2 / 21
1
細かい文字列に不可解な暗号。
分厚い魔導書とにらめっこしていた私はそろそろ限界を迎えていた。
「もう無理……続きは帰ってからにしよう」
王城内に設置された専門書に特化した巨大図書館。山積みの本に埋もれていた私は、その中からこれならまだ理解出来るかも、という一冊を厳選し立ち上がった。受付カウンターで貸し出し処理をして貰う。
貸出禁止のレーベルじゃなくて良かった、ていうか課題の指南書がこんなに難しいとかあり得ないんですけど。
ファンタジー映画に出てきそうな扉をくぐり、赤い絨毯が敷かれた廊下に出る。歩いていると頻繁に声をかけられた。
『ユウナ様、今日は図書館においでですか?』
『本日のお召し物も素敵ですわ、ユウナ様』
『今度是非、我が伯爵家のお茶会にいらしていただけませんか』
『よろしければ次回の夜会ではウチの息子と――』
『(何か言ってる×多数)』
途中から曖昧な返事と愛想笑いを繰り返しながら長い廊下を抜け、ようやく出口にたどり着いた。大きく伸びをすると丸まっていた背中が一気に解放される。
「あー、生き返る!」
大きく伸びをすると、さっきまでの疲れが一気に飛んでいくような気がした。
私はこの世界では聖なる乙女、ユウナと呼ばれていた。人気乙女ゲーム「かの君は黄昏に密恋を囁く」の世界にヒロインとして転生したことが分かった時、
『これはひょっとして……勝ち確では!?』
と、私は完全勝利を確信した。
だってヒロインってことは主人公でしょ? 黙っていても攻略対象は入れ食い状態! ということは、シナリオを進めて分岐になったら「じゃあ、君に決めた!」と、望みのまま相手を選ぶだけ。
なんて楽勝な人生なんでしょう!
そんな訳で意気揚々と途中まではハーレムルート、分岐の段階でメインキャラクター人気NO1の大本命、第一王子アイスラン・ジークハルトを選択した。
これだけであとは全て思い通りにいくと思っていたんだけど……
同じく転生者だった悪役令嬢セシリア・フォンクラインと、セシリアを溺愛するアイスランの前にあえなく敗北……ハッピーエンドどころかざまあを食らう始末。
ていうか、アイスランはセシリアとは政略結婚で、彼女に対して愛情なんてミリも抱いていないんじゃなかったっけ?? という突っ込みはまあ置いておいて。
本来なら王族に不敬を働いた罪で処罰される筈だったんだけど(イージーモードからあっという間に転落の人生)セシリア(正しくはアイスランの執念)のお陰で、何と不敬行為そのものがなかったことにされて無罪放免!
今まで通り王城への出入りを許され、その上学生として在籍している魔法学園の籍もそのままだ。
うーん……私が言うのもなんだけど、二人ともちょっと寛容すぎじゃない? 仮にも婚約者を蹴落として王妃の座を狙った相手に対して。
「まあ魅了はもう封印されてるし、今更何かしようとも思ってないけど」
シナリオ通りに進めていたので私の周囲からの好感度はバツグンだった(ハーレムルートだったしね)
分岐でアイスランを選択してからの展開は結構暗めで、徐々に彼のパーソナルな部分が明かされていく。内に秘めた孤独と闇、王子としての重責、婚約者との冷え切った関係など……
個別シナリオではそんな愛を知らない氷の王子アイスランとの距離が縮まり、やがてユウナが彼にとって唯一のかけがえのない存在になっていく……筈だったんだけど。
殿下の反応がなんかいまいちだったので、ステータスを上げるだけじゃ駄目なのか? と、裏スキル「魅了」で手っ取り早く攻略しようと思ったら……ざまあされてしまった。
「ていうか、シナリオを書き換えるってありなの?」
どうやら私のかけた魅了にかかり切らなかったアイスランがシナリオとは全く別の動きを始めてキャラの軸がブレたためその後の展開がざまあにシフト、そこに前世の記憶を持つセシリアが加わることで更なる変化をもたらした。
途中からざまあ展開になったので、それまでのシナリオはそのまま――つまり、私が分岐に入るまで散々アイスランにアピールしまくった実績はまるっと残っている。
そのため、私は勝手に殿下に入れあげて叶わぬ恋を拗らせた結果、両思いのアイスランとセシリアの間に割り込んで返り討ちにあった恥さらし……もとい、可哀想な異世界人という肩書きで着地した。
今の私はキラキラヒロインから脱落した、脛(すね)に傷を持つただの聖なる乙女。
「あーあ、短いヒロイン期だったなぁ」
空に向かって手をかざすと目の前にステータス画面が現れる。これは聖なる乙女だけの特殊な力でここから聖なる力の振り分けが可能なんだけど、魅力の下にある裏スキル「魅了」には鍵がかかっている。
私は本当ならざまあの流れで力そのものを封印される筈だった。やらかした結果は消えても事実は残る……なので、せめてもの罪滅ぼしとしてステータス上で「魅了」をOFF(鍵付)にした。パスワードも破棄したし復元も出来ないので二度と裏スキルが解放されることはない。
「でも私あの時、魅了に全振りしてたんだよね」
腐っても聖なる乙女。魔力量も含めそのポテンシャルは物凄く高い。その私の力を魅了に全振りするとどうなるか……
ステータスで言うと、「学力」「運動」「芸術」「運動」「気配り」等の基本数値は全部【2】なのに「魅力」だけ【1000】。他はポンコツ、でも超可愛い! 顔だけで世の中を渡っていけるある意味無双状態。
そんなメガトン級の魅了攻撃をセシリアへの愛だけで吹っ飛ばしてしまったアイスランにはどうやっても勝てる気がしない。ううん、むしろ勝ちたくない。
「愛が重すぎて引く……胸焼けを通り越してもはやホラー」
と、命の恩人に対して失礼なことを呟いていると後ろから硬い何かで頭を叩かれた。
「建物の入り口で何やってんだよ」
「痛っ! て、カイル!?」
そこにはセシリアの幼なじみ、カーライル・シュタイナーがいた。
分厚い魔導書とにらめっこしていた私はそろそろ限界を迎えていた。
「もう無理……続きは帰ってからにしよう」
王城内に設置された専門書に特化した巨大図書館。山積みの本に埋もれていた私は、その中からこれならまだ理解出来るかも、という一冊を厳選し立ち上がった。受付カウンターで貸し出し処理をして貰う。
貸出禁止のレーベルじゃなくて良かった、ていうか課題の指南書がこんなに難しいとかあり得ないんですけど。
ファンタジー映画に出てきそうな扉をくぐり、赤い絨毯が敷かれた廊下に出る。歩いていると頻繁に声をかけられた。
『ユウナ様、今日は図書館においでですか?』
『本日のお召し物も素敵ですわ、ユウナ様』
『今度是非、我が伯爵家のお茶会にいらしていただけませんか』
『よろしければ次回の夜会ではウチの息子と――』
『(何か言ってる×多数)』
途中から曖昧な返事と愛想笑いを繰り返しながら長い廊下を抜け、ようやく出口にたどり着いた。大きく伸びをすると丸まっていた背中が一気に解放される。
「あー、生き返る!」
大きく伸びをすると、さっきまでの疲れが一気に飛んでいくような気がした。
私はこの世界では聖なる乙女、ユウナと呼ばれていた。人気乙女ゲーム「かの君は黄昏に密恋を囁く」の世界にヒロインとして転生したことが分かった時、
『これはひょっとして……勝ち確では!?』
と、私は完全勝利を確信した。
だってヒロインってことは主人公でしょ? 黙っていても攻略対象は入れ食い状態! ということは、シナリオを進めて分岐になったら「じゃあ、君に決めた!」と、望みのまま相手を選ぶだけ。
なんて楽勝な人生なんでしょう!
