『スペーストレイン』
「リフレクターです!」
「何!」
「神輿からです!」
「ふふ、すごいな。さすが、神の力」
 スペーストレインは、防御装置が作動しリフレクトした精神破壊光線を相殺した。
 それでも、漏れが、車両を揺らす。
「いくぞ! あの狂人たちをせん滅する。神輿を奪うぞ!」
 ワームホールから、栗鼠原市の上空に出た。

 リンは、反応した。
 夜空に現れたスペーストレインに。
「行くわよ、レイジ、コウ、ナツメ!」
 三人は、頷いて、神輿がある中央通りを目指した。

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