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「ちょっとユウナ、あなた何やってるの!?」
「え?」
今日は屋外授業の日。学園の裏手にある森の中で魔法実験が行われていた。
チームを組んで魔法の球体を作り、合体させたり分裂させたりしてその反応を見る実施演習をしていた時、同じ班のセシリアが声を荒げた。
どうやら無心で球体を生成していたらしく私の目の前にはとんでもないデカさの光の球体が出来ていた。
しかも何かグツグツ煮立っているし……
「セシー離れて、ユウナ嬢それを少し持ち上げてくれないか」
「アラン様」
「は、はい……」
ドゥルンッ! ピシピシ……ピキッ…パアアアアアアン!!!!!
私が空高く浮かせたそのグツグツした球体を殿下が水の膜で覆った……と思ったら中の球体が瞬時に凍り付き粉々に砕け散った。
凄い、今のどうやったんだろう……と感心していると足元がふらついた。
「大丈夫? とりあえずここに座って」
「う、うん……」
「一気に魔力を使ったせいでかなり消耗しているね。先生に報告してくるからあとは頼んだよ、セシー」
「分かりましたわ」
「すみません殿下、セシリアもありがとう」
ぼーっとしたまま授業を受けて魔力を暴走させた挙句周りに迷惑をかけるなんて何たる失態。
木陰に座っていると体の奥からじわっ、と魔力が沸きあがって来るのを感じた。もう回復し始めてるんだ、ポテンシャル底なしだな聖なる乙女。
「それにしても珍しいわね、ユウナがこんなミスするなんて」
「うん、何かこの数日ずっとモヤモヤしてて。疲れてんのかな」
もしくは胃もたれか? と思っていると、セシリアが私だけに聞こえるようにそっと耳打ちする。
『その原因ってカイルでしょ?』
「……え?」
「シュゼットの護衛になってから会う機会も減ってるし、最近あまり話せてなさそうだったから」
「いやいや、カイルに会えないからってモヤモヤするのはおかしく」
ない? もしかしてこれって、推しからの供給が足りないことで生じる推し欠乏症ってこと?? なんてことなの……私、もうカイルなしでは生きられない体になってしまったんだ。
と、ちょっと大げさな解釈をしている私の横でセシリアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんね、アラン殿下が無茶な命令を押しつけるから……」
「やめてよセシリア! 殿下の所為じゃないでしょ、護衛は王命なんだから」
「え? あ、ええ……そうね、そっちはそうだったわね」
何だか歯切れの悪いセシリア、動揺が言葉遣いに出てしまっている。
あ、そういえば疑問に思った人もいるかもしれないので言っておくと、彼女のフォローの甲斐あって私はようやく殿下から警戒されなくなってきた。
授業を受ける時は隣同士で課外授業でも同じ班、ランチも当然一緒、その上放課後には二人でショッピングに出かけたりもする――
セシリアと私の仲良しっぷりを毎日アピールしまくったのが良かったのか、殿下の中で私は「セシリアの敵」から「セシリアの友」にクラスチェンジした。
加えて極力アイスランと距離を取って必要以上に近づかない、を心掛けたことでやっと自分とセシリアにとって害がない人物認定を貰うことが出来た。
今ではさっきのように普通に会話したり殿下からも声をかけてくれるように。
セシリアと親しくなった以上、当然その婚約者との接触も増える。流石に嫌われたままだときついので信頼を取り戻せて本当に良かった。
もう絶対迷惑はかけません! その節は助けていただきありがとうございました!!
心の中で殿下に手を合わせていると、木陰から少し離れた場所で大きな円陣を作って実験をしているグループが見えた。その中心にいるのはシュゼット。
彼女はキラキラと輝くサッカーボールサイズの光の球体を見事生成して絶賛されていた。周りの生徒たちはさしずめ彼女の信者といったところか。
そういえばセシリアと殿下は同じクラスなのに、シュゼット至上主義の空気に影響されていない。いつも通りだ。
転入初日は式典で不在だった二人。翌日登校して来たタイミングで早速シュゼットが突撃したんだけど、
『シュゼット・メインズです。私のことはシュゼットって呼んでくださいね!』
『ええ、これからよろしくねメインズさん』
『魔法学園にようこそ。歓迎するよ、メインズ嬢』
『…………ありがとうございます』
初対面の掴みが不発に終わって以降、何となく殿下とセシリアに対して「様子を伺っている」状態のシュゼットだったけど、先日アイスランにやんわりきっぱり拒絶されてからは一切近づかなくなった。
もしかしたら元ヒロイン効果で私に近しい人には影響が出にくいのかも。
「あ、殿下が戻ってきた」
セシリアの目線を追うと確かにアイスランがいる、ていうか結構離れてるのによく気づいたな。あれ、横にもう一人……って、カイルだ。
久しぶりにまともに見るカイル。途端に私の中の推しメーターがアクセル全開で補填を始めた、どんどんゲージが上がっていく。
と思ったら物凄い勢いでこっちを向いた。そのまま走り出す……え、どうしよう久しぶりだから何話していいか分かんない! 久しぶりーでいいのか??
