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第1章 流星の如き転入生編

其の7 全てを変える日

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 マオは日々の不満が募り、学園からの脱走を計画。
 紆余曲折ありながらも脱出一歩手前まで来るものの、スケロクに見つかってしまう……しかし、マオはザミに相手を無力化する事を命令。
 圧倒的体格差で相手をねじ伏せるザミだが、スケロクのコタチは突如として燃え盛る巨獣に進化、たった一撃でザミは敗北…
 そしてマオはスケロクに連れて行かれてしまった…




「マオ!どうして脱走なんてしたんだ!」
「だ、だってぇ…」

 部屋へ連れて来られたマオはスケロクへ事情を全て話すも……彼は呆れて溜息をついた…

「全く……まずは相談とかって思いつかなかったのか?」
「絶対断ると思ったから。」
「当たり前だ!そんな理由で退学は認められないぞ。」

 スケロクの自室と思われる部屋は非常に……その、汚い場所である。
 それほど広くない部屋の中で散らばるのは大量の本や書類…机の上にもどっさりと紙が盛られ、唯一綺麗なベッドの上では先ほど圧倒的力を見せたコタチがすやすやと寝息を立てている…
 説教するには向いていない場所である。

「まぁ……その…なんだ、友達ぐらい作ってみたらどうだ?」
「無理だよ、誰も私とは関わりたくないって感じだから…」
「そりゃ1回や2回話したくらいじゃ仲良くなれないのが普通だ。まずは相手を知って何をすれば良いか考えないとな。」

 スケロクはマオへ友達を作るように提案。
 さすれば幾分か学園生活も楽しいものになるのでは?と言って聞かせてみるも……今まで友達のトの字も無かったマオからすれば余計なお世話でしかない。

方が…良いと思わないか?」
「ホントにそうかなぁ…」
「そうさ!慎重と言えば聞こえは良いが、単純に言えば臆病でいくじなしのチキン野郎だ。そんな奴に何が出来る?多少は無謀でも突き進む奴が何かしら得ることが多いんだぞ?それが良い事でも悪い事でもだ。」
「でも死んだら元も子も無いじゃん。結局は実力勝負じゃないの?」
「そりゃそうさ、自分の実力も信じない奴に何が出来る?マオは自分とザミの力を信じて、無謀な事だと分かっても進んだんだろ?信頼は力だ、そして自分を信じられない奴は他人を信じる事なんて出来ない、つまり弱い奴だ。」

 少しばかり説得力のある言葉にマオはほんのちょっぴり元気付けられたのか、学校でもう少し頑張ってみると彼に伝えた…

「良いぞ!普段なら脱走と来ればゲンコツを喰らわしたいが今回ばかりは俺の責任もある。見逃してやる。」
「ありがとう…ございます……?」
「そうと分かればさっさと寝た方がいい。ザミなら具合を見た後に部屋へ送る。」
「良かったぁ……」

 マオはザミの安否を確認すれば一息ついてから自身の個室へと戻り、ベッドの上で横になった…
 信頼は力……まずは友達作りが大切……そう言われたマオは明日から少しばかり気分を変えてみるかと眠りに就いた……しかし、スケロクの部屋を出る際、ふと視線を感じたのだが……気のせいだろうと信じたい……そう思うマオであったとさ…



 さて、いつも通りけたたましい放送でマオが目を覚ましてみればベッドの横には愛犬ザミの姿が。

【アウッ!】
「はぁ…良かった、本当に無事だったんだね、ザミ…」

 元気にペロペロ舐める姿に安堵を覚えたマオはザミへしばらく此処に残って友達作りに専念すると伝えれば彼は嬉しそうにワンと鳴く…
 ザミも此処に残れるようになって嬉しいのだろう。

「さぁてと!今日からぜーんぶをガラリと変えることにするよ!明るく、元気よく、そして社交的に振舞おうじゃないの!」
【ハウ…?】
「まぁザミはそのまんまって事で。」
【ガウ。】

