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第1章 流星の如き転入生編

其の9 ルームメイトはつらいよ

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 さて…ルミリィはマオ、ザミと共にクシューカ大森林へ向かい、そこで相棒を探すも失敗続き…
 終了時間も差し迫り、次に期待しようと意気込む2人と1匹の前に姿を現わしたのはミリオンワームと呼ばれる、如何なる魔蟲にも姿を変える幼虫だった。
 ルミリィは最初嫌がるもマオの必死の説得により幼虫にイコと言う名を付け、相棒にすると決意…しかし1人と1匹が馴れ合うのは一筋縄ではいかないもの。


【ミ゛ッー!!】
「いひゃぁ!?ま、マオォ…たすけて…」
「助けてって、ルミリィの相棒だよ?」

 イコはよっぽどルミリィが気に入ったのか、片時も離れずと言った感じ。
 初日は検査も含め、一旦厩舎で寝かせたのだがその翌日になればそうとは行かない……モンスターと暮らすからにはこのイコを厩舎で面倒見るか、それとも自室で面倒見るかが重要である。
 ミリオンワームは大型モンスターの部類に入るが大型の中でも割と小さい方だ、つまり自室でも普通に飼う事は可能だ。

「私はルミリィのニガテを克服するためにも自室で飼う事をお勧めするよ?」
「無理無理無理!!絶対無理ィ!!一緒に寝れないよぉ…」
【ミ、ミィ……】
「大丈夫だよイコ、ルミリィはちょっとキモいなって思ってるだけだから。」

 やはりこう言う場合は両者の気持ちを考えれば同居を進めるべきである。
 それにテイムしたばかりでいきなり厩舎行きとは少々可哀想なものだ。
 しかしイモムシ嫌いなルミリィの気持ちも考えれば……少しゾッとするだろう、なにせ一番嫌いなモノと同じ部屋で寝ないといけないのだから…

「こ、こればっかりは……流石に無理…」
「そっかぁ。イコ、残念だったね?」
【ミィィン…】
【ワウ、ハウハウ?】
【ミッミミィ…】

 ちなみにイコとザミの相性は今のところイイ感じ。
 言葉は通じるらしく、時々何かしら会話する事が多いが……その内容は分からない…

「けどさ、イコだってルミリィの事好きなんだよ?どうしてもダメかな?」
「ダメダメダメ!いくら相棒でもイモムシと同じ部屋で2人きりなんて冗談じゃないよ!」
「2人かどうかは分からないけど、それならザミを置いておこうか?イコとも仲が良いしこれで1人と1匹きりじゃ無くなるよ?」
「ならいっそのことマオも来てよ…」

 今更だがルミリィの部屋は相部屋であるが、相手が居ないので実質大きな個室状態。
 それならマオも「喜んで一緒に居たいな!」とは思っているものの……無許可での移室は禁止である、さらに言うと友達同士でもお泊り会は禁止だ……例外を除いて。

「先生に聞きに行く?部屋が移動できるなら私もルミリィと一緒に居たいし。」
「えぇー!ホントに?一緒の相部屋になってくれるの?ルームメイトに?」
「うん。厳密に言えばザミもだけど。」
「ならさっさと行こうよ!私ずっとルームメイトに憧れてたんだ!」
「は、ははは…そうなんだ…(明るくなったなぁ)」

 と言うワケで2人と2匹はどうにか一緒の部屋に居られないかスケロクの元へ相談しに向かった。
 幸いにも今日は休日なので時間はあるだろう……相手の時間は知らないが。



「なに?部屋を移動したいだと?」
「うん。先生、出来ない?ルミリィが1人じゃ嫌だって言うから。」
「イモムシと相部屋はちょっと…」
【ミ゛?】
「うーん……普通ならルームメイト同士のいざこざ以外で急な移動は許可出来ないんだがなぁ…」