焦りまくる私に向かってカイルが一直線にやって来――る途中でシュゼットに捕まった。
どーんと体当たりした彼女を受け止めて何か言っている様子……と、そこに駆けつけた数人の信者に体を押され、何度もこちらを振り返りながらシュゼット達の輪に引き込まれてしまった。
折角久々に話せるチャンスだったのにいい! という気持ちもあるけど、それよりも今私が一番気になっていたのは……
何でいちいち腕を組む必要が!?
ドジっ子設定のシュゼットは至る所で躓いたり転んだりするので見かねたカイルが毎回助けてるんだけど、最近はすっかり腕を組むスタイルが定着していて……
あ~~~~~!! またモヤモヤしてきた。
「ちょっと大丈夫? ユウナ」
「うん……確かに推し欠乏症かも。モヤモヤどころかムカついてきた」
「推し欠乏症? え、ええと、それは推しに対しての感情じゃなくて」
「ちょっと保健室に行って来るね」
私は保健室を目指してカイルがいる場所とは反対方向にヨロヨロと歩き出した。
「セシー。あれ、ユウナ嬢は?」
「お医者様でも治せない病を抱えて保健室に行きましたわ」
「え?」
カイルがシュゼットの護衛に付いてから、私とカイルの会話は激減した。勿論、護衛対象が同じクラスにいるので姿は見かけるけどほぼ顔を合わせるだけでまともに話は出来ていない。
推し欠乏症(自覚したて)の私にとって、長く続いているそんな状態もこのモヤモヤに拍車をかけていた。
「え?」
今日は屋外授業の日。学園の裏手にある森の中で魔法実験が行われていた。
チームを組んで魔法の球体を作り、合体させたり分裂させたりしてその反応を見る実施演習をしていた時、同じ班のセシリアが声を荒げた。
どうやら無心で球体を生成していたらしく私の目の前にはとんでもないデカさの光の球体が出来ていた。
しかも何かグツグツ煮立っているし……
「セシー離れて、ユウナ嬢それを少し持ち上げてくれないか」
「アラン様」
「は、はい……」
ドゥルンッ! ピシピシ……ピキッ…パアアアアアアン!!!!!
私が空高く浮かせたそのグツグツした球体を殿下が水の膜で覆った……と思ったら中の球体が瞬時に凍り付き粉々に砕け散った。
凄い、今のどうやったんだろう……と感心していると足元がふらついた。
「大丈夫? とりあえずここに座って」
「う、うん……」
「一気に魔力を使ったせいでかなり消耗しているね。先生に報告してくるからあとは頼んだよ、セシー」
「分かりましたわ」
「すみません殿下、セシリアもありがとう」
ぼーっとしたまま授業を受けて魔力を暴走させた挙句周りに迷惑をかけるなんて何たる失態。
木陰に座っていると体の奥からじわっ、と魔力が沸きあがって来るのを感じた。もう回復し始めてるんだ、ポテンシャル底なしだな聖なる乙女。
「それにしても珍しいわね、ユウナがこんなミスするなんて」
「うん、何かこの数日ずっとモヤモヤしてて。疲れてんのかな」
もしくは胃もたれか? と思っていると、セシリアが私だけに聞こえるようにそっと耳打ちする。
『その原因ってカイルでしょ?』
「……え?」
「シュゼットの護衛になってから会う機会も減ってるし、最近あまり話せてなさそうだったから」
「いやいや、カイルに会えないからってモヤモヤするのはおかしく」
ない? もしかしてこれって、推しからの供給が足りないことで生じる推し欠乏症ってこと?? なんてことなの……私、もうカイルなしでは生きられない体になってしまったんだ。
と、ちょっと大げさな解釈をしている私の横でセシリアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんね、アラン殿下が無茶な命令を押しつけるから……」
「やめてよセシリア! 殿下の所為じゃないでしょ、護衛は王命なんだから」
「え? あ、ええ……そうね、そっちはそうだったわね」
何だか歯切れの悪いセシリア、動揺が言葉遣いに出てしまっている。