 グーッと伸びをしたマオは歯を磨く前にトイレへ行こうとしたのだが、ふと扉の下を見てみれば1枚の紙が敷かれているのが目に入った。
 紙には『情報部発行学級新聞』と書かれており、手に取ってみればデカデカと書かれた記事が目立つものだ。
 しかしその記事を見てマオはギョッとする…

「だ、脱走者…?」
【…?】

 新聞の見出しには『脱走者、完全逃亡一歩手前で捕まる!』と書かれており……見れば見るほど明らかにそれは昨晩のマオの行動で、無慈悲にも学年と名前すらも掲載されていた…
 冷や汗がじわりと背を伝う……もしもこんな物が学校中に配られてしまえばまともに歩けなくなってしまう!

「ど、どうしよう!!直ぐに情報部とか言う場所に行かないと…!」
【ワン!】

 プライバシーの侵害だ、そう思ったマオは直ぐに制服へ着替えるとザミを連れ、直ぐにでもこのふざけた紙媒体を印刷している情報部とやらへ向かおうとしたが…



「ぉおっと!ちょっと待った!!」

「ひぃいっ!?」
【ッ!?】

 扉を開ければそこには見慣れない女性が1人……制服とバッジからして上級生と思われる。
 彼女は扉が開くなりガッ!と扉を掴み、無理やりこじ開けると中へ入って来たではないか……あまりの唐突さにマオとザミはどちらも対応できず、彼女の侵入を許してしまった…

「いやー!ごめんね?暇なの今くらいしか無いと思って!」
「だ、誰!?」
【ガウガウッ!!】
「そんなに警戒しないでよ。私は情報部部長のロギィって申す者さ。朝の忙しいところ悪いけどちょーっとだけお話聞かせてもらえないかなぁ?」

「じょ、情報部?」

 情報部と聞いてムッとしたマオは再び新聞を手に取り、読んでみれば……確かに端っこの方にご丁寧にも『情報部部長ロギィ発行』と書かれていた…
 つまりこのふざけた新聞を創り出したのはこの目の前に居る女である。
 当然マオは黙っているハズも無く…

「アンタね!私の事新聞にして!なんのつもりよ!」
「そんなカッカしないでよ?私は記者、あなたはスクープ。これ以上にいい関係ってある?喧嘩は空きっ腹に響くわ、これぐらいにしましょ。」
「あ、アンタねぇ…!……おぅわ!?」
「まぁまぁお話くらい良いじゃありませんか!」

 彼女はマオをベッドへ押し座らせると自身は机の椅子に座り込み、紙とペンを取り出す。
 そして腰にぶら下げたインク壺の蓋を開ければ……ドロドロと独りでにインクが壺から溢れ出し、それは右手の形になるとロギィの渡したペンを器用に握った…

「これは私の相棒、インクよ。ここでの話は全て彼に記録してもらうから。」
「な、なによ……何が何だか分からないわ…」
「それを解明するのが私達記者の仕事です!お話詳しく聞かせてもらえませんかねぇ?」

 何を言っても、のらりくらり躱されてしまい、マオはいよいよ参ったのか大人しく昨晩の出来事を全て話した。
 薬品で蓋を溶かしてダクト内を通ったこと、森の中はザミで突き抜けたこと、そしてスケロクのモンスターとの戦い……全てをだ。
 その間にもインクの手はスラスラと床に置いたメモ帳へ字を書いていた…

「なるほどぉ……興味深いわねぇ…」
「ねぇもういいでしょ?早く帰って!そしてこんなふざけた新聞は校内に配らないで!!」
「おっと……それはちょっとマズイかも。」
「は…?あ、アンタまさか…」

「もう校内中にその新聞は行き届いてるわ。」
「あ゛あ゛あ゛ぁああ゛ッ!!!なんて事してくれてんだァ!!」

 響き渡る絶叫、だが時すでに遅し……彼女曰くマオの事が書かれた新聞は既に校内中へ配られ、時間的にほぼ全員が目を通していると言うのだ。
 なんて事をしてくれたんだと今にでも殴りかかりそうな勢いを抑えてマオは悩みに悩んだ…
 しかし、世の中にはこういう言葉がある……百聞は一見に如かず…
 いくら新聞だからだろうとこんな話は全てデタラメで片付けられるだろう……そう信じていたかったのだが…




