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ミオミ

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夢を見る。
あなたの夢を。
愛することができない俺に、真実の瞳で、見ている。その奥に宿る、一つの希望は、はかなく散るような、花びら、桜色をしたあなたの心が、惹きつけ合ってやまない偽りを越えた先にある、あなたという光が、求めるままに、手を振った、夕暮れのあなたの、睦まじい悲しさは、尊い魂。
無垢という穢れなき感情が、燻る喉元に、引っかかる、煙草をふかして、空を見上げるあなたの幻を感じる。すると、不思議な気持ちが、勇気を抱きしめる、奥底で、一人ぼっちの闇の中、指先だけを、ただ指先だけを、上にあげて、大空を指し示す姿は、白鳥、生まれてきて、あなたと出会えて、生きることが、こんなにも、美しいなんて、鏡を割る、俺の拳が、そっと開かれて、あなたの頬に、血の付いた手の平で触れる、痛みを分け合うことができると感じ合った、あの夜べ、祈りを捧げるあなたの閉じられた両手の中に、確かめるように、包んだ、ぬくもりが、俺の、頭に置かれて、涙より前に、心が、死ぬことを拒んだ、「ついていきたい」と囁いた、その声に、白鳥の翼、折れそうな羽が、夢見るように、囁くように、反射する、俺の想いが、伝わるなら、どうか、笑って下さい、ミオミ。
ありがとうと返して、何も言えないから、あなたは微笑んでくれる、頼りないほど、美しい笑顔で。
黒い薔薇の揺れる、視線の戯れる音が、舞うように、花びらが、あなたを例えるなら、白き花、白き薔薇。
俺の色が、祈りを越えて、届くなら、白を染める血の色を塗りつぶして、あなたの優しさを汚す陰りの月を、暗き底で、待つ、約束を、果たす希望を、繰り返す痛みを、こらえるように、電線に止まる小鳥の群れから、見放された俺を、白鳥のような慈しみで、ただ泣いているだけ、でも、想いを織り込んだ折り紙、その中に、包み込んだ愛、気まぐれでどこか真面目で、でも、清らかで、月の光る晩さえ、見えない瞳が、兎のような色をした、歯を立てる音に、齧るあなたの首筋に、青い草を食むように、野花が、散る、繊細な指、動かしたあなたの衣服を擦る、すると漏れる電燈の下の小虫、嫉妬する夜明けが、近づく。
抱きしめ合うままに、求め合って、光が混ざり合う、孤独を越えて、一つになる朝。
あなたがいくと言って、引き止める、俺の手に、力がこもらない、そんな声が、泣いているまだ気の早い星、その日が、始まって、終わる前に、もう一度呼びたい、ミオミ。君の名前だけを。
よく君が口づさむ月を孕んだ口笛に、草木が揺れて、俺の声を、愛してくれる、なぜッと問えば、真っすぐな目で、弱さも強さも隠さない、あなたのその優しい形が、好きです。
もし、太陽に、心が、あるなら、もし、この星に、涙が溺れるなら、その一滴でも、指で、触れて、そっと、拭い去りたい、あなたを抱いて、背中に礫のようなあざを、キスの印を、壊れるほどに、離れていくなら、放したくないと叫んだ俺の心は、幼い少年の声だった。
あなたの名を呼ぶほどに、喉が渇く、潤して、ほどいて、衣擦れのような、まろやかなあなたの唇に、そっと重ねる、俺の乾いた唇は、求めるけど、遠い、日差しが帰ってくる頃、帰りたい、それは自由な青空あなたです。



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