1 / 3
1(序)
しおりを挟む
「バン!」突然耳をつんざく破裂音が響き、道を歩いていた人達は皆驚いて身を低くした。どこかで何かが爆発がしたのではないか……
辺りのビルを見渡したが、どこにもその様子は無かった。
原因は近くにあったデパートの大きな宣伝用バルーンが空中で破裂していたものだった。
原因は不明。怪我人は無かったものの、後に警察が介入し事故現場を調べたが、毎週メンテナンスもされておりバルーンに穴などは一つも空いていなかった。
しかし不思議な事が起こっていた。
バルーンは外から強い圧力をかけられ、握りつぶされた様に破裂していたのだ。
「不気味だな……」
警部、安藤はそう呟くと無精髭をなぞる様に、何度も顎を触っていた。彼は破裂事件の現場であるデパートの屋上に来ていた。
「安藤さん、コーヒー……ブラックで良かったですか?」
「あぁ……ありがとう佐山」
警部補の佐山は安藤に缶コーヒーを渡し、破裂したバルーンの残骸を不思議そうに見下ろしていた。
「お前どう思う、これ」
「分かんないですね、さっぱり」
「だよな……」
「まぁ怪我人もいない事ですし、自然損耗として書類で片付けましょうよ。管理者には注意喚起済み、としておきましょう」
「まぁ……そうだな」
安藤は吸っていたタバコの火を空になったコーヒーの缶にぐっと押し付け、2人が現場を離れようとしたその時、黒いフードを被った子供が屋上に立っていた。
見た目は小学生くらいの歳で、下を向いて顔が見えない状態だった。
安藤はそれを見て、長年の警部の“カン”から何とも言えない不気味さを感じた。
「おい、危ないじゃないか。子供がこんな所に来ちゃダメだろ?」
佐山は子供に近付き、小さな腕を掴もうとしたが、子供はその腕を振り払う様にしてから、右手の拳を前に突き出した。
「さっきまで元気だった物が、どんな風に壊れたか見たかった…」
子供はそう言うと握っていた拳を開いた。
それを見た安藤は目の前にいる佐山に向かって叫んだ。
「佐山ぁ!離れろ!そのガキは……」
子供は開いていた掌を強く握った。
「バン!」
安藤の叫びも虚しく、鈍い音と共に佐山の体は四方に弾け飛んだ。
それを見た安藤の瞳孔は開き、微動だにせず、落ちていく“佐山だった物”を見ながらその場に立ちつくすしか無かった。
「何だ……お前は……」
子供は何も言わず、また同じように安藤に向かって掌を開いた。
「クソガキが…」
「バン!」
「あぁーまた負けちゃったー、強いんだよな、このステージのボス……」
同じデパートの4階ゲームコーナーでは、親の買い物が終わるのを待つ子供達で賑わっていた。一方で、その後ろでは迷子の子供を探す母親のアナウンスが流れていた。
「塩見 優子ちゃん、塩見 優子ちゃんお母さんが4階サービスカウンターにてお待ちです」
「もう一度アナウンスします……塩見 優子ちゃん……」
サービスカウンターには不安そうに子供を待つ母親と、それを見守るお店の人が椅子に座って待っていた。
「優子……どこ行っちゃったのかしら」
母親が辺りを見回すと、非常階段の方から女の子が長い髪の毛を揺らしながらパタパタと走って来た。
「ママー!ママー!」
「優子!ああ良かったわ。見つかりました!」
女の子は走って来た勢いのままお母さんに抱きつき、頭を擦り付ける様にした。
「ダメじゃないの!お母さんから離れたら!危ないでしょ?」
「うん、トイレに行ったら迷っちゃった」
安心した母親は店員にお礼を告げ、子供と手を繋ぎサービスカウンターを後にした。
店員の女性は去りゆく女の子に向かって、後ろから笑顔で声をかけた。
「優子ちゃん、もうお母さんから離れたらダメよー」
女の子はその声に気付くとゆっくり振り向き、女性店員に向かってバイバイっと手を広げ、笑顔でその掌をグッと握った。
