黙示録の警鐘

菖蒲士

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昇華せぬ机上神話編

第廿二話 還元

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7.


「目標確認! ―――モルモットの回収は後回しだ!!」  
 アスファルトを噛むブーツの音と共に、男の野太い怒号が帝都の静寂を切り裂いた。  
 闇に潜んでいた『狼』たちが一斉にその姿を現す。  
 彼らの肩に鎮座するのは、時代錯誤なハーケンクロイツの腕章と、現代の兵器体系から逸脱した九つの銃身を束ねる異形の多連装ロケット発射器――『フリーガーファウスト』。
 それはかつての敗戦後、ナチスが地下に持ち込み、狂気と共に研ぎ澄ませた対吸血鬼用決戦兵器であった。

 「対象は非戦闘員ではない、化け物だ! ……シュミット大尉の無念、我ら親衛隊が晴らさせてもらう。地獄の火に焼かれるがいい!」

 「―――やめろぉぉぉ!!」  
 髙島の喉が枯れるほどの制止は、冷酷な金属音にかき消された。

 「撃て(Feuer)ッ!!」  
 放たれたのは、単なる火薬の推進力で飛ぶロケット弾ではない。  
 弾頭には、ナチスの神秘科学局が中世の魔術伝承と近代の錬金工学を強引に縫い合わせた、純度九九・九パーセントの「銀」が充填されている。
 それは吸血鬼という異端的生命を、物理的衝撃と霊的拒絶の双方から同時に抹殺するための、完全なる特効薬(シルバーブレッド)。  
 九発、二基合わせて計十八発の銀の弾頭が、夜を切り裂く白銀の噴煙を引き連れて、エレナという名の災厄へと殺到した。

 だが、その弾幕が着弾する直前。 
 「……五月蝿いわね。―――静かに本國へ帰れば、まだ見逃してあげたものを」  
 エレナの唇が、感情を欠いた陶器の人形のように無機質に動く。  
 彼女の周囲に渦巻く翡翠色の熱量は、すでにマリヤの放った『回避』の異言(サクラメント)と混ざり合い、この空間における「因果律」そのものを書き換えていた。

 キィィィィィィィン――!  鼓膜をナイフで削られるような高周波。  
 本来ならエレナの心臓を物理的に粉砕し、霊的に灰化させるはずだった十八発の銀弾は、彼女の透き通るような肌に触れる数ミリ手前で、まるで見えない絶対零度の氷の斜面を滑るように、その軌道を歪ませた。 
 「生者」への接触を根源から拒むマリヤの呪文が、吸血鬼の天敵であるはずの銀を、ただの「干渉不能な無機物」として強制的に透過させたのだ。

 直撃を免れた弾丸が、エレナの背後へと虚しく通り抜ける。  
 しかし、真の地獄は回避の後にこそ待っていた。

 「なっ……爆発しないだと!? 信管はどうなった!」  
 兵士の一人が、あり得ない光景に目を見開く。  
 壁に突き刺さった銀の弾丸は、物理的な衝撃すら感知できず、信管が作動することすら許されなかった。  
 代わりに、弾丸が通り過ぎた「道」――その空間に残された大気が、エレナが自己保存のために排斥した数千度の熱量を、一気に押し付けられた。

 ドォォォォォォォンッ!!  
 それは爆発というより、空間そのものが耐えかねて悲鳴を上げた、超高密度の断熱圧縮による衝撃波だった。  
 逃げ場を失った膨大な熱エネルギーが、触れた大気を瞬時にプラズマ化させ、不可視の槌(ハンマー)へと変質して射手たちを襲う。

 「が、あぁぁぁぁぁぁっ!!」  
 周囲の建物は無傷だ。
 コンクリートの柱も、道に転がる瓦礫も、吸血鬼の『選別』によって、無機物として保護されている。  
 だが、その隙間に存在する「生きた死屍累々」だけは、この理の管轄外であった。  
 真空に近い急激な熱膨張が兵士たちの鼓膜を内側から爆破し、逃げ惑う肺胞を瞬時に焼き潰す。  
 誇り高き精鋭たちは、自分たちが放った「特効薬」が引き起こした物理法則のバグに飲み込まれ、目や鼻から血を噴き出しながら、なす術なく崩れ落ちていった。

