化怪《バケ》〜幽霊騎士に守られて、呪われた私は恋を知る〜

名無し

文字の大きさ
45 / 57

雷vs焔

しおりを挟む
 繰り広げられる、激しい攻防に、私は息を飲んで固まっていた。ぶつかり合う雷と炎。目で追えないような速さで目隠しさんに襲いかかるキョンシーくんを、目隠しさんが鎌で迎撃している。苛烈な戦いは両者一歩も引かず、決着が予想付かない。ただ1つ言えるのは、本来戦うべき相手は、2人ともお互いではないということだ。

「………そこらの雑魚幽霊とは違うって訳か。いいねえ………そうでなくっちゃ」

 少なくとも、先程首を撥ねたあの蜘蛛女よりは相当上の階級、更に戦い慣れてもいる。キョンシーくんがそう冷静に分析している間に、目隠しさんは攻撃の手を止めず、鎌を地面に突き立てる。刺さった地面から焔がゆっくりと上がり、その焔がパチパチと音を立てて周囲に灰をまき散らした。一気に視界が悪くなる中で、キョンシーくんが目を凝らす。目隠しさんが立っていたその場所には、人影が3つに増えている。なるほど分身か、とキョンシーくんはそんな状況の中でもどこかこの戦いを楽しんでいるようにすら見えた。

「どれだけ増えたって、僕の速さについて来れなきゃ意味がないよ」

 キョンシーくんは再び体を稲妻に変え、一気に距離を詰める。その手に容赦などない。明らかに目隠しさんを殺すつもりで、1体の目隠しさんの背後に回ると、手刀のように胸を貫いた。魂ごと掴んで引き抜いて食ってやろうという作戦だったが、キョンシーくんの貫通した手は何も掴むことはなく、貫かれた目隠しさんの体も灰になって消える。どうやら外れ………偽物だったようである。

 あれ、と拍子抜けするキョンシーくんの脚に巻き付く、焔の鎖。その鎖は本体である目隠しさんの手元に繋がっていて、その鎖をグイと引き寄せると、キョンシーくんの体が軽々と目隠しさんに引き寄せられていく。そして、引っ張られて向かってくるその体を真っ二つに斬ろうと、焔を纏う大鎌が振りかぶる。

「………っ!ダメっ、目隠しさん!!!」

 考えるよりも先に、体が動いていた。私は咄嗟にキョンシーくんの前に飛び出して、目隠しさんからの攻撃から壁になるように両手を広げて立ちふさがった。私の命知らずの行動に目を見開くキョンシーくんと、突然現れた私に一瞬迷いを見せる目隠しさん。その迷いが、目隠しさんの鎖を消し、キョンシーくんは拘束から解かれたのだった。キョンシーくんが咄嗟に私の体を抱え、後ろに飛び退いて距離をとる。茫然と私の顔を見下ろしていた。

「お前………っ、アホか!下手すれば死んでたぞ!」
「ご、ごめん………なんか咄嗟に………」

 キョンシーくんを守ろうとしたのもそうだが、目隠しさんに不要な殺生をしてほしくない、という思いから咄嗟に飛び出してしまった。自分でもよくよく考えると、恐ろしいことをしたなと今更怖くなる。しかし、目隠しさんは私の姿を見た瞬間に、一瞬攻撃の手を止めたようにも見えた。鎖の術も解いてくれたし、もしかしたら今も目隠しさんは、意識が奪われている中で必死に抗おうとしているのかもしれない。

「あの状態になっても、恋白のことは殺せないみたいだね」
「………目隠しさん………」
「ならその弱点、存分に利用させてもらうよ!」

 キョンシーくんが床を右脚で叩く。その瞬間、辺り一帯の地面に雷が流れ出した。バチバチとけたたましい音を鳴らすそれらは、私のような一般の人間が触れれば一瞬で黒焦げになってしまいそうだ。幽霊に対してはどうやらそこまでの効き目はないようだが、目隠しさんも、傍らで戦いを見ていた蜘蛛女も、びりびりと痺れて思うように体を動かせないようである。

 そしてその様子を見届けたキョンシーくんが再び地面を蹴り、目隠しさんの元へ近づく。勿論、私を抱えたままだ。もの凄いスピードに振り落とされそうで、私は必死にしがみつくので精一杯だった。近づいてきたキョンシーくん目掛けて、大鎌が振りかぶられる。しかし、キョンシーくんはその仕草を見た瞬間、私を盾のように前に出した。眼前に迫る鎌の切っ先に、ぎゃあああ!と涙目で悲鳴を上げる。するとやはり目隠しさんは、私に対しては鎌を振れないようで、ぴたりとその手を止めるのだった。

