【短編集】とあるニートの人生目録 ―ニートが織りなす狂気な日々―

川辺からニートを思う

　僕は川に向かって水平に石を投げた。
　水切りをやっているんだ。
　１、２、３……。
　昔から水切りは上手くできなかった。
　友達と川でやっていたが、周りの友達は７回以上は水の上を跳ねさせていた。
　しかし僕は何度やっても５回が限界だった。
　何で上手くできないんだろうか。

　小学生の頃、僕はお父さんから虐待を受けていた。
　毎日何度も叩かれていたし、真冬に水風呂に入れられたこともあった。
　煙草の火やアイロンを押し付けられたこともあった。
　両親は無職、つまりニートだったのかもしれない。
　お父さんは毎日パチンコに入り浸っていてお母さんから金を奪っていた。
　お母さんは文句一つ言わず、父に金を貢いでいた。
　僕が殴られていても止めようとせず、ただお父さんに従ってばかりだった。
　僕は、守ってもらえることを諦めていた。

　プールの授業の時は毎回欠席して体のあざを見せないようにした。
　先生も内心不審には思ってたのかもしれないけど、深く探ろうとはしなかった。
　もし体の痣や火傷の跡を見せれば解決したのかもしれない。それでも僕は見せなかった。
　大事になった場合、殺されるのではないかと怖かったのもある。
　ただ純粋に勇気が無かっただけなんだろうけども……。
　僕はずっといつか必ずよくなる。時間がきっと解決してくれる。
　暴力を振るわれて辛いけど必死に耐えていたんだ。

　ある日のこと、体育の時間の着替えの時に先生に体のあざを見られてしまった。
　先生に事情を聞かれたが僕は何も答えられなかった。
　そして先生は次の休日に突然、僕の住むアパートに家庭訪問したのだ。
　ちょうどその頃、僕はお父さんに叩かれて鼻血を出していた。
　家庭訪問に来た先生は父と言い争いをしていた。
　後日、児童相談所の職員を連れてくると言っていた。
　父は激怒し、『お前がわざとらしく見せて問題にしたんだろう！』と激しく責めたてた。
　これはしつけだと父は言い、僕を殴りつけ、首をつかみ、叩きつけた。
　そうして意識が遠のいていった。

　気がついたらこの川辺にいた。
　ここは三途の川だろう。多くの子供が石を積んでいる。
　だけど僕は親のために石を積む気はない。
　あんな親のために石を積んでたまるか。
　僕は再び川に向かって水平に石を投げた。