「な、なんかヤケに視線を感じる…」

 トイレに行けばジロジロと見られ、食堂へ入ってみれば一瞬ざわめきが止み、再度ざわざわとし出す……それに明らかに視線を感じている…
 普通そんなものどうやって感じ取るんだ?なんて思うかもしれないがこればっかりは感じずにはいられない!
 立っているだけでゾワゾワしてしまいそうだ…

「(な、なにはともあれ……まずは友達探し!私と張り合えるくらいの子は…)」

 そんな視線を3割ほど気にせず、朝食の場でこそ誰かと仲良くなるチャンスだと考え、クラス内に仲良くなれそうな生徒は居ないか探し始めた。
 そうすれば見つかる見つかる……食堂の隅っこでグレタ組に絡まれている女子生徒…ルミリィが見つかった…
 「話しかけてこないで」とは言ったものの、これは見逃せない!マオは自信満々に近寄り、「おい」と声を掛けた。

「ぁあ?なんだよ、マオじゃねぇか。人気者が何しに来たんだぁ?」
「あんまり楽しそうな雰囲気じゃなかったから助けに来たのよ。」
「ぅう…」
「ほっほう?お前みんなの前で良い子ちゃんでも気取るつもりか?そんな事言ってっとぶっ飛ばッガァッ!?」
「ふん!」

 マオは言い寄る相手の眉間へ脳天を思い切りぶつけ、強烈な頭突きを喰らわせた。
 さすれば相手も一瞬天井を眺めた後にバタリと仰向けに倒れ込んでしまった……手を使わずとしてもあっという間に決着は着いたのだ。

「ねぇ大丈夫?」
「ぅうう……あ、ありがとう…」
「どういたしまして。じゃ、朝御飯一緒にしてもいい?」
「………ん…」

 「ん」は拒否系の言葉では無いため、マオは朝食のパンケーキを取って来るとルミリィの隣へ座り、初めて誰かと朝食を共にした…

「ね、ねぇ……私と…一緒に居ない方がいいよ…」
「なんでそんな事言うの?」
「だって……あ、あなたまでイジメられたら…」
「何よ。あんなザコ相手10人来ようが返り討ちに決まってるじゃない。大人3人に殴り勝った事もあるんだから。」
「強いね…羨ましいや…」

 話をしてみれば分かるが、ルミリィは意外と気遣いの出来る人物である。
 例えば机の上に放置されたゴミは率先して片付けるし、自分に話しかけてこないで欲しいのは関わる事でイジメられないかが心配だからだ。
 意外と人間は外ズラだけじゃ分からないものである。



 そして授業中、ルミリィとマオは隣同士なので観察してみれば疑問が1つ。
 彼女……ノートを取らないのはまだ分かるが、教科書にも目を通さないのだ……スケロクの話を聞き流していると言った感じ。
 気になったマオは小声で彼女へ問いかけた…

「ねぇルミリィ、なんで教科書見ないの?分かりにくくない?」
「あぁ……私…その、文字が読めなくて…書けもしないから…」
「なるほどねぇ…」

 どうやらルミリィは文字の読み書きが出来ないタイプの人間らしい。
 そんな子はスラム街で腐るほど見ているのでマオは特に何も思わず、「そうなんだ」としか言いようが無かった…しかしながら当のルミリィは本を読むことも出来ないと困っている様子。
 なら友達こそここで提案をするもの。

「そんな事なら私が代わりに読むよ。」
「い、良いの?ほんとに…?」
「全然!ダイジョーブダイジョー…ブッパァ!!」

「これ以上チョークの在庫を消耗させないでくれるかな?マオ。」
「はぃぃ…」

 眉間をチョークで突かれ、痛がる彼女を見てルミリィは少し笑うとマオも少しだけ笑った。



 さて午前の授業も終わり、昼休みの間にルミリィの読みたい本とやらをマオは読むことに。
 図書室へやって来た2人は適当に隅っこの床へ座り込むと本を開いた。
 題名は「黄金郷の女神と獣」…噂話でよく聞く黄金郷にまつわるものだ…