 その隙にキョンシーくんが、雷を纏った強烈な蹴りを目隠しさんの体に叩き込んだ。勢いよく吹き飛んだ目隠しさんが、壁に激突して土煙を上げる。対して私は、キョンシーくんを涙目で睨んだ。

「死んだかと思った!!!」
「大丈夫大丈夫。アイツが恋白を殺すわけないから」

 へらへらと笑うキョンシーくんを他所に、私は目隠しさんが吹き飛ばされた方へと視線を移した。目隠しさんは無事なのだろうか。操られているとはいえ、目隠しさんを傷つけたり、ましてや致命傷を負ってはほしくない。心配そうに見つめていると、土煙の中で立っている人影が目に入って、目隠しさんの無事を確認する。良かった、大丈夫そうだ。良くないけど………。

 そうして、再びこちらに敵意を剥きだしにしながら近づいてくる目隠しさんに、キョンシーくんが身構える。お互い睨み合う2人を、私はハラハラしながら見守ることしかできない。本来狙うべき敵はあの蜘蛛女なのに………、とそこまで考えて、はっと思い出す。そうだ、全ての元凶であるあの蜘蛛女は今どうしているのか。

 先程首が転がっていたそこを見ると、忽然と姿を消している。キョンシーくんと目隠しさんが戦っている間に、こそこそと移動している。慌ててその行方を追って視線を動かせば、既に周囲に蜘蛛の糸が張り巡らされているのが見えた。まるで蜘蛛の巣に囚われた蝶のように、私たちはその糸によって四方を囲まれていたのだ。上へ上へと伸びていくその糸は、やがて私たちの頭上に潜んでいた蜘蛛女の視線とぶつかった。

「今頃気付いてももう遅いわ!」

 蜘蛛女と目隠しさんが、同時に襲いかかってくる。キョンシーくんは目隠しさんの応戦をするので手一杯で、恐らく気付いていない。その隙を狙って、蜘蛛女は私とキョンシーくんを食おうとしている。このままじゃやられる。

 私はキョンシーくんの腕から飛び降りて、庇うように彼の体を抱きしめた。2人とも丸飲みされるより、戦えるキョンシーくんを残した方がいい。そう思った私の、勝手な判断、行動であった。

 キョンシーくんと目隠しさんの前に舞う、赤い鮮血。それはまるでスローモーションのように飛び散って、2人の頬や地面に付着した。私の咄嗟の行動に蜘蛛女の狙いがずれたようで、その鋭い牙は私の肩に噛み付いたのだった。本当は私とキョンシーくんの頭に噛み付こうとしていたのだろう。蜘蛛女は私の肩に突き刺した牙を引き抜き、また蜘蛛の巣を辿って天井へと退避した。

「な…………」

 そのまま力なくキョンシーくんの胸元へ傾れ込む私を、キョンシーくんは茫然と見つめていた。そしてキョンシーくんと戦っていた目隠しさんもまた、その光景が脳裏に焼き付いて離れずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷華の吸血鬼ー銀氷の貴方と誓う永血の恋ー

四片霞彩
恋愛
霧の街で目覚めた私は契約を結ぶ――氷鏡の彼の人は孤独なヴァンパイアだった。 海外に暮らす祖母の元に向かっていたエレナは古びた鍵を拾ったことでヴァンパイアの国・ワムビュルス王国に転移してしまう。 辿り着いた街で人間を「餌」として捕えるヴァンパイアたちから逃げている最中、鍵に導かれるままにとある古書店の扉を開けてしまうのだった。 そこで出会った白銀のヴァンパイアの青年――ロシィから「説明は後だ」と告げられて、主従の契約を強引に結ばれたエレナ。 契約によってロシィの従者となったエレナの姿は子供へと変化して、やがて元の姿からかけ離れた愛くるしいヴァンパイアの少女に変わってしまう。 そして主人となったロシィから「ノエリス」と名付けられたエレナは、ヴァンパイアたちから保護してもらう代わりにロシィに仕えることになるのだった。 渋々ロシィが営む古書店で働き始めたエレナだったが、素っ気ない態度ながらも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるロシィに次第に心を許し始める。 しかし砂時計の砂が全て落ちた時に2人の立場は逆転してしまう。 エレナは「ヴァンパイアの麗しき女主人・ノエリス」、ロシィは「女主人に仕える少年従者・ロシィ」へと姿まで変わってしまうのだった。 主人と従者を行き来する2人は種族や生まれの違いから何度もすれ違って衝突するが、やがてお互いの心を深く知ることになる。 氷鏡のような白銀のヴァンパイアが異なる世界から現れた人間に心を溶かされ、やがて“等しく”交わった時、主従の信愛は番の最愛へと変わる。 ダークファンタジー×溺愛×主従の恋物語。 凍りついた主従の鎖は甘く蕩けるような番の結びとなる。 ※他サイトでも公開予定

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

処理中です...