空蝉(うつせみ)の弾丸 (序)終
辺りのビルを見渡したが、どこにもその様子は無かった。
原因は近くにあったデパートの大きな宣伝用バルーンが空中で破裂していたものだった。
原因は不明。怪我人は無かったものの、後に警察が介入し事故現場を調べたが、毎週メンテナンスもされておりバルーンに穴などは一つも空いていなかった。
しかし不思議な事が起こっていた。
バルーンは外から強い圧力をかけられ、握りつぶされた様に破裂していたのだ。
「不気味だな……」
警部、安藤はそう呟くと無精髭をなぞる様に、何度も顎を触っていた。彼は破裂事件の現場であるデパートの屋上に来ていた。
「安藤さん、コーヒー……ブラックで良かったですか?」
「あぁ……ありがとう佐山」
警部補の佐山は安藤に缶コーヒーを渡し、破裂したバルーンの残骸を不思議そうに見下ろしていた。
「お前どう思う、これ」
「分かんないですね、さっぱり」
「だよな……」
「まぁ怪我人もいない事ですし、自然損耗として書類で片付けましょうよ。管理者には注意喚起済み、としておきましょう」
「まぁ……そうだな」
安藤は吸っていたタバコの火を空になったコーヒーの缶にぐっと押し付け、2人が現場を離れようとしたその時、黒いフードを被った子供が屋上に立っていた。
見た目は小学生くらいの歳で、下を向いて顔が見えない状態だった。
安藤はそれを見て、長年の警部の“カン”から何とも言えない不気味さを感じた。
「おい、危ないじゃないか。子供がこんな所に来ちゃダメだろ?」
佐山は子供に近付き、小さな腕を掴もうとしたが、子供はその腕を振り払う様にしてから、右手の拳を前に突き出した。
「さっきまで元気だった物が、どんな風に壊れたか見たかった…」
子供はそう言うと握っていた拳を開いた。
それを見た安藤は目の前にいる佐山に向かって叫んだ。
「佐山ぁ!離れろ!そのガキは……」
子供は開いていた掌を強く握った。
「バン!」
安藤の叫びも虚しく、鈍い音と共に佐山の体は四方に弾け飛んだ。
それを見た安藤の瞳孔は開き、微動だにせず、落ちていく“佐山だった物”を見ながらその場に立ちつくすしか無かった。
「何だ……お前は……」
子供は何も言わず、また同じように安藤に向かって掌を開いた。
「クソガキが…」
「バン!」
「あぁーまた負けちゃったー、強いんだよな、このステージのボス……」
同じデパートの4階ゲームコーナーでは、親の買い物が終わるのを待つ子供達で賑わっていた。一方で、その後ろでは迷子の子供を探す母親のアナウンスが流れていた。
「塩見 優子ちゃん、塩見 優子ちゃんお母さんが4階サービスカウンターにてお待ちです」
「もう一度アナウンスします……塩見 優子ちゃん……」
サービスカウンターには不安そうに子供を待つ母親と、それを見守るお店の人が椅子に座って待っていた。
「優子……どこ行っちゃったのかしら」
母親が辺りを見回すと、非常階段の方から女の子が長い髪の毛を揺らしながらパタパタと走って来た。
「ママー!ママー!」
「優子!ああ良かったわ。見つかりました!」
女の子は走って来た勢いのままお母さんに抱きつき、頭を擦り付ける様にした。
「ダメじゃないの!お母さんから離れたら!危ないでしょ?」
「うん、トイレに行ったら迷っちゃった」
安心した母親は店員にお礼を告げ、子供と手を繋ぎサービスカウンターを後にした。
店員の女性は去りゆく女の子に向かって、後ろから笑顔で声をかけた。
「優子ちゃん、もうお母さんから離れたらダメよー」
女の子はその声に気付くとゆっくり振り向き、女性店員に向かってバイバイっと手を広げ、笑顔でその掌をグッと握った。
空蝉(うつせみ)の弾丸 (序)終
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる