このハッピーエンドは許されますか?

あや乃

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「ねえ、ユウナってカイルのことが好きなの?」
「っ! な、何でそうなるのよ!?」

 思わず飲んでいたものを吹きそうになった。
 学園内のカフェテラスでお茶をしている時、セシリアがとんでもないことを言い出した。
 
「だって推しに嫌われるのが悲しいのよね? その上毎日の逢瀬を待ち望んでいる――これはもうLOVEじゃない、LOVE!」
「いくら何でも飛躍しすぎでしょ……それに逢瀬じゃなくて監視だし!」

 アイスランの婚約者でゲーム内では悪役令嬢だったセシリア・フォンクライン。

 実はざまあの真っ最中に前世の記憶を思い出した転生者だったことが判明。確かにあの切り返しはゲームの内容やざまあの存在を知っていないと出来ないもんね。

『ユウナ、あなたもしかして前世の記憶があるんじゃない?』

 あの後セシリアに呼び止められてお互い身バレしたことで転生者同士意気投合、以降友人として親しくしている。

 ちなみに前世で社畜OLだった彼女は貴族階級の生活や口調に興味津々らしい。今や砕けた口調との使い分けもお手のものだ。

 その点、私はゲーム内でも現実世界から召喚された設定なので転生してもあまり変化がなかった。

「そういえばレイチェルは? 今日は聖女研修なかったよね」
「うん、久しぶりにゆっくり話せると思ったんだけどあっという間にジュラルドに持って行かれちゃって」
「あー……」

 セシリアの親友、レイチェル・ハワードは最近選抜試験を突破して聖女になった。

 その時聖女審判で血が清められたことで家族との縁が切れ、赤の他人となった兄のジュラルドに待ってました! とばかりに一瞬で外堀を埋められ囲い込まれてしまった。

 どうやらジュラルドは幼い頃からレイチェルに妹以上の感情を抱いていて彼女を手に入れるために画策。10年の月日をかけてまんまとその手中に収めたという。

 第三者目線からでも一目瞭然だけど、明らかにジュラルドの方が執着している。前回会った時ぐったりしたレイチェルが「体力が持たない」と漏らしていた。色んな意味で距離が近づいたらしいけど、どんな意味で近づいたのかは……うん、聞かない方がよさそう。

 それにしても……セシリアのためにシナリオをねじ曲げるアイスランと、妹と結婚するためなら家族の絆さえもぶった切るジュラルド。

 かの恋のメインヒーローにはまともな奴はいないのか。どいつもこいつも愛が過ぎる、ホラーとサイコ……

「……今、殿下に対して失礼なこと考えてなかった?」
「ぜ、全然!?」

 私の心の中が読めるのかジト目のセシリア。ちょっと可愛い。

「そうだ、あの時は本当にごめん。私考えなしで」
「いいよもう気にしてないし。乙女ゲームでまずメインヒーローを攻略するのは当たり前だしね」

 そう、転生直後の私は何も分かっていなかった。

 ゲームは全ルートコンプリート派、そして好きな物は一番最後まで取っておく主義の私は、いつもの流れでまずメインヒーローから! と個別シナリオの分岐でアイスランを選択した。

 最推しルートは他のキャラをクリアしたあとでじっくり噛みしめながらプレイしよう、というオタク心理なんだけどこの段階から既に間違っていたことに気づかなかった。

 クリアしたら次のシナリオ、駄目でもリセットしてやり直せばいいんだしー、という感覚が抜けきっていなかったのだ。ここはもうゲームの世界じゃない【現実】だというのに。

 こんなことなら最初から推し一本でいけば良かった、と悔やんでもあとの祭。

 でも改めて考えてみるとそれもどうなんだろう。だって推しはあくまで推し、恋愛対象ではない。

 あの分岐でもしカーライルを選択していたら……恋愛する訳でしょ? カイルとこの私が!?? いやいやいやいや、ありえないし無理! そんな展開、想像するだけでも恐れ多い。というか、推しを自らの手で汚しているという背徳感と罪悪感で病みそう。

 だからといってやり直しがきかないこの状態で別の攻略対象に行く気はさらさらないし、じゃあカーライルが今後セシリア以外の女性キャラと恋愛関係になったら? ミリも祝福出来る気がしない……

 ああもう、自分で幸せにする覚悟もない癖に推しの幸せを喜べないなんてオタクって面倒くさい!! と現実と虚構の狭間で悶えていると、セシリアが思い出したように「あ」と言った。

「そういえば、転生したのが私より先ならユウナって続編未プレイだよね」
「うん」

 プレスリリースは見たのに結局プレイ出来なかった。メインビジュアルにカーライルが入っていたからすごく楽しみにしていたのに。

「続編では前作のキャラも引き続き攻略対象として登場するんだけど、ヒロインは新しくなるの。だからカイルの好感度は今の内に上げておいた方がいいと思うよ」
「だから、私はカイルを攻略する気ないんだってば!」

 声を荒げながらも私は内心動揺していた。
 
 え!? 新しいヒロイン出て来るの? き、気になる……!

「ちなみにそのヒロインって……何て名前?」

 やっぱり気になるんじゃない~と令嬢らしからぬ表情を浮かべたセシリアがドヤ顔で教えてくれた。

「シュゼット・メインズよ」
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