終末ラジオ

相澤愛美(@アイアイ)

文字の大きさ
上 下
2 / 2

終末ラジオ2

しおりを挟む
 日本全土を襲った超地震から
三週間が経った。私は保護され、国の施設に入った。施設と言っても即席で作った大きなテントみたいな施設だ。

 そこには200人くらいの人たちが一つの施設に入っている。施設のテントは沢山あったが、電気や水はまだ通っていなかった。

 私は腕に木を巻きつけられ、折れた右腕は固定されていた。施設は自由に出入りできたが、一つだけ入ってはいけないテントがあった。

 それはもう助からない人達がいるテントらしい。中からは毎日うめき声や泣き叫ぶ声がその施設から聞こえて来る。

 ある夜私はトイレに行きたくて、ラジオを持ち、ゆっくりベットから降りて外に出た。

 テントの外には体育座りをして前後に揺れている人や、意味の分からない言葉を発している人達がいた。

 地震でおかしくなってしまった人達だ。

 入ってはいけないテントの前を通るとその施設から突然女の子が出てきた。彼女は銀色の髪の毛で、ブルーの瞳の女の子だった。

 外国の人?私は一瞬そう思った。この施設での彼女の存在は、異質に思えた。

 彼女は胸に小さなリボンの着いた白い半袖のワンピースを着ていて、腕には可愛いピンクのブレスレットをしていた。

 彼女はこちらに気づき、私を見てニコっと微笑んだ。ぼぉっと彼女を見ていた私は、びっくりして軽く会釈した。

「ねえ それ何持ってるの?」

 彼女は少しかがんで耳元から髪をかきあげながら、私のラジオを指差して言った。

「ラジオ…だけど」

 私は片手でラジオの紐を持ち上げ、
んっ と彼女の顔に近づけた。

「そうなんだ!これがラジオ…」
「初めて見た!」
「ねぇ!動くの?ラジオ」

「うん…あっ  でも聞こえないかも」

 私はラジオのスイッチをオンにしたが、地震の影響で電波が来ていないので、どの周波数にしてもザーッと砂嵐が聞こえるだけだった。

「…今はラジオやってないね…」

「そっか。残念」

 彼女はそう言って下を向いてる私の顔を笑顔で覗き込んだ。私は少し恥ずかしくて目を逸らした。こんな状況だけど、彼女の笑顔はとても可愛かった。

 満月に照らされて見る彼女の横顔は美しくどこか懐かしい感じがして、なんだか不思議な子だった。

「ま…あ、間違えた!」

 彼女は頭に手をやり、自分の頭をパタパタ叩いた。

「ねぇ あなた今いくつなの?」

 女の子は笑顔で私に聞いた。

「しょ…小学校6年生」

「そうなんだあ。私はユミ」
「多分、同い歳だよ!」

 彼女はそう言って小さな手で、私のラジオのを触りながら周波数を合わせるダイヤルを見つめていた

その時だった。砂嵐だったラジオから突然声が聞こえた。

「こんばんは、皆さんいかがお過ごしですか?」

「え?!え?ラジオが!放送してる」
「ラジオやってるの?」

そのラジオの声は私が地震の前に毎日聞いていた優しい声の女性ナビゲーターだった。

 私達はびっくりしてラジオに耳を近づけた。こんな悲惨な状況でもラジオを
放送しているんだ。

 そう思うと私は嬉しくなって、なぜかホッとして泣いてしまった。

 いつもの日常が少し帰って来た。そんな気持ちになったからだ。

 それと同時にお母さんを亡くした悲しみがまた襲って来た。

沢山の涙が溢れて来た。そしてわんわん泣いた。

「綾香、大丈夫?泣かないで」

 ユミは私を優しく抱きしめた。

「うぅぅ…お母さん…会いたいよ…」
「お家にかえりたぃ…」

 彼女は黙っていてぎゅっと強く私を抱きしめてくれた。

「大丈夫だよ きっと大丈夫」
「あなたは強いわ」

 彼女の身体は暖かかった。
 彼女の身体から優しさの匂いがした。

「あなたに会えて 良かった」
「本当に良かったよ…」

 彼女はそう言うと私の頬に自分の頬を寄せた。

 なぜか彼女も少し震えて泣いていたように感じた。

 何分泣いただろう、私は夢中で泣いていた。今まで我慢していた悲しみが一気に押し寄せたからだ。

 ふと気づくと彼女はいなくなっていた。

 ラジオを見ると77.00にダイヤルが回してあった。

 私は振り向き何度も彼女を探したが、どこを見ても彼女はいなかった。私は諦めてベットに戻り、ラジオから聞こえて来る放送を聞いた。

「おやすみなさい。それでは良い週末を!」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...