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ディール

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薔薇の花びらが、清廉な夜に散る時、雪の中で、慰めの春を待つ、まだ、深い静かな戯れを、感じている、一台の車が、大きな音を立てて去っていく。散る花のような、唇のままに、微笑を浮かべた、乙女の囁き
耳元で、話しかけて、と望んだ瞬間に、一枚の絵画が、砕けていく、怜悧な頬が、寒さに凍える、季節を感じる、あなたの息。
透明な白い菊、大輪ではなく、野に咲くような、兎が、一匹、通り過ぎる。
耳が大きくて、ぴくっと動く、敏感な揺れる毛に、雪がかかって、信じている、あなたの言葉を感じている。
声とか、質とか、大きさとか、色とか、色々あるけれど、あなたのその澄んだ瞳の先にいる僕は、幸福な夢に、恋焦がれる、夢を見ている詩人、僕の視線にいる住み続ける、あなたの恋が、僕をまた清らかな夢に導く。
春遠いといえども、あなたも遠い、去っていく純情が、穢れなき花弁に息を吹き咲かせる雪が、みぞれに変わったなら、あなたの、冷たい手を包みたい、きっと、溶かした、悲しみと涙と、傷ついた心を、僕の言葉でなく、真心、きっと、疾風の詩が、風車小屋をカラカラとまわして、湧き出る清水を、涙のように、流していく、止まらない悲しみが、続くなら、僕は、あなたの隣で、一緒に、風に生きたい、望みは、運命を越えられないけど、飛び越えた柵の先に、広がる景色に、咲き誇る色とりどりの花たちが、友情を咲かせる、名前はないけど、美しい花、あなたはディール。僕のプリンセス。純真な雪が、手の中で結ばれる、包み込んだ雪の結晶に、涙が、溢れる、一つ落ちて、結晶に水滴になって、一緒に、凍り付く、僕はそんなあなたの清らかさに、惹かれる、危険なディール
自覚のない瞳で、僕を惑わす、仕草と声とその静かさ。
影のように、求める、重なる、不器用な傍で、映り込む水たまり、雪が解けて、氷になって、跳ねあがる、体の重さに、泣いている、でも、怜悧な風、一陣の影が、ひらりと舞う、するとあなたの花びらが、ふっと咲いて、香る、私の口元で、大きな声で、話したい、けれどあなたは、お姫様をやめないか。
僕は詩人に過ぎないけれど、魂で描く世界に、誇りを持っている。
あなたは世間を知らない姫だけど、自由に憧れる気高い純潔を持っている。
僕のペンが、あなたの体を描くとき、まず第一に、その瞳を描く。
見つめ合ったなら、僕は、まるで、羽をもがれた鳥になった。
落ちてしまった、大地に、すると、白い雪の中で、あなたの純潔の血が、つっと地面を伝い、空さえ見えないこの世界で、奇跡のような出会いを、信じている、信じている、そのわけは、あなたの薔薇を摘み取りたい。しんしんと降る雪の中で、舞う風に、体を預けるように、舞う羽根に死を授けるように。
言葉があなたの前で、凍っていく。
本当に、美しい女性に会うなら、言葉は無力なカスミソウ
本当に、恋する女性に出会ったから、僕は、言葉を捨てて、再び大地へ兆す、あの美しい赤き薔薇のように。
太陽が陰って、星が泣きだした晩に、あなたの求める声が、宇宙に響く、僕は、走り出した。
この荒唐無稽な世界で、暗き空を渡る足がもつれて、たどり着けない。
いつまでもいつまでも、あなたの空洞のような瞳が、暗く陰る、まるで、菊のような香りに、戸惑いの匂いを嗅いで、ある一点の焦点にあわない、あなたの、服は何処か、寂しげで、あなたの瞳の清らかさに、似つかわしくない。
秘めるように、目を伏せた、谷底の水が、氾濫して、水でひたす、体が、思いのほか沈んだから、溺れてしまう、あなたの瞳の中の涙に、あなたの眉に兆した戸惑いの春に。
暖かい季節がこないか。
服は、僕と君には似合わないよ、ディール。
福は、僕と君には似合わないかい、ディール。
香服をきて、幸福な夢に、酔いしれる、すると南からそよぐ風が泳いで、雪に、触れる、溶ける温度に、体が、震える。
恋の、始まり、春の訪れ、むせび泣いて、破瓜の夢に、預けるような価値観が、これ以上ないという絶好の場所。
薔薇の中で、眠りたい。
あなたが菊なら、僕は、薔薇。
あなたを抱きしめて、眠りたい。
冬眠から覚める、動物たちの中で、ずっと春が終わるまで、口づけ続ける。
ずっと、ずっと、そばに居たい、ディール。
心がほどけていく。
僕を暗闇から助け起こしてくれたのは、あなたの瞳の中にある愛。
そう、それだけだった。
後は、恋が、果たされて、果てていく。
体が溶けていく、蜜のような花の中で、おしべとめしべをくっつけて、花粉が、舞い散る、色鮮やかな草木の祝福。
もう、ディール。
姫をやめて僕の女になってくれ。
僕は詩人をやめてあなたの王子になりたい。
ディール、ああ、ディール。
春はこないか、雪は消えたか。
僕と一緒に溶けていこう
僕と一緒に生きていこう。まったく死ぬことを想わないで。
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