 しかしながらスケロクはそう直ぐに頭を縦に振る事は無かった。
 それもそのはず……生徒の部屋割りなどは全て事細かに記録され、厳重に管理されているのだ…そう易々と部屋を変えるんじゃこんがらがってしまう。
 なので部屋割りを変える時は新学期が始まる際に希望がある者か、ルームメイト同士のトラブルが起こった時くらいだろう。

「先生、頼むよ。ルミリィだってようやく明るくなって来たのに……私だって友達出来たのに…」
「そ、そんな事言われてもなぁ……」

 ルミリィが訴えかけるような目で彼を見つめるも……あまり効果は見込めない…

「相部屋にしてくれないとまた脱走するよ?じゃないと先生の責任だよね?」
「なッ…!!ま、マオ!先生を脅しているのかい!?」
「冗談に決まってるじゃん。」
【アフゥ…】
「ザミまで安心しないでよ…」

 冗談はさておき、スケロクは必死に悩んだ。
 記録係の身を案じるか、それとも生徒の思いを優先すべきか………しかし!教師として!彼女等に言えることは1つだ!

「まぁ良いんじゃない?好きにしてみれば?ルミリィだって1人部屋だろ?」
「はい。相部屋しない相部屋も話ですけど…」
「じゃあ誰も気にしないだろう。イコだって生態的には事足りるだろうし。」
「やったー!マオ、これからずっと一緒に居られるよ!」
「はは、そうだね。」

 という事で、無事に?許可を頂いたマオは早速彼女の部屋へ荷物を移し始めた……だが移すと言っても着替えと数点の小物だけだ。
 引っ越しなんて箱1つで事足りるもの…ほんの5分も掛からず終了。

「よっこいしょっと……さて、これからは2人と2匹、仲良くやって行こうね。」
【ワウッ!】
【ミミ゛ッ!】
「うんうん!じゃあ何する?」
「何するって……自由にすれば良いんじゃないかな?いつも通りで良いよ。」

 いつも通り……そう言ったは良いものの…

「………」
「………」
【クファ~…ァ…】
【ミッミッミ…】

 マオはベッドに寝転がって天井を見つめ、ルミリィはカチカチと針を刻む時計をチラチラと眺め…ザミは大きなあくびをして、イコはムシャムシャと草を食べている…
 いつも通り……にしては少し気まずく、各々がそれぞれをチラ見してしまいがち…

「……なんか…気まずい?」
「うん……私、相部屋なんて初めてだから…こういう時どうすれば良いの?」
「そんな事聞かないでよ…私だって相部屋なんて初めてだなんだよ。」
「そうなの?マオって兄弟とか居ないの?パパとママは?」
「兄弟は居ないと思う…父親も母親も顔は覚えてないや。ね、ザミ?」
【ワン…】

 マオは両親の顔など覚えていない……唯一覚えている事と言えば自分にスラム街へ置いて行ったことくらいだろう。
 それが待ての合図なのか、それとも我の挨拶なのかは今となっては分からずじまいだが……そんな事を覚えていようが覚えないでいようが関係ない事だろう、10年以上も迎えに来ないのだからどちらにしろ良い関係とは言えないに決まっている。

「そ、そうなんだ……ごめんね…」
「いや良いよ。別にそんな気にしてないから。」
「うん…」
「それよりさ、ルミリィの父親と母親ってどんな人なの?」
「私の?…うーん……あんまり面白くは無いかな…」

 一方でルミリィは兄弟こそ居ないものの、両親は故郷に健在。
 母親は植物学で博士号を取っており、父親は天文学者として働いているが……肝心の家は田舎の辺境にあるため、特にこれと言って面白い事は無いと言う。

「どっちも学者なんだ…凄いね。」
「凄いかどうかは分からないけど、優しいよ。いつかマオにも紹介したいな。」
「楽しみにしとくよ。私の親も…もし生きてたら紹介するね。」

