このハッピーエンドは許されますか?

あや乃

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「それもう終わってる」
「え?」
「だから監視だろ、とっくの昔に終わってるって」
「それっていつ!?」
「始まって一週間も経たない内に殿下から言われた」

 私のベクトルが『殿下<セシリア』に切り替わっていることが理解出来たらしい。

「……私、聞いてないんだけど」
「俺が言ってないから」
「何でそんな大事なことを黙ってるのよ!」
「言ったらお前に会う口実がなくなるだろ」

 ――――え??

「クラスが違うんだぞ。普通に生活してたら会えねえじゃねーか」
「それはそうかもしれないけど、って」

 待って。ということは……私に会いたいから黙ってたってこと!?

「で、でも! あんたそれからもずっと殿下の小間使いだったじゃない」

 えー、気が動転して全然関係ないこと聞いてるじゃん私。

「ああ、俺正式に殿下の側近になったんだよ。色々便利だから手元に残しておきたいんだと」
「そうなの? それはおめで……とうではなくて! それに私の世話だってずっと焼いてて」

 いや、これはシュゼットの時と同じで擁護対象だと認識されているのか? と思っていると、

「あ、それは自主的。好きな奴を構いたくなるのは当然だろ」 

 ん?



 すき? すき……今、好きって言った!!!!?

「カイル、私のこと好きなの……?」
「そうだけど」















 ええっと……

「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いてユウナ、まずは落ち着いてよく考えるのよ」
「心の声が漏れてんぞ。まずはお前が落ち着けよ」
「だ、だって……カイルが私を好きになる理由が見つからないんだもん!」

 さっきの言葉通り落ち着いてよく考えてみる。
 
「私達、出会いからして最悪だったじゃない?」
「まあな」
「王城に呼ばれた時も売り言葉に買い言葉で罵倒合戦になって散々やり合ったし」
「そうだな」
「私、基本ツンデレ仕様で素直じゃないからカイルに対しても憎まれ口ばかり叩いてたのに。周囲からの評判も駄々下がりで今やカップルクラッシャーとか可哀相な異世界人なんて呼ばれてるし。それに……素直で可愛いシュゼットや、あんたが好きだった清楚で優しいセシアとも全く真逆の人間でしょ!」
「そうだな」

 ちょっと! そこは少しくらい否定しなさいよ。

「そんな私のどこに好ましい要素があるって言うの!」
「お前、よくそこまで自分を全力否定出来るな」

 私のあまりの勢いに思わず吹き出すカイル。 

「隣国にいた頃、風の便りで聞いたんだ。最近アイスラン第一王子とその婚約者フォンクライン嬢の仲を引っかき回している聖なる乙女がいるって」

 隣国にまで伝わる私の悪評……最悪。

「正直お前に会うまでは俺の命よりも大切なセシリアを傷つける浅ましい女、セシリアに仇なす害悪としか思ってなかった」

 ですよね。自分で蒸し返しておいてなんだけど「セシリアを傷つける浅ましい女」がパワーワードで地味にヒットポイントを削られる。

「で、実際に会ってみたら」

 あ、でも今は好感度回復している訳だからここから徐々に巻き返して――

「歴代の聖なる乙女とは比べものにならないくらい意味不明で」




 ……ん???

「初対面で訳分かんねえこと口走りながらぐいぐい来るからこいつ頭おかしいのかと思った」
「あ、あれは」

 突然の推しに我を忘れて興奮してしまい……これ本当に記憶からデリートして欲しい。

「そのあともとにかくぎゃんぎゃんうるせえし、1言ったら100返ってくるだろ。沸点低いし素直1割憎まれ口9割で偏り過ぎだし、その上可愛げもない」
「ちょっと、喧嘩売ってんの!? あんたがそんなんだから私がいつまで経っても素直になれないんじゃない!!」

 この言われよう……今のところ好かれる可能性ゼロパー、巻き返せる要素が一つもない。

「可愛いなお前」
「は……?」
「そこが可愛いって言ってんだよ。可愛げがないところも、素直になれなくてガキみたいに俺に噛み付いてくる態度もひっくるめて全部好きだ。俺にはどんなお前も可愛く見えちまう」

 元推しが、今はガチ恋相手の元推しが、私の全部を好きだと言っている……これは夢だろうか?

「言いたいことがあるのに弱気になって言えなかったり、勝手にモヤモヤして逃げ出したりしょげたりしてるお前が可愛すぎて途中からわざと煽ったりするくらいにな」
「はあ!?」

 私の反応にツボってわざとやってたってこと? 何てカイルだ。
 
 現実は生もの。シナリオでは描き切れなかった私の知らないカイルがまだまだ沢山いるってことなんだろう。何となくドSの香りがしなくもないのですが……気のせい?

 で、ここまできてあることに気がついた。

「そういえば! まだ解決していない問題があるじゃない」
「またいきなり何だよ」

 シュゼット主導だと思っていた私への不気味な視線疑惑。

「この一週間くらいずっと謎の視線を感じてたの。絶対シュゼットの仕業だと思ってたら知らないって言うからあとでもう一度問い詰めるつもりだったんだけど」
「あ、悪いそれも俺」
「はああ!?」

 今明かされる衝撃の事実。

「一週間執務室に缶詰だったって言ったろ? その間殿下からユウナに会うのを止められたせいでストレスが溜まってずっとイライラしてたら見かねた殿下が鏡をくれたんだよ」
「かがみ?」
「魔力が込められてて見たい時に手をかざすと離れた場所でも空間が繋がるようになってる。それでどうしても会いたくなった時だけその鏡を使ってユウナ不足を補ってた」 

 シュゼットに『タチの悪いストーカー』と言わしめた犯人がカイルだったなんて……

 違う、正しくはそれをカイルに与えた殿下だ。あ、あの様子を伺うような態度はその後ろめたさもあったってこと? って本当に分かりづらい!!

 これって盗撮? いや、盗撮は相手の許可なく秘密裏に撮影する行為だから違うのか。じゃあ透視? 透視は物を通して向こう側にあるものを見ることだもんね、ある意味合っている。

 直接的な視線じゃなくて何か見られてる、って感じだったし。

「これで問題は全部解決だな。じゃあ話を戻そうぜ」
「いやいやいや! これ結構な問題だと思うんだけど」
「気にするな。お互い好きなら罪にはならないって殿下も言ってたし」

 え、え? そうなのかな、いやそうじゃない気がする……ていうかさっきから好き好き連呼されて血管から血が吹きこぼれそう!!

「でも私、カイルの好みからも理想からもかけ離れてるのに」
「だからそんなの関係ねえって」
「え?」
「好みだとか理想とか関係ない、俺はお前が好きだっつってんの。分かったか?」
「…………うん」

 カイルから貰った好きを改めて嚙みしめる。夢のようだけど夢じゃない!

 と、夢見心地の気分を味わったあとは試練が待っているもので。

「で?」
「へ?」
「ユウナも同じ気持ちだって思っていいんだよな?」
「な、何で改めて聞くの!? もう私の気持ち分かってるんでしょ」
「だって俺、面と向かって言われてないし。お前の口から聞きたいんだけど?」

 やっぱりカイルはドSなのかもしれない……

「ユウナ?」
「~~~~ッ! ………………………………………………………………すき」



 恥ずかし過ぎて小さくぼそっと呟いたあと返事の代わりにカイルの胸に顔をぐりぐりと押しつける。頭上で笑う声がしてカイルが私をさっきよりも優しく、でも力強く抱きしめた。
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