lemon

古明地 蓮

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とある日の夕方
おんボロアパートの部屋で僕は寝ていた
ガチャ
部屋の扉が空いたが、対応する気がない。
なぜなら、

「ちょっと入るね~
   て、また寝てるの?」

彼女の名前は茜。
茜はとある理由で僕の家に毎日来てくれている。

「ほら、ご飯買ってきたからちゃんと食べてね」

「はいはい」

「こんなんじゃ、綾乃も心配してるよ」

「うるさいなぁ」

「まだ克服できてないの?」

「当たり前だろ
   初めて愛した人だったんだから」

「そんなに愛されてるとか、綾乃は幸せだねぇ
   そろそろ学校に行かないと、単位落としちゃうよ」

「わかってるさ」

「それじゃ、帰るね」

「また明日」

そして、茜は帰っていった。
綾乃は僕にとって初めての彼女だった。
茜は綾乃の妹だ。
茜は、綾乃に頼まれて僕の部屋に来ている。

1年前のある日
僕と綾乃は遊びに行った。
とっても楽しかった。
日が暮れるまで楽しく遊んだ。
子供みたいに、ゲーセンに行ったり、買い物をして遊んだ。
もう満足したのか、綾乃は言った。

「そろそろ帰ろっか」

「そうだね
   もう充分遊んだし」

「それじゃあ、また明日」

「気をつけて帰るんだよ」

そして、僕らはバラバラに家に向かって歩いた。
家に帰ってから、綾乃のお母さんから電話が届いた。

「もしもし?」

「もしもし
   綾乃の母です
   実は、あなたと綾乃が別れて、ばらばらに帰った時に、綾乃が事故にあったんです」

「事故?」

「そうなんです
   あの子は、まっすぐ家に帰ってくる途中に、車に衝突されて、今入院しています」

「そんな
   いまどんな状況ですか?」

「医者でもまだどうなるか分からないそうで」

「僕がしっかりしないばかりに」

「大丈夫
   あなたのせいじゃないのはわかってるから」

「そうですか」

「明日になれば、多分大丈夫だから、見舞いにでも行ってあげてください」

「もちろんです」

「お願いしますね
   それでは」

と言って、電話切れた。
でも、きっと彼女なら帰ってきてくれるはず。
そう思って、その日は寝ることにした。
罪悪感のせいで、なかなか寝付けなかったが。
うんざりするほど眩しい朝日を浴びて僕は起きる。
すると、ケータイにメールが届いていた。
それは、綾乃の母からだった。
不安になりながらメールを開くと、

「非常に残念なことですが、綾乃は亡くなりました
   最後まで必死に頑張っていたそうです
   明日、お葬式を開く予定なので、できればご参加ください
   それでは、また後ほど」

と、文面は終わっていた。
嘘だろ
そんなはずは無い
僕の頭の中は、僕の希望論と現実で渦巻いていた。
それからというもの、僕はずっと塞ぎ込んでしまった。

そして、未だに僕は克服できていない。
彼女の居なくなった世界には、なんの希望も喜びもないからだ。
思い出して、また泣いてしまった。
綾乃のことで泣くのは何度目だろうか。
どうにか悲しみを振り払おうと、布団に突っ伏した。
だんだんと意識は睡魔に飲まれていく。
そして、僕は草原の上に立っていた。
ここは、僕と綾乃の思い出の場所だった。
夢なのはわかっていたが、また泣きそうになる。
しかも、僕を飲み込んでしまいそうなほど美しい夜空が拡がっていた。
辺りを見渡すと、少女がいた。
明らかに見覚えのある顔つき
髪型、体型、そして、声音

「久しぶり」

あの時のままの綾乃がいた。

「綾乃」

これは声になっていただろうか。
それすらも怪しいほどに掠れた声で彼女を呼んだ。

「何年ぶりだろうね」

「綾乃
   生きてたのか?」

「そんなわけないじゃん
   もう私は死んだんだよ
   でもね、全然後悔してなんかいないよ」

「え?」

「だって、とっても楽しかったもん
   君と遊んだ毎日が
   いつも私のためを思って色々やってくれて」

「でも、僕があの時、一緒に帰ってあげてれば!!」

泣きながら叫んだ

「いいんだよ
   一緒に帰ってたら、2人とも死んでたかもよ?
   雨が止むまで待って二人で帰って、両方死んでたらダメだよ
   君だけでも生きてるんだから」

「でも、守ってあげられなかった」

「いいんだよ
   そんなに泣いてちゃ仕方ないでしょ
   ほら」

と言って、彼女は大きくてを開いた。
まるで子供みたいに、彼女の胸に顔を埋めた。

「もういいんだよ
   私に最高の思い出をくれたんだから
   それに、君はまだ生きてるんだから、ちゃんと最後まで生き抜くんだよ
   私の後なんか追っちゃダメだからね
   それこそ私が1番悲しむことだから
   ほら、見てごらん」

といって、彼女は夜空を指さした。
そこには、綺麗な虹がかかっていた。

「もう、私がいなくても大丈夫になれた?
   まだ君の人生は半ばなんだから、頑張ってね
   ずっと応援してるから」

そういう彼女のからだは透き通っていた。

「最後ぐらいハグしよっか」

そして、僕らは抱き合った。
人間の温かみ、夜空の温かみ。
その2つが僕を守ってくれているようだった。

「次会う時はもっともっと先だから、それまで頑張るんだよ」

そう言い残して、彼女のからだは光になって消えた。
ちょっと深呼吸しようと思って、吸い込んだ空気は、少し酸っぱい香りがした。
甘酸っぱい、柑橘系の匂い。
lemon

そこで、僕はまたあの朝日に起こされた。
でも、もう嫌な気はしなくなった。
ガチャ

「入るね
   今日のご飯置いとくから、食べるんだよ
   というか、ちょっとこっち来てよ」

「ちょっと待って
   今着替えてるから」

茜に見えないように急いで制服に着替える。

「今日は久々に学校に行くよ」

「やっと克服できたんだ
   やっとだね
   長かったけど、これで私の役目も終わりかな
   それじゃあ、先行ってるから、学校で会おうね」

久々に僕は朝の支度をして、学校に向かった。
まだ、あの夢のレモンの匂いは抜けていない。
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