 そうは言いつつも本音では「もう居ないと思うけど」と密かに悲しむマオであった…
 しかしながら話してみると楽しいもので、その後も両者話題が尽きることなく話していたのだが……マオはふとあることを思い出し、彼女へ聞いてみることに。
 その事とは…

「ねぇルミリィ、モンスターの進化って分かる?」
「進化?」

 そうだ、すっかり忘れていたがモンスターの進化と言うのをマオはあまり知らない。
 スケロクに聞いてみても「また今度教えるから」とはぐらかされるので分からずじまいなのである…

「それって長い年月をかけて地道にするやつ?」
「いや……一気にバキバキィッて!派手になるやつ。」
「ばきばき?ちょっと分からないかなぁ……でもなんでそんな事を?」
「前に私が脱走したことあるでしょ?その時にさぁ…」

 マオはこの前の脱走時に起きた出来事を話した。
 スケロクのモンスター、タイニーパンダのコタチが凄まじい速度で身体を急速に変化させ、それを進化と呼んでいたことを…

「んー………あ…」
「ルミリィ、どうかしたの?」
「前に聞いたことあるかも……王国の事で…」
「王国?」

 その話を聞いて頭を捻り狂わせていたルミリィは突如としてとある事を想起。

「クシューカ王国ってあるでしょ?此処がそうなんだけど……とにかく、王都の兵士はモンスターテイマーが多いって知ってる?」
「いや……初耳だなぁ…」
「王都のモンスターは特殊な魔法で姿って聞いたことあるんだ。」
「昔の姿に?それって退化じゃないの?」

 ルミリィ曰く、王国直属のモンスターテイマーは特殊な技法や魔法を使用して自身のモンスターを退化させると言うのだ。
 言うなればモンスターのDNAに無理やりバンク細胞を創り出すようなものである。

「確かに退化って言えば退化だけど……話を聞いた感じだとそれが一番合ってるかなって。」
「謎は多いけど何となく近付いた気がするよ。……ルミリィって案外頭良いんだね?」
「そ、そんな事ないよ!私は昔に聞いた話をそのまま伝えてるだけで……ほら!私って字が読めないでしょ?でも記憶力だけは昔からあるから…」

 しかしながら……スケロクは王国生まれの人間では無い、それに兵士なんて見た目では無い。
 何かしら似て非なるものなのだろうと考えたマオは気難しい気持ちでその後を過ごした…





 それから翌日の翌日……まぁ月曜日。
 1限目は珍しく自習という事でする事も無いマオとルミリィは部屋と同じく喋り深けていた。
 一方でザミとイコも…いつも通り、することなく…あくびをしたり、草を食べたりしている…

「ルミリィ、私そろそろ新しい友達を作りたいと思うんだけど…どうかな?」
「良いと思うよ。友達が増えるのは楽しそうだもん。」
「やっぱり?……誰が良いかな…?」
「うーん……ダズロアは?」
「ダズロア?」

 マオがルミリィの視線の先を覗いてみれば、向こうの机に座っているのはグロテスクな人形を弄る少女……マオやルミリィより年下だ。
 相棒はてるてる坊主のような幽霊……ふわふわと情けなく浮いている…

「けどあの子って繊細っぽいからいきなりは難しいと思うよ。」
「それなら……アッチの机に座ってる子は?」
「どれどれぇ?…ぃいッ!?え、エスキー!?止めときなって…」

 マオが気になるのは部屋の端っこの席の…分厚い防寒服のようなものを着た生徒だ。
 名前はエスキーと呼ぶようで、相手はマオとルミリィの方をじろりと見れば……その異質さに2人は震えた…
 エスキーはファーの付いた分厚いフードを被り、その上顔は箱メガネのような丸いレンズで覆っている…顔は見えないし喋りもしないので不気味である。
 ちなみにペンギンのようなモンスターを連れている……その辺は彼の服装によく似合っている。

「エスキーって男?女?」
「さぁね……で、でも…たまに低い声で何か言ってるから…男の子……なのかなぁ…?」
「そうなんだぁ……じゃ、その隣に座ってるのは?」
「アレはグリフ。エスキーに比べれば喋る方だけど……静かな方かな。」