 硝煙すら漂わない、不自然なほど清潔で、それでいて凄惨な地獄。  
 銀の弾丸すら「当たらない」という絶対的な拒絶の中、髙島だけが、焼ける皮膚を晒しながら、一歩、また一歩と熱波の中へ踏み出す。

 「……エレナ」  
 その声は、爆ぜる大気の轟音にかき消されそうなほど弱かった。しかし、誰よりも確かに、彼女という存在の深淵を捉えていた。

 「こんなの……こんなの、私の望んだ救いじゃない!」  
 後方に取り残されたマリヤは、自分の祈りが招いた「一方的な虐殺」を目にし、喉を掻き切るような悲鳴を上げていた。
 彼女の持つ無垢な回避の定義は、エレナの暴走する権能と結びついたことで、最も残酷な「拒絶の盾」に変貌してしまったのだ。

 「―――主よ。あの子が、あんな救いのない『定義』の中にいるというのですか。……エレナちゃんが、あんな哀しい炉心(コア)に……」  
 遠く、崩落現場周辺を覆う白銀の死のドームを、神道の法具を握りしめた紅葉が、怒りと恐怖に震えながら凝視していた。  
 彼女の目には見えていた。
 本来なら慈悲深い守護であるはずのマリヤの『回避』が、エレナという名の猛毒と混ざり合い、この世の物理を内側から食い荒らす「最悪の炉心」へと変質している様が。

 紅葉は、地を這うような熱風に逆らい、マリヤの元へ駆け寄る。 
 「―――だぁれ?」  
 渦巻く白銀の熱波の中心で、マリヤが虚ろな顔で首を傾げた。  
 その瞳は、あまりに純粋な、そしてあまりに重すぎる「定義」の行使ゆえに、人間らしい知性の色彩を失い、透き通ったガラス玉のようになりかけている。
 そのすぐ傍らでは、エレナという名の災厄が、自らの熱に焼かれながら咆哮を上げていた。

 「エレナちゃんの御友達。紅葉って言うんだ」  
 紅葉は、爆ぜる大気の衝撃波を魂の根性で強引にねじ伏せ、一歩、また一歩と「定義の圏内」へと踏み込んだ。  
 彼女の手に握られた『鳴弦の弓』が、空間のバグを検知し、普段の清廉な鈴の音ではなく、神経を逆撫でするような不快な警告音を奏でる。 
 紅葉の目には、この場所がもはや神の作りたもうた世界ではなく、稚拙な論理エラーによって塗りつぶされた、壊死(えし)したキャンバスのように映っていた。
 放置すれば、この「バグ」は御茶ノ水から帝都全域へ、そして世界へと侵食していく。

 「紅葉……お姉さん? エレナお姉さんの、お友達……?」  
 マリヤの声がかすかに揺れる。 
 「……良い子ね。あんな酷いおじさん達の言いなりにならず、自分の意志で、ここまで歩んできたのね。怖かったでしょう。痛かったでしょう」  
 紅葉はマリヤの視線に合わせるように膝をつく。 
 「でも、もう十分よ。……マリヤちゃん、あなたはもう、誰も傷つける必要はないわ。その『異言』を、今は少しだけお休みさせてあげて。神様もきっと、今のあなたを責めたりしないから」

 「……でも、できないの―――どうすればいいの? 止まってくれないの。エレナお姉さんが、熱いの。私の言葉が、エレナお姉さんを一人ぼっちにしているの」  
 マリヤの声は、今にも消え入りそうなほど細かった。  
 一度発動し、エレナの暴走する権能と共鳴してしまった『異言』は、もはや彼女一人の意志では止められない。
 定義がさらなる排他的定義を呼び、バグがバグを増殖させる再帰的な連鎖。

