機械幽霊

わかばひいらぎ

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交流と厳戒

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 『死なないように』。田中はこの一文に目を釘付けにしていた。
「ねぇレン」
「行くぞ。真子の迎えだ」
 長谷川は言い切るとスタスタ歩いて行く。かなり急いでいるようすだ田中も急いで姿勢を立て直し、追いかける。
 遠くの方まで散歩をしていたおかげで、神江南まで三十分で着いた。
 その間、長谷川から狂影きょうえいについて教えてもらった。

 要点をまとめると、
・狂影は字のごとく狂った悪の塊
・大きさや強さなど全てが規格外
・正確な時期は把握出来ないが、おおよそ半年に一度現れる
・頭が機械ならばその予兆を事前に感じ取れる

 ということだ。
「なるほど……。確かに、一人で行動するのは危険だね」
「そもそも影自体が危険っちゃ危険なんだが、こいつは段違いだからな」
「確かに」
「連絡は真子にもいってるから、ここで待ってればそのうち来るだろ」
 校門前に突っ立って待つ。
 帰宅する生徒たちはそれぞれチラッとこちらの方を見てくる。それもそうだろう。フードを目深く被った青年と、金髪で無精髭の生えた男が並んで高校前に立っているのだ。チラ見したくもなるだろう。
 すると、人混みの中から真子がこちらに駆け寄ってきた。
「来た来た」
「ごめんなさいわざわざ。待たせちゃって。優さんも巻き込んじゃってるみたいだし」
「いいよ。散歩のついでだし」
「散歩の途中、この金髪にいじめられませんでした?」
「俺がするかよそんなこと」
「それで、狂影が来るんでしょ。早く帰りましょう」
 こうやり取りしている間は、周囲からの視線はより強く感じられ、誹謗がヒソヒソと聞こえた。
『あそこにいるの、新鳥だよな。あの二人と知り合いなのか?』
『男二人だぜ。きっと……そういう関係だよ』
『見た?さっきの新鳥。笑ってたよ?』
『いつもどんよりしてるのに』
「……」
 三人とも、聞こえているが知らないふりをした。帰宅が急がれる。中傷なんて気にしている暇はない。

 行きよりも足早になる。
「……おい真子。一人だけジェット使ってんじゃねぇよ追いつけないだろ。単騎行動はよせよ」
「だって怖いんだもん!」
「優、今何時だ?」
「十七時二十八分」
 こうしている間にもどんどん空は暗くなっていく。顔に当たる向かい風が強い。ビューと低く唸る風の音が不穏だ。
「もうだいぶ暗いね」
「冬至も近いからな」
 長谷川がそう言った瞬間、「きゃあああ!」と悲鳴が聞こえた。新鳥の悲鳴だ。
 畑道に建っている街灯に照らされて、影に襲われているのが見える。
「びっくりした……」
 新鳥は下腿かたいを四方向に展開させ、そこから火を噴いてアスファルトの上を滑るように逃げてきた。
「大丈夫か真子?」
「平気平気。ちょっとびっくりしただけ」
 新鳥は汚れたスカートをはたきながら立ち上がる。
「も~う!本当にびっくりしたんだから!許さない!」
 新鳥はそう言うと、両足の外側から刃が現れる。ふくらはぎからは噴出口が出し、ジェットを噴出して影に飛びかかった。
 その勢いで飛び蹴りをし、体制を崩した影にかかと落としを食らわせる。
「結構派手にいくんだ」
「あいつは脚が機械だから、その分戦闘スタイルが派手なんだよ」
 そう言いながら長谷川はスマホを見た。そして怪訝そうな顔をする。
「どうしたの?」
「まだ十七時半を過ぎたばっかりだ。なのに影が出るなんて」
「狂影って奴が関係してるのかな」
「それは分からない。そもそも影自体分からないことだらけだからな」
 そう言い終わる頃には、影は新鳥によって消されていた。
「終わりました。もう見えなくなる時間だったんですね」
「そうみたいだ。さっき優とも話してたけど、狂影のことも心配だ。早く帰ろう」
 再び一行は歩き出す。
 周りは畑なので拠点までしばらくある。
 この時、田中は気になったことをもうひとつ聞いてみることにした。
「帰るってことは、日が明けるまで拠点に籠るの?」
「いや、そうじゃない。奏叶と一緒に戦うんだ。あいつは影の弱点も見抜けるからな。それに狂影は他の影よりポイントが高いから狙い得だしな」
「あと、狂影は一夜で仕留めないと次の出現時に二体になって出てくるので、どの道今日倒さないと後が大変なんです」
「そっか。今日倒さない手はないね。その時は僕も役に立ってみせるよ」
「はは。優はまだ機械幽霊初心者だから見てるだけでいいよ」
「でも、優さんは初日に影二体を仕留めてみせた、って奏叶さんが言ってましたよ」
「だからって狂影は無理だって」
 二人は和気藹々と話す。
 しかし、田中だけ微かに聞こえていた、と言うより感じていた。遠くの方から聞こえるドス……ドス……という足音。
「……来る」
 田中は立ち止まる。
「どうした?」
「優さん?」
 右腕右脚が変な感覚になる。自動運転の合図だろう。
 右脚の下腿が四方向に開く。右腕の側面は硬いからに覆われる。
 音は近づいてくる。
「優さん……?」
「待て真子……聞こえないか?足音みたいな」
 ドス……ドス……ドス……
 ドスドスドスドスドスドス
「来た!」
 田中は自分の意思で身を翻した。
 畑に広がる暗闇から触手のような腕が伸びてきたかと思うと、田中の腕と接触して金属音を鳴らした。
 ドス……ドス……
 暗闇から姿を現したのは、触手の主。牛のような胴体から無数の触手の生えた狂影。その大きさは、トラックほどあるように思えた。
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