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近づく距離 執事お嬢様に興味を持つ

episode19 秘密の隠れ家で 後編

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「あれが絵を描く小屋か?」
「そう。落ち着いてゆっくりできる。」
周りに広がった新緑の若葉が
いい具合に小屋を隠している。

中に入ると
小さいが水回りも整っていた。
「お茶淹れます。
狭いけど適当にかけて下さい。」
という彼女に甘える事にする。
ソファに腰掛けると
なんとも幻想的な景色が広がった。
小さいながら流れる川の水が
澄んだ湖を作り出し
生茂る新緑の若葉が水鏡で映し出される。

(確かに‥ここなら時間も忘れて
ゆっくり寛げそうだ。)
目を閉じれば水のせせらぎが
非常に心地よく聞こえる。

「‥どうですか?
私、そこからみる景色が好きなんだけど」
水音に混じってあいつの声が聞こえた。
「あぁ‥気に入った。」
「良かった。」
その声と共に広がる‥心地よい香り。
初めて彼女と出会った時に
嗅いだ珈琲だと分かった。

「お前、珈琲淹れるのうまいな」
「ほんと?良かった好みで」
「お前は飲まないのか?」
「うん‥水とか制限あるし珈琲苦いから」
こいつが病気持ちだったと思い出す。
「練習したのか?」
「うん。佐々木さんやマリさんに
苦い珈琲出して困らせた事もあった。
‥その、あなたに気に入ってもらえて良かった。」
「あぁ‥」
「ここでクラッシックとか音楽流すのもいいけど流す?」
「いや、今日はこのままで良い」
そういうと
「分かりました。
じゃあ、私は絵を描くから好きなだけ
ゆっくりして下さい。」

そういうと隣で絵を描く準備を始めた。
何気なく彼女の動きをぼーっと見守った。

下書きをするつもりなのか絵具ではなく
鉛筆を削っていく。
カリカリ‥
慣れた手つきで削っていく。
流れるような動きだ。

途中‥髪が邪魔になったようで
そばにある輪ゴムで髪を
結ぼうとしているので‥
「おい」
思わず声をかけた。
「輪ゴムだと髪が痛むだろ」
彼女に近づき髪を触る。

まともに切ってもらえる人もいないのだろう。自分で切っているのか無造作に扱われている。

「いつも自分で切ってるのか?」
「うん‥」
「綺麗な髪なのにもったいない。
切ってやろうか?」
「え‥?」
「ここに道具がないんで今すぐは無理だが、屋敷に帰ればある。」
「でも、悪いです。
どうせ誰も見てないし自分で切るよ。」
「せっかく一緒にいるんだ。
それくらいしてやる。」
といえば

「あの‥今いう事ではないと思うんだけど、GW皆んな旅行いくでしょ?」
「あぁ‥
そういえば学園の奴らが話してたな」
「私、そんなにお金ないし景吾さん旅行に連れていけないから。」
ーーと封筒を渡される。
そんな髪も切ってもらうのも申し訳ないと言葉と共に。

「‥なんだこれは」
「その‥少ししかないけど
友達と遊んだりするのに使って下さい。」
そういう彼女。

悪気は全くないのだろうが‥
「はぁ‥こんな物は受け取れない。
別に旅行に行きたいという訳でもない。」
「え‥」
呆然と立ち尽くす彼女。
「他の奴らが行くからといって
俺を旅行に連れて行かないといけない
とは決まっていない。」
「‥」
「それに‥お前が頑張って稼いでる小遣いだと知ってる。受け取れねぇよ。」
「あ、でも‥」
(キツく言いすぎたか?ちょっと傷ついた顔してるな。)

「だが、お前がその気でいるんだ。
近場で映画でも一緒に観に行けばいい。」
「え、一緒に‥?」
「そうだ。何か問題か?」
「いや、、、問題はないけど」

ーーならいいだろ。
まずはその前にその不器用に切ってる髪を
なんとかしねぇとな?

どんなヘアスタイルにしようか。
そういう彼の顔は真剣だった‥
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