勇者ライフ!

わかばひいらぎ

文字の大きさ
60 / 133
日常編(単発)

不思議な館

しおりを挟む
 ある日、三人がジャンピングスクワットをしながら歩いていると見慣れない建物があることに気づく。
「ねぇ、地の文でさらっと嘘つくの止めてくんね?そんな歩き方してねぇよ俺ら」
「そうだそうだ!いくらスクワット同好会に所属していたとは言ってもそんな事はしないよ」
「そんな同好会入ってたのかよ」
「ねぇ二人とも。そろそろ建物に触れてあげようよ」
 二人はスクワットに惑わされてしまったが、目の前には禍々しい大きな洋館がある。なんかホラゲで出てきそうな感じだ。
「行ってみない?なんか気になるし暇だし」
「それはいいけどさ……ここ何屋?」
「お店の名前は……『黒の館』?まんまじゃん!これじゃ何屋か分かんないよ」
「クソが!」
「何怒ってんだよ」
「怒ってねぇよボケナスミソライダー!」
「どんな悪口だよ」
 黒の館は大きく荘厳な作りだが近づくと妙にボロく、協会の扉のようなドアに至っては自動ドアらしい。
「風情がねぇな……。せめて引き戸にしろよ」
「そこじゃねぇだろ」
 館の中も外観同様黒で統一されている。内装を見ると本棚や小物に溢れているのでよくある大きめの本屋という印象が強い。
「ここ本屋?」
「だろうけど……なんと言うか陰湿だよな」
「光源が豆電球ってのも風情があるな」
「お前風情って言葉気に入ってんの?」
 本棚にびっちり置かれた分厚い本はとてもキツイため取るだけですごく手間どる。どうやらマルセルの力では取り出すどころか動かすことすら叶わないらしい。
「うぅ……取れないよぉ……」
「マルセル泣くなって僕が取ってやるから」
「ぐす……なんか癪だから燃やしてやる!」
「あーやめろやめろ!暴挙に走るな!」
「何かお探しですか?」
 マルセルの暴走を羽交い締めで止めていると、後ろから店員らしき人に話しかけられる。少年のような見た目でボーラーハットをかぶりモノクルを着けたその姿はまるで見た目は子供頭脳は大人って感じだ。
「いや~探してるってわけじゃないんですけど……。ここって、何屋ですか?」
「何屋、ですか。強いて言うなら『呪い屋』ですかね」
「呪い屋……?」
 何やら怪しい屋さんだ。
「へぇ~呪い屋か。最近流行ってるよね」
「ね~」
「そうなのか?時代の流れにはついていけねぇな」
「ちなみに嘘だよ。ね?マルセル」
「ね~」
「嘘かよ!誰も得しない嘘はつくな!」
 このクライブの言葉を聞かず、半ば逃げるようにフーリは近くにあった入れ歯のようなものを手に取った。
「これなんすか?」
「これは、呪いたい相手の名前をここのラベルに書くと、その相手に呪いがかけられます。歯を黒く塗ればその歯が虫歯にできます。やりようによっては知覚過敏にすることもできます」
「へー便利」
「便利じゃねぇよ。これがホントなら相当やばいだろ」
「これでわざと虫歯になって歯医者のお姉さんに会いに行ける……」
「マルセルなんか言った?」
「ん!?なんにもっ!?」
「動揺しすぎだろお前。そんなに綺麗なの?その医者」
「うん。なんと言っても治療中に当たる胸が……」
「いい!いい!その話はもういい!」
 クライブは強引に話の輪を抜け、後ろの棚に置いてある瓶を手にした。まるで人の口のような形をしたデザインだ。
「これは……?」
「これは、ここに呪いたい相手の名前を書いて、好きな位置に点を書くとそこがちょっと大きめの口内炎になるらしいですよ」
「怖。誰得なの?」
「口内炎大魔神得です」
「誰だよ。その未知の生命体を知ってる前提で言うな」