 次にマオが興味を示したのはエスキーの隣に座る灰色の髪をした男児、グリフであった。
 ルミリィが言うには口数は少なく、相棒のモンスターは居ないが厩舎によく通っていると言う……理由は分からないが、とにかくマオはグリフに興味を示し、彼と交流を試みることにした。
 いつも居る場所が分かっていればその分会うのも楽だろう。

 早速マオは授業が終わればザミと共に彼の通う第一厩舎へと向かった。
 なお、ルミリィは行きたがらないので置いている…

「こ、こんにちわ…」
【クゥウン。】

 厩舎内は良い匂い……はしないが、様々なモンスターで溢れている。
 ザミのような犬っぽいものも居ればゴツゴツの昆虫や巨大な鳥なども居る……モンスターの多様性をよく表しているものだ。

「はぁい?何か御用ですかぁ?」
「グリフって男の子探してるんだけど。」
「グリフくんなら奥でブロンズアンテロープの毛を梳かしてますよぉ。」

 マオは何だか気の抜けたような人からグリフの居場所を教えてもらい、様々なモンスターを眺めながら歩いて行けば銅色の毛並みと角を持つ獣……とその毛を梳かすグリフの姿が…

「えーっと……グリフ…で合ってるよね?」
「ああ。そう言うお前はマオだな?」
「あれ?知ってるの?」
「有名だからな……そっちのはザミだったか?」
【ワウ!】

 マオは脱走の一件でかなり有名になったらしく、グリフのような者にまで情報は行き届いている様子……あの情報部も中々の事をしてくれたものだ。

「で……そんなマオさんが何の用だ?」
「別に大した事でも無いんだけど………私と友達にならない?」
「……どういう意味だ?」

 グリフは手の動きを止め、ブラシを近くの棚へ戻すと彼女へそう聞いた。
 どういう意味だと言われてしまえば困るが、そのままの意味だ……つまりはただお友達になろうと言うこと、何かしらのヤバイ暗号では無い。

「意味って言われても……そのまんま、仲良くなりたいなって。」
「………断る。」
「えぇー!?なんでぇ!」
「俺は誰かと馴れ合う気なんてサラサラ無いね、分かったんなら失せな。」

 グリフはそう言うとそのまま厩舎の外へ行ってしまった…
 まさかの返事にしばらく唖然としてその場に立ち尽くしていたマオだが、次第に「気難しい奴だなぁ」と苦戦しそうな雰囲気に溜息をつくのだった…

「くっそぅ…絶対友達になってやる!」
【アウワ?】
「あたぼうよ!私に不可能なんて字は無い!あっても面倒くさいだけ!」


 マオは急いでグリフの後をつけるのだった…

つづく…



・・・



 モンスター大図鑑

【カルマンコブラ】(後天性モンスター)
魔竜類、異質蛇科、カルマンコブラ属 危険度3(死亡する危険あり)
有効度:低 知能:低 テイム難易度:高 希少度:☆
必要資格:2級毒竜免許
適正魔法:怪毒系 利用:革細工、薬

『深い森林や湿地帯などでよく見られる土色の身体に青い筋の入った蛇。コブラと名は付いているがこれは頚部の辺りを膨らませ、相手を威嚇する事から来ている。鋭い牙を持っており、噛み付いた相手へ神経毒を大量に送り込むことによって狩りを行うが相手を絞め殺す事も多い。元はただの動物かと思われたが国歴94年(40年前)にシントリアの動物園で魔法を発動する個体が確認されているため、後天性モンスターとなっている。知能が低いのでテイムは難しい一方で特に利用価値も無いのでモノズキ以外がテイムする事は無い。身は骨ばかりだが淡白でクセの無い味、皮はよく高級ブランド品などに使用される。血清も開発されているので噛まれても焦らないように。』
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