「黄金郷って本当にあるのかな…」
「新生08探検隊が血眼になって探すくらいだしあると思うよ。」
「なにそれ?探検隊?」
「知らないの?黄金郷を探してる集団のこと。」

 新生08探検隊とは黄金郷を探し、遺跡を荒らす武装集団の事である。
 彼らは考古学者と地質学者…そして兵士と奴隷で構成されており、帝国中の古代遺跡を探検しては黄金郷の行方を探す奴等だ……もちろん犯罪者である。
 そのためかあまり知られていない様子…

 本題に戻るが本の内容と言えば富の女神「トジャルス」が価値と黄金について自身の配下である「獣」たちに教え込むと言ったもの。
 トジャルスの配下である獣は6匹でそれぞれがこの古代ニデリアス大陸のあらゆる場所で王として君臨していた……しかしながら彼らは獣であり、知性や価値と言ったモノを持たないのだ。
 そこへトジャルスは彼らに価値の尊さ教え込み、様々な文明や街を築いたと……だが獣はトジャルスを裏切り、彼女を殺すと富を奪い合うため、6匹がそれぞれを殺し合った…
 そして残されたものは数多の欲が眠る黄金郷…しかしそれもこの大陸の何処かへ埋もれてしまった………と言うお話。

 つまり「欲張りはいけないよ」と言う教訓を教え込むための本だ。
 結構有名な話だが改めて読んでみるとかなり悲惨な話である。


「ルミリィ…どうだった?」
「なんか…すごく怖いお話だったね…」
「欲張りは損だからね。」
「そうなんだね……あ、もう行かないと…」
「いっけね!もうこんな時間かぁ!」

 絵本を棚に戻したマオは彼女と2人で教室へ戻った。

 教室に戻ればザミが熱烈歓迎してくれ、二足歩行せんと勢いでルミリィへだらしなく寄り掛かる………オスゆえの行動なのか…
 とりあえずザミを引き離したマオは彼のお腹をワシワシと勢いよく撫でまくった!

【ハウッ!ハウッ!!ワゥウ!】
「あはは!いい子いい子!」
「良いなぁ…マオってもう相棒が居るんだね…」
「そう言えばルミリィまだ相棒見つけないの?」
「うん…中々踏み込めなくて…」

 そう言えば彼女に限った話では無いが、この学校に相棒であるモンスターを持つ生徒は割と多い。
 まずはテイマーとしての基礎を学ぶことが大切であるが居る方が何かと楽しいもんである。

「じゃあ一緒に見つけようか?」
「良いの?マオはもう居るのに…?」
「だって友達の相棒なら一緒に探しに行きたいよ!」
【ワウッ!】
「友達………うふふ…えへへ!うん!一緒に探そうよ!」



 マオはルミリィと一緒に相棒のモンスターを探しに行く約束を結び付けた…
 そして2人はようやく互いに友達同士として認められたのだ、ルミリィにとってもマオにとっても初めての友達である。
 仲良く笑う2人を横にザミは呑気に身体を舐め、手入れをするのであった…

つづく…



・・・



 学園内の1年生について
『このレメエンタ・ハイスクールの1年生には3つのクラスが存在する。まず最初にアマス組。アマス組に集められる生徒たちは特に可も無く不可も無く、普通の家庭が多い。児童に問題が見られない場合はこのクラスに入れられることが殆ど。次にグレタ組……この組に集められる生徒は運営であるリセレアへ何かしら貢献している事が多い。例えば親が投資しただとか偉い軍人さんの子供だとかだ。そして最後にバラク組、この組は問題児だらけ…主に孤児院や捨てられた子供が行き着く先であり、最も知能の低い組として知られている。しかしながらそう言った生徒も普通に通わせるのだから驚かされるものだ。』
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