運命に抗う傀儡王子は自身の命を顧みない

シロクチ

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4 さて、これからの事を考えよう

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「…ふむ肺の音も正常、熱も下がっておりますね。あとは数日薬を服用すれば完治されるでしょう」

 この身体は数日間原因不明の高熱に苦しんでいたらしいが、今の僕は少し気だるい程度だった。

「此度の熱でだいぶ体力を消耗されたでしょうから、しばらく安静になさるのが宜しいかと」

 兄二人と執事からは安堵の色が広がる。
 医者は報告があるといって足早に退出し、この場には四人が残った。

「さあ両殿下、アトラエル殿下はお休みになられますので一度本城にお戻りください」
「そうだね、授業に戻らないといけない。ウリエクも稽古の途中だったんだろう?」
「ああ、そろそろ行かねばならん」

 口ではそう言う二人だったが、動きは鈍い。扉と僕を交互に見比べてソワソワとしている。
 もしかして授業や稽古がイヤなのだろうか。存外子どもらしいところもあったのだな。

 そんな兄二人に内心で苦笑しつつ、幼子のおねがいをまた一つこぼしてみる。

「病気が治ったら、次は僕が兄上たちに…会いに行っても、いいですか?」

「もちろんだよ!」
「ああ、待ってる」

 すると二人とも上機嫌といった様子で、勢いよく部屋を後にした。
 残った執事の方に顔を向ける。年は五十代といったところだろうか。白髪混じりの赤茶色の髪は後ろに撫で付けられ、背筋の伸びた出立ちには隙がない。
 じっと見つめるこちらの意図をくみ取ってくれたのだろう、執事は目線を下げ自己紹介をしてくれた。

「この離宮にて執事を仰せ使っております、ランスと申します。殿下の身の回りの御世話もさせていただいております」

 ランスは洗練された動きで礼の姿勢をとる。年相応に熟練の執事のようだ。

 それにしても身の回りの世話か…ならば毎日会っているはずなのだが、全く記憶がない。名前も今初めて聞いたように思う。
 前世での幼い頃の記憶が無いのは良いとしても、今世の生まれてから先ほど目を覚ますまでの記憶まで、一切無いというのはどういうことだろうか。
 時を遡った弊害なのだろうか。
 いかんせんこの事象が魔術かも定かでは無い現状では、何もわからないな。

「ではランス…母上はどちらにおられるでしょうか」
「あ、そ…それは」
「いないなら、いないで良い」

 いれば先ほどの医者とやらを連れてきた時に一緒にここに来ていただろう。期待もさほどしていなかったので、正妃の存在は簡単に頭の中から消える。ランスの瞳が気遣わしげにゆれたが、思考の海に沈んでいた僕はそれに気づくことはなかった。

 さて、これからの事を考えよう。
 僕には時を遡る前、前世(と便宜上そう呼ぶことにする)の記憶と経験、知識がある。
 奴隷となったあとは、所々朧げでしかないが。
 ではこれから、僕は何をするべきか。

 僕は前世の出来事を繰り返したくない。
 僕が十歳の時に起こった誘拐事件。
 それを回避することができれば、未来は変えることができるだろうか。

 わからない。でも、何もせずに出来ずに、何もわからないまま終わるのはもういやだ。

 そしてこの先の未来で死んでしまう兄上たち。
 事故か、暗殺か、病か。
 それらだって変えられるのなら変えたい。
 僕の、敬愛する大好きな兄上たちだから。


 やることはたくさんある。
 だがまず先に、一番身近な問題から片付けよう。

「ランス、あの医者の名前をおしえてください」
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