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元型への手紙

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心に夢を抱いた少女は、大気の中で、森の中で、川の流れの中で、ささやかな幸福を願った、晩に、夢を語る詩人に恋をした。
愛は、きっと、肉体を越えた、現象の盤上で、宇宙から地球へ降りてくるひらりひらりと舞い落ちる思春期の雪
成長しないで元型さん、元型ちゃんとは言わないから。
でも、語ることに意味がないのだとした、ボサノバで踊るように、月に恋をしたときに、大人になってね。
悠久の別れの後に、再会をするなら、桜の落ちる朝がいい。
その上に落ちる涙は、枯れていく体に息を吹き込む、元型さん。
子供のままではいたくない。なんて言わないで。
抱きしめてあげるから、そっと目をつぶって。そのつぶらな瞳と心に、投げかける問いかけは、視線の罪。
ハードボイルドの夜明けに、背中にしがみついた鳥や川の嘆きを忘れない。
タバコに宿った今という瞬間に、ため息から接吻。
瞬間に恋をするように、思春期のあなたにキスをする。
朝一番の汽車で旅立っていくなら、心を置いていってください。
私が、拾うから、落ち葉に紛れた秋に、そっと探して、土に口づけて、大きなイチョウの葉を天に掲げて、あなたの夢を待つ。
あなたの夢は何ですか?
きっと、帰ってきたら、私はあなたにコーヒーを入れて、本を読もう。
成長したあなたの元型人生に、託したい。
想いはあなたと一つ。
愛がすべて。
それから、愛を内に秘めて、新しい門出に、服を着替えましょう。
エレガントなドレスを着てパーティーに出かけたら、恋が始まる。
あなたを見つめる視線を切り裂いて、うたかたの晩にドレスを脱がしたい。
元型少女、レディになって帰ってきてね。

                              鏑木レイジより
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