4 / 16
わが家のニートさま。
しおりを挟む
この家には引きこもりが住んでいる。それは私の兄だ。
兄は五年前から不登校となり、二階の自室で引きこもり生活を行っている。
両親はすでに兄のことを見て見ぬふりをしている。
兄は食事を自室でとり、両親とは話すこともない。
家族の中では唯一私が兄と話す家族であろう。
ある日のこと、私は兄の部屋に行った。
兄の部屋は私の部屋の隣にあるのだが、兄の部屋は汚く、あまり行きたくない。
しかしゲームを借りていたため、それを返しに行ったのだ。
兄の部屋へ行くと案の定部屋は散らかっていた。
ゲームやアニメのDVDなどが床に散乱しており、足の踏み場もなかった。
私は、兄の大事にしているであろうDVDを踏まないように兄の元へ近づいた。
「おもしろかったよ。ありがとう」
ゲームを手渡すと兄は無表情で黙って受け取った。
汚い部屋に長居をする理由もなく私は自室に戻ろうと出入り口に向かった。
出入り口に向かうとき、兄の大事にしているDVDを踏みつけてしまった。
「ごめん、踏んでしまった」
ちょっとした不注意だ。幸いにもパッケージがへこんだだけで中身は大丈夫なようだ。
しかしその時、兄の表情が豹変した。
そのあまりの形相に私は驚いた。
兄は一言だけ言葉を発した。
「コロシテヤル……」
私は恐怖におびえ、急いで自室に逃げ帰った。
その日から兄の嫌がらせが続いた。
私が自室から出ると、兄は恐ろしい形相で私をにらみつける。
「ハヤクシネ……コロシテヤル……」
会うたびにその言葉を発してくるのだ。
始めのうちはそれだけで済んでいたが、最近はそれだけではなくなってきた。
夜中に私が寝ていると隣の兄の部屋から音が聞こえる。壁を叩く音だ。
睡眠を妨害しようとしているのだろう。
他にも私がトイレに入った時に、扉を開けようとドアノブをガチャガチャ回してくる。
入浴のときもそうだ。私が風呂に入っている時に浴室の扉を開けようとする。
鍵はかかっているため開くことはないのだが、家で心が休まるときがない。
そんな生活が一ヶ月ほど続いたある日のこと、私は一階へ行こうと階段を下りていた。
その時、突然兄が私の背中を押してきたのだ。
私は足を踏み外し一階に転げ落ちた。
ついに兄は実力行使にでてきたのだ。
このままでは私は殺されてしまう。思い切って両親に話すことにした。
両親と食事の時に、兄の言動について打ち明けた。
両親は悲しい顔をして私を見ていた。しかし、それだけだった。両親は何もしてくれない。
ならば私は兄と話してみようと思い、部屋へ行った。
部屋へ行くと、兄は私をにらみつけた。
「兄さん、こんなことはもうやめよう」
しかし兄は無言だ。
「DVDを踏んだのは悪かった。謝るよ。だから……」
その時兄は包丁で私を切りつけてきた。
「コロシテヤル……」
兄はいつもの台詞を吐くと再び私を切りつけてきた。
私は腕を切られ、軽い出血を伴った。
私は両親に助けを求めた。しかし来てくれる気配はない。
このままでは殺されてしまう。
私は兄の顔を殴りつけた。恐怖と怒りのためか何度も殴りつけた。
そして兄は動かなくなった。
緊張が解けたせいか、私はそのまま意識を失った。
意識が戻ったとき私は病院のベッドで寝ていた。
両親が運び出したのだろう。兄はどうなったのだろうか。
恐らくは正当防衛が成立するとはいえ、実の兄を何度も殴りつけたのだ。
良い気持ちはしない。
両親が面会にきた。
私はなぜか悲しい気持ちになって涙があふれた。
丁度その時、医者が私の元に現れた。
「お加減はいかがですか」
医者が私のベッドの前の椅子に腰を下ろした。
「私は、精神科医の鈴木といいます」
あんなことがあったのだから両親が精神科医を呼んだのだろう。
「いくつか質問をさせていただきます」
医者はそう言って、ペンを取り出すと私に問診を行った。
「まずは、なぜ病院にいるかわかりますか」
なぜ私は病院にいるのか。