そんな訳で意気揚々と途中まではハーレムルート、分岐の段階でメインキャラクター人気NO1の大本命、第一王子アイスラン・ジークハルトを選択した。
これだけであとは全て思い通りにいくと思っていたんだけど……
同じく転生者だった悪役令嬢セシリア・フォンクラインと、セシリアを溺愛するアイスランの前にあえなく敗北……ハッピーエンドどころかざまあを食らう始末。
ていうか、アイスランはセシリアとは政略結婚で、彼女に対して愛情なんてミリも抱いていないんじゃなかったっけ?? という突っ込みはまあ置いておいて。
本来なら王族に不敬を働いた罪で処罰される筈だったんだけど(イージーモードからあっという間に転落の人生)セシリア(正しくはアイスランの執念)のお陰で、何と不敬行為そのものがなかったことにされて無罪放免!
今まで通り王城への出入りを許され、その上学生として在籍している魔法学園の籍もそのままだ。
うーん……私が言うのもなんだけど、二人ともちょっと寛容すぎじゃない? 仮にも婚約者を蹴落として王妃の座を狙った相手に対して。
「まあ魅了はもう封印されてるし、今更何かしようとも思ってないけど」
シナリオ通りに進めていたので私の周囲からの好感度はバツグンだった(ハーレムルートだったしね)
分岐でアイスランを選択してからの展開は結構暗めで、徐々に彼のパーソナルな部分が明かされていく。内に秘めた孤独と闇、王子としての重責、婚約者との冷え切った関係など……
個別シナリオではそんな愛を知らない氷の王子アイスランとの距離が縮まり、やがてユウナが彼にとって唯一のかけがえのない存在になっていく……筈だったんだけど。
殿下の反応がなんかいまいちだったので、ステータスを上げるだけじゃ駄目なのか? と、裏スキル「魅了」で手っ取り早く攻略しようと思ったら……ざまあされてしまった。
「ていうか、シナリオを書き換えるってありなの?」
どうやら私のかけた魅了にかかり切らなかったアイスランがシナリオとは全く別の動きを始めてキャラの軸がブレたためその後の展開がざまあにシフト、そこに前世の記憶を持つセシリアが加わることで更なる変化をもたらした。
途中からざまあ展開になったので、それまでのシナリオはそのまま――つまり、私が分岐に入るまで散々アイスランにアピールしまくった実績はまるっと残っている。
そのため、私は勝手に殿下に入れあげて叶わぬ恋を拗らせた結果、両思いのアイスランとセシリアの間に割り込んで返り討ちにあった恥さらし……もとい、可哀想な異世界人という肩書きで着地した。
今の私はキラキラヒロインから脱落した、脛(すね)に傷を持つただの聖なる乙女。
「あーあ、短いヒロイン期だったなぁ」
空に向かって手をかざすと目の前にステータス画面が現れる。これは聖なる乙女だけの特殊な力でここから聖なる力の振り分けが可能なんだけど、魅力の下にある裏スキル「魅了」には鍵がかかっている。
私は本当ならざまあの流れで力そのものを封印される筈だった。やらかした結果は消えても事実は残る……なので、せめてもの罪滅ぼしとしてステータス上で「魅了」をOFF(鍵付)にした。パスワードも破棄したし復元も出来ないので二度と裏スキルが解放されることはない。
「でも私あの時、魅了に全振りしてたんだよね」
腐っても聖なる乙女。魔力量も含めそのポテンシャルは物凄く高い。その私の力を魅了に全振りするとどうなるか……
ステータスで言うと、「学力」「運動」「芸術」「運動」「気配り」等の基本数値は全部【2】なのに「魅力」だけ【1000】。他はポンコツ、でも超可愛い! 顔だけで世の中を渡っていけるある意味無双状態。
そんなメガトン級の魅了攻撃をセシリアへの愛だけで吹っ飛ばしてしまったアイスランにはどうやっても勝てる気がしない。ううん、むしろ勝ちたくない。
「愛が重すぎて引く……胸焼けを通り越してもはやホラー」
と、命の恩人に対して失礼なことを呟いていると後ろから硬い何かで頭を叩かれた。
「建物の入り口で何やってんだよ」
「痛っ! て、カイル!?」
そこにはセシリアの幼なじみ、カーライル・シュタイナーがいた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
成功条件は、まさかの婚約破棄!?
たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」
王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。
王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、
それを聞いた彼女は……?
※他サイト様にも公開始めました!