あ、そういえば疑問に思った人もいるかもしれないので言っておくと、彼女のフォローの甲斐あって私はようやく殿下から警戒されなくなってきた。
授業を受ける時は隣同士で課外授業でも同じ班、ランチも当然一緒、その上放課後には二人でショッピングに出かけたりもする――
セシリアと私の仲良しっぷりを毎日アピールしまくったのが良かったのか、殿下の中で私は「セシリアの敵」から「セシリアの友」にクラスチェンジした。
加えて極力アイスランと距離を取って必要以上に近づかない、を心掛けたことでやっと自分とセシリアにとって害がない人物認定を貰うことが出来た。
今ではさっきのように普通に会話したり殿下からも声をかけてくれるように。
セシリアと親しくなった以上、当然その婚約者との接触も増える。流石に嫌われたままだときついので信頼を取り戻せて本当に良かった。
もう絶対迷惑はかけません! その節は助けていただきありがとうございました!!
心の中で殿下に手を合わせていると、木陰から少し離れた場所で大きな円陣を作って実験をしているグループが見えた。その中心にいるのはシュゼット。
彼女はキラキラと輝くサッカーボールサイズの光の球体を見事生成して絶賛されていた。周りの生徒たちはさしずめ彼女の信者といったところか。
そういえばセシリアと殿下は同じクラスなのに、シュゼット至上主義の空気に影響されていない。いつも通りだ。
転入初日は式典で不在だった二人。翌日登校して来たタイミングで早速シュゼットが突撃したんだけど、
『シュゼット・メインズです。私のことはシュゼットって呼んでくださいね!』
『ええ、これからよろしくねメインズさん』
『魔法学園にようこそ。歓迎するよ、メインズ嬢』
『…………ありがとうございます』
初対面の掴みが不発に終わって以降、何となく殿下とセシリアに対して「様子を伺っている」状態のシュゼットだったけど、先日アイスランにやんわりきっぱり拒絶されてからは一切近づかなくなった。
もしかしたら元ヒロイン効果で私に近しい人には影響が出にくいのかも。
「あ、殿下が戻ってきた」
セシリアの目線を追うと確かにアイスランがいる、ていうか結構離れてるのによく気づいたな。あれ、横にもう一人……って、カイルだ。
久しぶりにまともに見るカイル。途端に私の中の推しメーターがアクセル全開で補填を始めた、どんどんゲージが上がっていく。
と思ったら物凄い勢いでこっちを向いた。そのまま走り出す……え、どうしよう久しぶりだから何話していいか分かんない! 久しぶりーでいいのか??
焦りまくる私に向かってカイルが一直線にやって来――る途中でシュゼットに捕まった。
どーんと体当たりした彼女を受け止めて何か言っている様子……と、そこに駆けつけた数人の信者に体を押され、何度もこちらを振り返りながらシュゼット達の輪に引き込まれてしまった。
折角久々に話せるチャンスだったのにいい! という気持ちもあるけど、それよりも今私が一番気になっていたのは……
何でいちいち腕を組む必要が!?
ドジっ子設定のシュゼットは至る所で躓いたり転んだりするので見かねたカイルが毎回助けてるんだけど、最近はすっかり腕を組むスタイルが定着していて……
あ~~~~~!! またモヤモヤしてきた。
「ちょっと大丈夫? ユウナ」
「うん……確かに推し欠乏症かも。モヤモヤどころかムカついてきた」
「推し欠乏症? え、ええと、それは推しに対しての感情じゃなくて」
「ちょっと保健室に行って来るね」
私は保健室を目指してカイルがいる場所とは反対方向にヨロヨロと歩き出した。
「セシー。あれ、ユウナ嬢は?」
「お医者様でも治せない病を抱えて保健室に行きましたわ」
「え?」
カイルがシュゼットの護衛に付いてから、私とカイルの会話は激減した。勿論、護衛対象が同じクラスにいるので姿は見かけるけどほぼ顔を合わせるだけでまともに話は出来ていない。
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