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◆嘘でも真実でも * 弥衣
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心の傷口から噴出した怒りにまかせ、空になったペットボトルを潰してゴミ箱に投げつけた時。
「失礼しまーす」と、玄関から女性秘書の声がした。
え? 帰るの?
慌てて廊下に出ると女性秘書が靴を履いているところだった。
「あ、すみませんでした。お世話になりまして」
お礼を言うと、彼女は慌てたように深々と頭をさげる。
「こちらこそ。いえ、あの。副社長、何があったのか、こんなふうに酔われたのは初めてで」
「そうですか……」
「あの、奥様。副社長はあんな態度をとられましたけど、『今朝、妻がおにぎり作ってくれた』と、とてもうれしそうにおっしゃってましたよ」
おにぎり……?
「以前は、私がよく、朝食を買いに行っていたんです。それが最近は頼まれないので聞いてみたのですが、そうおっしゃってました。『おにぎりって、食べないと中身がわからないんだな』って穏やかに笑っていらっしゃって、とても幸せそうでした」
女性秘書はそれだけ言って帰っていった。
あの様子。秘書さん、恋人じゃないのかな。
尊さんのやつ、わざと見せつけるようにあんな態度をとったのだとしたら頭にくるけれど、ただの酔っ払いだと思えば、まぁ許せなくもない。
ふいに思い出した。父がちょっとお酒を飲み過ぎると、母は異常なほど心配をして水をたくさん飲ませていた。
仕方がない。水くらいは持っていってあげようか。
冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り、形ばかり静かにノックして彼の寝室の扉を、そーっと開けた。
ベッドサイドの、淡くペンダントライトだけが付いている。
彼はリビングで倒れこんでいた時のように上着も着たままで、ネクタイも付けたままだ。
女性秘書は、彼に触れなかった? いかにも気が利きそうな女性なのに?
さっきの話といい、ハリネズミのようになっていた心のささくれが、彼女の気遣いに触れ、ぽろぽろと取れていくようだ。
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