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旋律がない

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うら悲しい夜錆の音に、擦り切れた靴、赤い髪、引きずるように、足が止まる、もう、孤独の夢が、崩落していく彼方の壁に、落書きをしたいつかの少年は、明け行くこの街で、語り合おう、夜を越える、仲間から離れた、独りきりのステップ、指を切るように、感覚を切る、線を切って、咳キレた肺に入れる、赤茶色の空気が、細胞に、入り込んで、痺れさせる指先に、触れた、虚無の断絶、断線したギターが、小夜鳴き鳥の憧れに、少女の肉体を刷り込んだ、完全な双頭、鷲と乙女の両頭に、切れ込んでいく路上の、哀れ、音が出ない、沈んでいった体に、回っていく、酒が、もう、戻れないと言った、あの子の髪を撫でる、幼い日の音楽、旋律がない。
言葉を繰り返して、路上に消えた、流星のようなあの子の吐息が、首筋に触れる、狂気の夕方、雑踏の影に、何もない、影法師が、杖を持って、物乞い、信じられる日々に、いれた、一撃のタトゥーは、足首にかかった、俺のタバコの煙、誘うように、路地裏に、せり出す、半身の身もだえが、越えられない、声に、乗ってくる、ダイアのようなその微笑で、ダイア回線、つながっている、もう、飽きてくるなら、商いで、希望の丘で、お金を勘定、支払われた対価が、あなたの孤独と引き換えに、私の言葉を、信じてる、そして、そそり立つ塔に、入った、屋上で、待っている時は、金なり、鐘はない、でも、鐘がなって、悲しみに震えるエンジェルは、、フルートを奏でる、戦慄を感じて、旋律を抱きしめる、そして、スコアの風が、まるで、希望の七色の香りのように、髪を撫でる、
パヒュームを振って、気取らない君の乙女が、言った、だから、さようならの前に、あなたは、失った幸福の分だけ、幸せをつかむために、生きてきた、なのに、なんでそんなに苦しむの、
俺は、問いかけを受け流して、そそくさと背を向けた、もう人生に絶望している、孤独ではなく、大きく揺れる乳房の夢に、恋をする季節を離れて、閉じこもる一人きりの心世界。
体と心に生きている一千億人を超える少女たちが、何度もノックする、俺の心の扉の前で。
鍵は、あったか。
鍵は、無かったが。
きっと、彼女たちを信じることが、生きていくというそのものになる、
美辞麗句を越えて、言わせてもらえば、虚無から、脱出するのなら、彼女たちの気持ち、
素朴で純粋で、嘘つきで、温かくて、傷つきやすい、会話にならない俺の声を、そっと聴いてくれる、その深い胸の香りが、胸いっぱいに吸い込んだなら、もう、ベルガモットとラベンダーと、スパイスの香り、ブレンドするように、彼女たちは、生きている。
空の上で、俺の頭上から、見上げて、鳥が1羽飛んでいくと、希望の鐘が鳴っている。
旋律が、無いというわけではない。
ステップを踏めば、きっと、笑顔を見せて、一緒に踊ってくれる、
信じることが、大好きだった。
疑いたくないから、真っすぐに、太陽を浴びたい。
死ぬには、まだ早く
生きるには、あまりにも遠すぎる、
旋律からさらに音楽を鳴らすため、それ以上に、肉体を信じるために、彼女たちの世界にそっと忍び込んで、後ろから囁きたい。
無言の旋律。
愛が信じられるなら、まだ生きていけるのだろうか。
愛が失うことなら、自由を殺して、羽をもいで、落ちてきたい、そんなロマン主義は、いらない。
全部が欲しい、でも、いらない。
ただ、温かいご飯と笑顔と、ささやかな言葉、そんなものさえ失うなら、むしろ、青空さえも憎い。
後ろ髪をなびかせて、道を行く、健気な、彼女の微笑に、憧れを見た、いつかの子供が、道に迷って、もう戻れない、今に、しがみつく、すると、一台の車が、通り過ぎた。
車窓で泣いている、顔が、俺に、生きる意味をくれた。
ありがとうと言って、傷ついた心に、見えない明日を刻み込むタトゥーは、旋律は、独りではなく、何かに弾かされている運命論のように、呪う前に、この人生が、上を向いて、孤独が終わることを約束してくれる、彼女たちを信じることこそ生きること、愛すること、そうすれば、旋律は終わらない、同時に、旋律は終わる、神経が、研ぎ澄まされて、車のタイヤの走る音に、ダイアモンドの夢を見た。
帰りたい、少年の頃に。
帰れない、もう、息絶えるというのなら、この魂が腐る前に、生まれたい、
また赤ん坊に、またあの日々に、
照り返す季節に、乳母車を弾いていた老女の夢が、俺の人生か。
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