「兄に襲われて、思わず兄を殴ってしまった。そして意識を失って運ばれたのだと思います」
そうとしかいえない。
意識を失ったことについては緊張が解けたからだろうが、正確なことはわからない。
「そうですか。では次に、なぜお兄さんは襲ってきたかわかりますか」
なぜ私は襲われたのだろうか。
「兄の大事にしていたDVDを踏みつけてしまったからだと思います」
本当にDVDを踏んだのが原因だったのだろうか。
もしかして兄は別のことで私を恨んでいたのではないのか。
しかし本当の処は兄にしかわからない。
「ふむ……。では自分がなぜ怪我をしているのかわかりますか」
なぜ私は怪我をしているだろうか。
「兄に襲われたからです。包丁で腕を切られました」
腕には包帯が巻いてある。
しかし本当にそれだけだろうか……。
「腕以外の怪我についてはどうですか」
腕以外の怪我……。
そういえば手にも包帯が巻いてあり、かすかに痛みを感じる。
「兄を殴ったときに手を骨折したのかもしれません。わかりません」
「ではそれ以外の怪我についてはどうです」
腕と手以外の怪我……。
どこに怪我をしたのだろうか。
もしかして倒れたときに頭でも打ったのだろうか。
かすかだが頭が痛い……。
「そういえば頭が痛いです。倒れたときに頭を打ったのでしょうか」
医者はしばらく無言だったが、その後一言発した。
「顔の怪我についてはどうですか」
顔に怪我……。
なぜ顔に怪我を……。
倒れたときかな。
いや違う私は……。
「率直に言いますが、あなたにはお兄さんはいません」
兄はいない……、じゃああれは誰だったんだ……。
「アニハイナイ……」
ああそうか、兄は自分だったのだ……。
私は五年間引きこもり、そして自分で腕を切りつけ、自分を殴っていたのだ……。
私は今病院にいる。
怪我の治療とそして精神療養を行っているのだ。
しかし自分ではそうは思っていない。
私は病院で引きこもっているのだ。
兄と一緒に……。
兄は五年前から不登校となり、二階の自室で引きこもり生活を行っている。
両親はすでに兄のことを見て見ぬふりをしている。
兄は食事を自室でとり、両親とは話すこともない。
家族の中では唯一私が兄と話す家族であろう。
ある日のこと、私は兄の部屋に行った。
兄の部屋は私の部屋の隣にあるのだが、兄の部屋は汚く、あまり行きたくない。
しかしゲームを借りていたため、それを返しに行ったのだ。
兄の部屋へ行くと案の定部屋は散らかっていた。
ゲームやアニメのDVDなどが床に散乱しており、足の踏み場もなかった。
私は、兄の大事にしているであろうDVDを踏まないように兄の元へ近づいた。
「おもしろかったよ。ありがとう」
ゲームを手渡すと兄は無表情で黙って受け取った。
汚い部屋に長居をする理由もなく私は自室に戻ろうと出入り口に向かった。
出入り口に向かうとき、兄の大事にしているDVDを踏みつけてしまった。
「ごめん、踏んでしまった」
ちょっとした不注意だ。幸いにもパッケージがへこんだだけで中身は大丈夫なようだ。
しかしその時、兄の表情が豹変した。
そのあまりの形相に私は驚いた。
兄は一言だけ言葉を発した。
「コロシテヤル……」
私は恐怖におびえ、急いで自室に逃げ帰った。
その日から兄の嫌がらせが続いた。
私が自室から出ると、兄は恐ろしい形相で私をにらみつける。
「ハヤクシネ……コロシテヤル……」
会うたびにその言葉を発してくるのだ。
始めのうちはそれだけで済んでいたが、最近はそれだけではなくなってきた。
夜中に私が寝ていると隣の兄の部屋から音が聞こえる。壁を叩く音だ。
睡眠を妨害しようとしているのだろう。
他にも私がトイレに入った時に、扉を開けようとドアノブをガチャガチャ回してくる。
入浴のときもそうだ。私が風呂に入っている時に浴室の扉を開けようとする。
鍵はかかっているため開くことはないのだが、家で心が休まるときがない。