 紅葉は、自身の法具が軋む音を聞きながら、その視線を「ドーム」の最深部、白光の源へと向けた。  
 そこには、理外の熱波に焼かれ、皮膚をどす黒く炭化させながらも、一歩ずつエレナへ近づく高島の姿があった。  
 「バカな……理(ルール)が壊れているのよ!? 筋肉だって肺だって、物理的に耐えられるはずがないのに……なぜ、あの人は止まらないの!? 死ぬわ、死んでしまうわよ!」

 紅葉が驚愕するのは、十字所属の魔術師として、あるいは神道家としての正しい帰結だった。  今の高島は、大気中の熱量だけでとっくに組織が崩壊し、塵となって消えていてもおかしくない。  だが、高島を動かしているのは、高潔な祈りでも、呪われた魔力でもなかった。

 「……予定表を、埋めるって……言ったんだ……!」  
 髙島の肺は、吸い込む熱気でとっくに焼け爛れていた。網膜は強烈な白光で濁り、一歩踏み出すごとに足の骨がメキメキと悲鳴を上げる。  
 それでも彼は止まらない。 
 「―――境界線(ライン)は、俺が決める!!」  
 髙島は叫んだ。
 それは神への救いを求める祈りではなく、ただのわがままな少年の、傲慢なまでの生存宣言だった。  
 紅葉はその光景に、かつて教典のどこにも記されていなかった、泥臭くも強固な「人間の意志」そのものを見る。
 それはどんな神秘よりも輝かしく、そして悍ましいほどに真っ直ぐだった。

 「マリヤちゃん、見て。あのお兄さんはね……世界が壊れているなら、自分の足跡で新しい世界を上書きしようとしているのよ。魔術でも神話でもない、ただの『自分勝手』でね」  
 紅葉は震えるマリヤの肩を抱き寄せ、自身の魔力を最大限に解き放った。髙島がエレナに触れる、その一瞬の「隙」を作るために。

 「……エレナちゃん!! 逃げなさい、なんて言わないわ。……そのバカ正直な男の子に、捕まりなさいッ!!」

 「ふん。――人間風情が、私という完成された理(ルール)に勝てるとでも?」  暴風の目の中で、エレナは冷たく嘲笑う。  だが、その黄金の瞳は、熱波に焼かれ、今にも崩れ落ちそうなのに自分だけを見つめ続ける高島の眼差しに、わずかな、しかし決定的な戸惑いを宿していた。

 「確かにな―――俺の攻撃なんて効かないかも知れない。物理も魔術も、お前には届かないのかもしれないな。―――だが、これならどうだ」  
 熱風に震える、指紋さえ失われかけた指先が、エレナの華奢な肩を、逃がさないように強く掴む。    
 「……っ、離しなさい、髙島……! 焼けるわ、貴方が、貴方の魂が消えてしまう!」  
 エレナの声に、世界を裁く死神の判決ではなく、愛しい者を失うことを恐れる少女の「悲鳴」が混じる。  
 彼女は自分自身を制御できていない。
 髙島を愛おしいと思う感情さえも、今の彼女にとっては「バグ」であり、排除すべき不純なノイズとして、権能が自動的に排除しようとするからだ。
 愛すれば愛するほど、白銀の熱量はその出力を増し、目の前の少年の存在をこの世から抹消してしまう。

 「だったら、壊してみろよ!! お前の世界とやらを、俺が丸ごと抱きしめてやる!!」

 その閃光の中、二人の顔が、睫毛が触れ合うほどの距離まで近づいた。  焼ける肉の嫌な臭いと、口腔に広がる鉄の味が混じり合う中、髙島の唇が、震える彼女の口を捉えた。

 ―――それは、形式的な儀式としての接吻ではなかった。  
 それは愛だっただろうか。あるいはただの生存本能の衝突だっただろうか。  
 否、そんな高尚な言葉で定義できるものではなかった。
 もっと単純で、泥臭く、それでいてこの世の何よりも慈愛に満ちた――『存在の肯定』。  ―――紛れもない、愛なのだ。

 髙島は迷わず、彼女の唇を奪った。  
 世界からすべての色彩が消失し、白と黒、熱と冷、日常と非日常。  
 相反する二つの定義が、接吻という名の「境界線の消失」によって、一つの巨大な奔流へと合流していった。