 店内に入って三十分ほど経った。普通にインテリア雑貨店みたいで三人は楽しそうだ。特にマルセルは異常に虫歯の呪いに興味を持っている。が、そろそろ夕飯時なので帰るムードになってきた。
「僕もうお腹空いたわ。そろそろ帰んね?」
「だな。もう十八時だしいい感じの時間だろ」
「すいませーん!おあいそで!」
「寿司屋かよ」
「ふふふ……もうお帰りになるのですか?」
 店員がそう言うと、店内に不穏な空気な流れる。それと同時に体が確実に重くなった。
「な、何これ!?めっちゃ動きがスロー!」
「動きが遅くなる呪いですよ。これで逃げれませんね。さぁ、貴方達は魔王様の生贄となるのです」
「くそっ!魔王崇拝主義者かよ!?」
 不敵な笑みを浮かべる店員。しかし、それに反してフーリが大笑いしだした。
「何笑ってんの?大笑いの呪い?」
「ち、違うっ……!呪いと……のろい……くくくっ……」
「勝手に笑ってろ。ついでに笑い死ね」
 クソみたいなギャグと勝手に解釈してゲラゲラ笑うフーリを放っておき、クライブはマルセルと逃げる算段をつけることにした。
「なぁマルセル、呪いを解く魔法とか無いの?」
「無いよ。なんでもできると思うなクソが」
「そんな言い方ある?」
 長い間フーリと一緒にいると色々と伝染するらしい。
「あ!呪いを解くのは無理だけど力技で何とかするのはできるよ!」
「ほんとか?お前がたてた作戦とかちょっと心配なんだけど」
「大丈夫大丈夫!被害総額一億FDフリードに抑えておくよ」
「被害が出る前提なんだ」
「じゃあ、とりあえず僕らの脚を凍らせて。できれば地面までガチガチに」
「分かった。……氷結!」
 クライブの氷結魔法は太ももから発生し、それは床を突き破って地面まで届いた。ちなみにあまり冷たくないタイプの氷結魔法を選んでくれたらしい。やっさしい!
「届いたぞ。これでどうするんだ?」
「あとは風魔法で建物ごとぶっ飛ばすの!」
「は?ちょっと、待……そんなことしたら俺達に瓦礫が当たんだろうが!」
 マルセルは忠告も聞かず、全力で風魔法を黒の館に当てた。突風に煽られた黒の館は雪崩るように崩れだした。
「そんな……僕の呪いコレクションがー!」
 突風はこれでも吹き続け、元々館があった場所は完璧に更地と化した。氷結魔法を解除し地面に足をつけると、丁寧に風魔法でなだらかに整備されているのが分かる。
「これで良かったのかね~」
「いいのいいの。呪いなんていいもんじゃないんだから。ダイナミック引越しだよ」
 マルセルは更地に『売地』の看板を建てながら言った。
「気が早いよ。てか勝手に売地にすんな」
「いいじゃん。元々ここは売地だったんだから。でも惜しいことしたな~。せめて虫歯だけでも……」
「もういいだろ呪いは。そんなことよりさっさと行くぞ」
「あ!クライブ待ってよー!」
「よーしマルセル。そんなに虫歯になりたいならこれからなんか奢ってやる。金持ちのお前に言うのもなんだけどな」
「え!?本当!?やったー!」
「ただし歯は磨けよ」
 こうして、クライブとマルセルはハンバーガーショップによって幸せな一時を過ごした。

~一方その頃、上空では~
 夕日に当たりオレンジ色になった空の上を瓦礫とともに二つの人影が飛んでいた。
「なぁ呪い屋さん?聞いてる?」
「……」
「なんだぁ、気失ってるか~。でも普通にショックだわ~。普通友達をぶっ飛ばしたりする?こんな経験初めてよ?僕のヴァージンこんな所で発動しちゃう?」
 空気を掻き切る轟音とともにフーリは呑気に独り言を呟いていた。
「うぅ……」
「お?起きた?」
「ぼ『ゴゴォ』生『ゴゴゴォ』て帰『ゴゴゴォ』」
「なんでここだけ風に邪魔される?いくらなんでも不自然だろ」
 どうやら呪い屋さんは脈絡的に「僕は生きて帰れるかな?」的なことを言ってると思う。
「あ、そうなんだ。たまに地の文役に立つよな」
 どうもどうも。
「生きてねぇ……。まぁギャグなんて一度死んでもその後ケロッとしてるもんだから大丈夫だよ。てかお前多分二度と出演しないと思うけどな」
 こう話している間にも高度はどんどん下がってゆき、気づけば地面が近づいていた。そして、体が地面にぶつかる前にフーリは寂しげに呟いた。
「あ、ビデオ返すの忘れてた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

処理中です...