そんな生活が一ヶ月ほど続いたある日のこと、私は一階へ行こうと階段を下りていた。
その時、突然兄が私の背中を押してきたのだ。
私は足を踏み外し一階に転げ落ちた。
ついに兄は実力行使にでてきたのだ。
このままでは私は殺されてしまう。思い切って両親に話すことにした。
両親と食事の時に、兄の言動について打ち明けた。
両親は悲しい顔をして私を見ていた。しかし、それだけだった。両親は何もしてくれない。
ならば私は兄と話してみようと思い、部屋へ行った。
部屋へ行くと、兄は私をにらみつけた。
「兄さん、こんなことはもうやめよう」
しかし兄は無言だ。
「DVDを踏んだのは悪かった。謝るよ。だから……」
その時兄は包丁で私を切りつけてきた。
「コロシテヤル……」
兄はいつもの台詞を吐くと再び私を切りつけてきた。
私は腕を切られ、軽い出血を伴った。
私は両親に助けを求めた。しかし来てくれる気配はない。
このままでは殺されてしまう。
私は兄の顔を殴りつけた。恐怖と怒りのためか何度も殴りつけた。
そして兄は動かなくなった。
緊張が解けたせいか、私はそのまま意識を失った。
意識が戻ったとき私は病院のベッドで寝ていた。
両親が運び出したのだろう。兄はどうなったのだろうか。
恐らくは正当防衛が成立するとはいえ、実の兄を何度も殴りつけたのだ。
良い気持ちはしない。
両親が面会にきた。
私はなぜか悲しい気持ちになって涙があふれた。
丁度その時、医者が私の元に現れた。
「お加減はいかがですか」
医者が私のベッドの前の椅子に腰を下ろした。
「私は、精神科医の鈴木といいます」
あんなことがあったのだから両親が精神科医を呼んだのだろう。
「いくつか質問をさせていただきます」
医者はそう言って、ペンを取り出すと私に問診を行った。
「まずは、なぜ病院にいるかわかりますか」
なぜ私は病院にいるのか。
「兄に襲われて、思わず兄を殴ってしまった。そして意識を失って運ばれたのだと思います」
そうとしかいえない。
意識を失ったことについては緊張が解けたからだろうが、正確なことはわからない。
「そうですか。では次に、なぜお兄さんは襲ってきたかわかりますか」
なぜ私は襲われたのだろうか。
「兄の大事にしていたDVDを踏みつけてしまったからだと思います」
本当にDVDを踏んだのが原因だったのだろうか。
もしかして兄は別のことで私を恨んでいたのではないのか。
しかし本当の処は兄にしかわからない。
「ふむ……。では自分がなぜ怪我をしているのかわかりますか」
なぜ私は怪我をしているだろうか。
「兄に襲われたからです。包丁で腕を切られました」
腕には包帯が巻いてある。
しかし本当にそれだけだろうか……。
「腕以外の怪我についてはどうですか」
腕以外の怪我……。
そういえば手にも包帯が巻いてあり、かすかに痛みを感じる。
「兄を殴ったときに手を骨折したのかもしれません。わかりません」
「ではそれ以外の怪我についてはどうです」
腕と手以外の怪我……。
どこに怪我をしたのだろうか。
もしかして倒れたときに頭でも打ったのだろうか。
かすかだが頭が痛い……。
「そういえば頭が痛いです。倒れたときに頭を打ったのでしょうか」
医者はしばらく無言だったが、その後一言発した。
「顔の怪我についてはどうですか」
顔に怪我……。
なぜ顔に怪我を……。
倒れたときかな。
いや違う私は……。
「率直に言いますが、あなたにはお兄さんはいません」
兄はいない……、じゃああれは誰だったんだ……。
「アニハイナイ……」
ああそうか、兄は自分だったのだ……。
私は五年間引きこもり、そして自分で腕を切りつけ、自分を殴っていたのだ……。
私は今病院にいる。
怪我の治療とそして精神療養を行っているのだ。
しかし自分ではそうは思っていない。
私は病院で引きこもっているのだ。
兄と一緒に……。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる