化怪《バケ》〜幽霊騎士に守られて、呪われた私は恋を知る〜

名無し

文字の大きさ
23 / 57

もやもやする

しおりを挟む
 私は今、ある1つの問題に直面している。

 目の前で繰り広げられる光景は、人形ちゃんと戦ったあの日からここ数日、毎日続いているもので、最早日課………当たり前の景色となりつつある。しかしそれこそが、私の悩みの種であった。

「はい、目隠し様。あーん」
「……………」

 和水が、異様に目隠しさんに懐いてしまったというか、べたべたしているのだ。それはもう、とにかくずっと。和水はクラスが違うので、授業中は別々ではあるものの、休み時間になれば必ず私のクラスに顔を出し、今も昼休みに共にお弁当を広げている。和水は、幽霊には食欲がないことを知りながらも、一緒にご飯を食べたいからという理由で、毎日人形ちゃんと目隠しさんの分のお弁当を作って持ってくる。少し前までは、屋上で共にご飯を食べるのは私と目隠しさんと吉光の3人だったのに、今では和水と人形ちゃんがいることが当たり前となっていた。

(いや、和水と人形ちゃんがいること自体は全然いいんだけど………)

 私がもやもやするのは、和水と目隠しさんの距離感だ。目隠しさんは和水の気持ちを知っているのかいないのか、あーんと差し出されたお弁当を素直に食べているし………。しかも、しかもだ。食べさせているそのお箸は、先程まで和水が自分の分を食べるのに使っていたものと同じ。つまりは、間接キス。

「人形ちゃん、おいしい?」
「まあ、悪くはない。できればこのタコさんウインナーをもっと増やしてほしいところじゃの」
「調理担当に言っておきますわ」

 隣でちんまりと座る人形ちゃんにも味の感想を聞いて、ご満悦な和水。対して私は、どこかむっとした表情のまま、無言で自分のお弁当を口にしていた。前までは、この小さなお弁当を目隠しさんと一緒に分け合って食べていたのに………。和水からあんな立派な専用のお弁当をもらったら、私のなんていらないよね。

「吉光、卵焼き、食べる?」
「いいのですか!?」

 私のお弁当、大部分はお母さんに作ってもらっているが、目隠しさんと食べるようになってから、卵焼きだけは私が前日の夜に作り置きしたものを詰めていた。少し甘めの味付けにするのが、目隠しさんの好みだ。なんだか健気に目隠しさん好みの卵焼きを作っている自分が馬鹿らしくなって、隣にいる吉光にその卵焼きを差し出す。吉光は、私から恵まれたその卵焼きを、キラキラとした目で眺めた後、何故かパシャパシャとスマホで写真を取り出した。この後その写真を元に絵を描くとも言われたが、ツッコむ気すら起きない。

「………何故だ」
「………目隠しさん」

 気付けば、すぐ隣に目隠しさんがいて、私のお弁当箱を覗き込んでそうぼやいた。さっきまで和水と仲良く、私のことはそっちのけでお弁当を食べていたくせに、今更………と心の中で悪態をついたところで、はっとする。私、なんでこんなにイライラしてるんだろう。目隠しさんの為に作った卵焼きなのに、当てつけみたいに吉光にあげて………。

「なぜって、何が?」
「………何故吉光に渡した?」

 そう言って目隠しさんが指さしたのは、空っぽになった私の弁当箱。いつも卵焼きが入っているスペースだ。どうやら私が吉光に卵焼きをあげているところを見ていたらしい。私は、自分の中にどんどん広がる嫌な感情を抑えることができず、目隠しさんに素っ気なくしながらいそいそと隠すように弁当箱を片付け始めた。

「だってお腹いっぱいでしょ。和水からもらったお弁当、あんだけ食べたら」
「………霊に満腹感は備わっていない。味を楽しむ為に食べているだけであって、空腹を満たす為に食事をしているわけではない」

 どうやら目隠しさんもちょっと不満げなようで、珍しく食い下がってくる。それが余計に私をイラつかせて、「もうなくなっちゃったからいーの!」と無理矢理会話を終わらせてしまった。私と目隠しさんの間に流れる、微妙な空気。目隠しさんも私のいつもと違う様子に気付いているのか、それ以上は何も言ってこなかった。ふい、と目隠しさんに背を向けながら、何やってるんだろう、と自分の幼稚な言動や行動に後悔する。こんなの、全っ然かわいくない。

「卵焼きが食べたいなら、まだこちらに残ってますわ!目隠し様!」

 そんな私たちの空気を破るように、和水は目隠しさんに向かってお弁当箱を差し出した。重箱のようなお弁当箱の隅に、1切れ残っている卵焼きが、目隠しさんの視線を奪う。突き放したのは私なのに、また目隠しさんの意識を和水に持っていかれたのが寂しくて、卵焼きに釣られていく彼の背中をじっと寂し気に見つめた。

「お主も案外、かわいげのない女子じゃのう」
「人形ちゃん………」

 複雑な想いと葛藤する私の隣に、いつの間にか、口元にご飯粒を付けた人形ちゃんがやってくる。こちらの気も知らないで、まるでこの状況を楽しんでいるかのようにケタケタと笑う人形ちゃんの言葉が、ぐさりと心に突き刺さる。かわいげのない、か。全くその通りだ。

「素直になればよいものを」
「な、なんのことよ………」
「私も目隠しさんのことが好き、って」
「な………っ!!!」

 そんなんじゃない!と思わず叫んで立ち上がった私を、和水も、吉光も、そして目隠しさんも驚いたように見上げた。一方で元凶である人形ちゃんは、やれやれと呆れたように首を振っている。

 好きって、私が、目隠しさんを?そんな筈ない。私たちは訳アリで、ただ私の呪いを解く為に一緒にいるだけであって、そもそも目隠しさんは幽霊なんだし、幽霊に恋愛感情なんか抱くわけが………。

 心の中で、いろんな言い訳を付けて、否定する。違う、私は違う、と必死に理由を探して。そして同時に、目隠しさんにストレートに感情を表現する和水の姿も思い浮かんで、それが羨ましいとも思っていた。人形ちゃんがとことこと足元まで歩いてきて、私の顔を覗き込む。

「………そんな真っ赤な顔で泣きそうになっておいて、よくもまあ………」
「………っ」
「………まあ、いい。自分の気持ちは、自分で決めるものじゃ」

 それだけ言って、またとことこと和水の元へ帰っていく小さな背中を恨めしく見つめる。脱力したように、ゆっくりとベンチに座り直す私の横へ、心配した吉光が入れ替わるようにやってきた。卵焼き撮影会は気が済んだのだろうか。

「どうしたんです、恋白。なんだかここ数日、元気がないように見えますが」
「ねえ、吉光」
「はい?」
「私って、かわいくないかな」
「はい!?」

 突然の質問に、吉光は驚いたようなリアクションを見せ、いきなりどうしたんですか、とたじろいでいたが、泣きそうな私の眼差しを受けると、徐々にその表情を真剣なものにした。何かは分からないが、何かが私を不安にさせていることを、察してくれたのだろう。吉光はまるで私を安心させるように、そっと私の手を両手で握りしめて包み込んだ。彼のストレートな瞳が私を射抜く。

「かわいいに決まってるじゃないですか!」
「吉光………」
「俺にとっては、誰よりも、世界で1番、かわいいに決まってます………!」
「………ありがとう、吉光」

 他の女子からすれば、こんな熱い言葉を男子に言ってもらえるなんて、最早告白じゃんプロポーズじゃん!と思うかもしれない。でも私はその言葉を聞いて、ペコリと頭を下げてお礼を伝えるだけである。きっと吉光は本心からそう思ってくれていて、こんな私のことを好きだとか、ハニーだとか言ってくれる。人に好いてもらえるというのは、どれだけ奇跡でありがたいことかは理解しているが、私は吉光に異性としての特別な感情は一切ない。もちろん、友達、幼馴染としては大切だし、大好きなんだけどね。

「まあ、何をいちゃついてますの!白昼堂々と………」

 手を取り合って見つめあう私と吉光の姿が目に入ったのか、ずっと目隠しさんに夢中だった和水が顔を赤くしながらこちらを指さした。そしてその隣で、何を思っているのか、ただ静かにこちらを見つめる、目隠しさんの視線。私はなぜか目隠しさんと目を合わせることができなくて、ぎこちなく自分の足元へ視線を落とした。

 ダメだ………。今の私、何だか目隠しさんとうまく話せそうにないや。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷華の吸血鬼ー銀氷の貴方と誓う永血の恋ー

四片霞彩
恋愛
霧の街で目覚めた私は契約を結ぶ――氷鏡の彼の人は孤独なヴァンパイアだった。 海外に暮らす祖母の元に向かっていたエレナは古びた鍵を拾ったことでヴァンパイアの国・ワムビュルス王国に転移してしまう。 辿り着いた街で人間を「餌」として捕えるヴァンパイアたちから逃げている最中、鍵に導かれるままにとある古書店の扉を開けてしまうのだった。 そこで出会った白銀のヴァンパイアの青年――ロシィから「説明は後だ」と告げられて、主従の契約を強引に結ばれたエレナ。 契約によってロシィの従者となったエレナの姿は子供へと変化して、やがて元の姿からかけ離れた愛くるしいヴァンパイアの少女に変わってしまう。 そして主人となったロシィから「ノエリス」と名付けられたエレナは、ヴァンパイアたちから保護してもらう代わりにロシィに仕えることになるのだった。 渋々ロシィが営む古書店で働き始めたエレナだったが、素っ気ない態度ながらも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるロシィに次第に心を許し始める。 しかし砂時計の砂が全て落ちた時に2人の立場は逆転してしまう。 エレナは「ヴァンパイアの麗しき女主人・ノエリス」、ロシィは「女主人に仕える少年従者・ロシィ」へと姿まで変わってしまうのだった。 主人と従者を行き来する2人は種族や生まれの違いから何度もすれ違って衝突するが、やがてお互いの心を深く知ることになる。 氷鏡のような白銀のヴァンパイアが異なる世界から現れた人間に心を溶かされ、やがて“等しく”交わった時、主従の信愛は番の最愛へと変わる。 ダークファンタジー×溺愛×主従の恋物語。 凍りついた主従の鎖は甘く蕩けるような番の結びとなる。 ※他サイトでも公開予定

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

処理中です...