コロニー

神楽 羊

文字の大きさ
1 / 20

第一話 ある村の話

しおりを挟む
血の臭いは嫌いだった。
 

何故人の心を喰ったのか、それは憎かったのだとずっと言い聞かせてはいたがそうでは無かったのだと思う。

 ただもう今はそんな事どうでも良い。






 もう全ては焚べられているのだから。   








 

 私が思い出せる最初の記憶は砂の味、砂と土埃が舞っていてどんなに唾を吐いてもジャリジャリと口の中から音がする様な。
 水で口を濯いでもすぐに砂を噛むほどの砂嵐がこの場所には度々訪れる、この時代は砂土の時代と呼ばれていた。
 私達の暮らしは質素ではあったが不自由は何一つなく村は豊かで平穏に満ちていた。
 父と母そして三人兄弟の次男として私は生まれひもじい思いをする事もなく、日々はただ暖かったと今も思い出せる。
 両親は信心深く私達が生きていけるのも全ては神様のおかげだと良く言っていた。私が神様って何?と聞くといつも
「いつかわかる時が来るわ。」
 と笑うばかりで教えてはくれなかった。

 そんな村にある日、数十人の兵士が村にやって来てその中の一人がこう言った。
 羊皮紙を取り出し難しい言葉を並べ立てた後に

「約束を果たせ。」と

 兵士が私の手を取り馬車に乗せようと力強く引っ張る。声を上げ鍬や木の棒で襲いかかった私の父親と何人かの大人達を兵士が威嚇し、それでも抵抗する者をめったうちにした。
 残りの大人達は子供達に神の御加護をと口にしながら手を合わせ、そして祈っていた。
 父親が嗚咽を漏らして泣いていた事を鮮明に覚えている。
 親の涙を見るのは初めてだった。

 そして年端も行かない私達数人は連れ去られた。
 私は泣き叫びながら父と母の無事を祈りその後これからの事を思い不安になった。
 夜が明ける頃、私は鍵をかけられた頑丈な馬車の窓から逃げられないと悟るには充分な城塞を見た。

 厳めしい正門にはこう刻まれている。






「意志は偶然の中にこそ宿る。」
 





 この場所はコロニーと呼ばれていた。

連れて来られた子供達は左手の甲に聖痕と呼ばれる印を刻まれた。
 そこからの生活は余り覚えていない、逃げようとして良く殴られた事以外は。
 私達と同じように連れ去られて来たであろう子供達が集められクリーチを狩る兵士になる為の訓練を受け、字の読み書きなどを教え込まれた。
 同じ時期に集められた子供は五人程いたがコロニーに暮らす者は二百人を超えていて逃げるには人目が多過ぎた。
 彼らはこの場所で一つの共同体を形成していた。
 上からの命令は絶対で服従を是とされる。
 出来ない者は殴られ優秀だと認められた者には食べ物が多く与えられた。
 これは逃亡を許さない為の躾の意味合いが強かったのかもしれない。



 そして気づけば私は十八歳になっていた。



 親と離れ離れにされる子供達、繰り返される悲しみと不条理の連鎖、その中に私は立っている。
 父と母、そして兄弟に会いたいとずっと思っていた。
 なぜ会いたい時に会えないのか、私は時々物陰に隠れて泣いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...