 ⋯⋯瞬間。  
 狂ったように空間を叩き、建物を軋ませていた衝撃波が、その瞬間に霧散した。

 「バカな……! 物理法則を食い荒らすあの炉心の真っ只中で、自分から『定義』を混ぜ合わせるなんて……!」  
 紅葉の眼に映るのは、白銀の光に包まれた二人のシルエット。  
 本来なら触れた瞬間に原子レベルで爆ぜ、肉体が蒸発するはずの距離。  
 だが、髙島は己の命を「攻撃」ではなく「抱擁」という名の定義に書き換えて、死の網の目を力技で掻い潜った。  
  それは、人外の論理に精通し、魔術の法に則る紅葉には決して選べない、無謀で、あまりにも人間らしい「バグ」への、最高に不器用な対抗策だった。

 エレナの全身から溢れ出し、周囲の分子を狂ったように断熱圧縮させていた翡翠色の「死の定義」が、高島の唇が触れた場所から急速に温度を失い、白銀の静寂へと塗り替えられていく。 
 それは、マリヤの異言が引き起こした「回避」という名の拒絶を、髙島が自らの命という「存在の肯定」で中和した瞬間だった。

 「……たか、しま……さん」 
 「俺の予定表はな……空白なんだ。……お前がいないと、明日何を書けばいいのかさえ、わからないんだよ」  
 高島の言葉は、もはや空気の震えによる音ではなく、魂そのものの波動となって、エレナの閉ざされた胸へと突き刺さった。

 白銀の熱量が、わずかに揺らぐ。  
 黄金の輝きが戻りかけたエレナの瞳から、一筋の涙が溢れた。それは、熱風の中で蒸発することなく、彼女の煤けた頬を伝い、高島の真っ赤に腫れた右手に落ちた。

 その涙が触れた瞬間、エレナの黄金の瞳が、翡翠の輝きを突き抜けて、生命の脈動を宿した碧色へと転じた。  
 それは拒絶の金ではなく、誰かを愛し、誰かに愛されることを許容した、あまりに美しい瞳の色。  
 彼女の内に流れる吸血鬼の呪いと、高島から与えられた「黄金の血」が、この極限の至近距離で共鳴(レゾナンス)を起こした。  
 ―――それは物理的な衝突ではない。ただ、二人の鼓動が、宇宙でたった一つのリズムへと同期していく過程であった。

 「……うるさいのです、貴方の……血の音が……。でも―――何故か心地よくて……」  
 エレナの震える声が、静寂を取り戻しつつある帝都に響く。  
 あれほど冷徹に、効率的に兵士たちをなぎ倒していた破壞の嵐が、まるで魔法が解けたかのように止まった。  
 バグを増殖させ、空間を壊死させていた「定義の暴走」が、髙島という名の「重石(アンカー)」を得て、再びこの世界の重力へと縛り付けられたのだ。

 「……約束、だろ。……お前の予定、……俺が全部埋めるんだ。かき氷を食って、宿題をして、それから……」  
 「……お馬鹿さん。……救いようのない、私のお馬鹿さん……」  
 エレナの指先が、震えながら髙島の頬に触れる。それは今度こそ、焼き切るための暴力ではなく、愛しいものの存在を確かめるための、たった一つの「手触り」。

 髙島は、最後に残った全ての体温を、魂の重みを彼女に預けるように、崩れ落ちそうになるエレナの身体を、折れんばかりの力で抱きしめた。 
 「……悪い。……ちょっと、……重いぞ……」  
 限界を迎えた高島の意識が、深い安堵と共に、遠のいていく。  
 だが、その腕の中に宿る実体――重み、温かさ、そして微かな震えが、暗闇に落ちようとする彼に、「現実」という名の光を繋ぎ止める力を与え続けていた。

 白銀のドームが霧散した後の世界は、驚くほどに静かだった。  
 アスファルトが焼けた鼻を突く異臭と、遠くで鳴り響く消防車のサイレン。
 それが、ここが神話の戦場ではなく、まだ地続きの「日常」であることを、残酷なまでの優しさで教えていた。


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