僕の大好きなあの人

始動甘言

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僕はまた繰り返す

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 「うん?ここは・・・・?」
 場所は舞台の上になった。ここは、本来ならば『彼女』と一緒に行った場所の一つなのだけれど、客席は記憶の都合か真っ暗になっていて何も見えなかった。代わりに舞台の上でスポットライトに照らされる『僕』と『彼女』がいた。僕らは舞台のカーテンの影からそれを見ている。
 「もう演じる僕も限界か」
 「流石にここまで再現すると自分の顔の解像度を落とさないとやっていられないからな」
 演じる『僕』の顔は『彼女』の顔よりも黒く塗りつぶされていて身体もほとんどがモザイクだらけ、演じているのが他人だったら絶対に分からないと思う。
 「でも、ここがそんなに大切な記憶だとは思えないんだけど」
 舞台を見に行った記憶はここまで来た僕にとってはもはや覚えてすらいないのだから記憶じゃない。バカめ、と怒っていた僕は『僕』と『彼女』が向いている方向、舞台の壁になっている方を指さした。
 「あ・・・・」
 あるのはマンションのドアの前だ。ここは、そうだ。彼女の住んでいる部屋だ。
 「確か・・・・・えっと・・・・・・」
 「いい、お前はそれ以上頭を回すな」
 次の記憶から来た落ち着いた僕は僕を手で静止する。
 「ここには彼女の父親がいた。だが、僕と付き合う内に彼女にも決心がついたんだ。ここはそういう意味で大切な場面、覚えていることはそれだけでいい」
 すると、舞台の上の『彼女』が大きく深呼吸をしているのが見えた。緊張しているのだろう、手が震えている。そうだ、『彼女』はここに来る前に・・・・
 「おい」
 怒った僕からわき腹に軽い一撃をもらう。痛さは感じなかった、記憶なんだから。
 「それ以上は思い出すな。だけを見ろ」
 震える『彼女』の手を見て『僕』は手を掴んで『彼女』の震えを止める。『彼女』は『僕』の方を振り返り、小さく頷いた。そして壁の中にある扉に入った。
 「ああ、そうか。そうだ・・・そうだったんだ・・・!!!」
 この先の展開を思い出した。最悪だ、それを僕にもう一度見せようというのか!
 「ああ・・・ああ・・・」
 嫌だ、逃げよう。そう思った矢先に怒っている僕と冷静な僕に両腕を掴まれた。
 「バカ野郎!ここでお前が逃げたらどうなると思ってんだ!!」
 「もう戻れないんだ。これは所詮過去、何をしようとも変わらない」
 「いやだ・・・!!嫌だ・・・!!だって、ここから先は・・・!!」
 「そうだ、お前はこれを。向き合うとか向き合わないとかじゃない。僕らはもうすでに落ちているんだ、分かるだろ?」
 そうだ、その通りだ。これは所詮一息の夢、実際の僕はもう
 「うぅ・・・うぅ・・・うぅ・・・!!!」
 分かっている、分かっている、分かっている。この先の展開がどんなことになるか、彼女がどんな顔をしてしまうか。そしてここからしてしまう選択が最悪の選択になってしまうということが。
 「行くぞ」
 「・・・・・・・・」
 僕は僕たちに引っ張られながら『僕』と『彼女』が入った壁の中に入る。

 そこには『僕』と『彼女』がいた。そして、その奥にもう一人。
 「お・・・・待ち・・・・・しており・・・・ました・・・・・神子・・・・・・さま・・・・・・」


 誰よりも僕に良くしてくれた『彼』が変わり果てた姿で、僕を見ていた。


 「あ、、、、、あ、、、、、、、あ・・・・あああああああ!!!!!!!!」
 『僕』はそこで思い出してしまったのだ。『僕』が『僕』になる前に『彼』にしてしまったことを。
 「神子さま・・・・?」
 『彼女』の目を覚えている。怯え、疑問、そして忌むものを見たかのような恐怖。『彼女』は宗教を知らない、だが『彼』は入信どころか神官長という立場にいたのだ。『彼女』は『彼』の最後の支えだったのだ。
 揺れる、揺れる、世界が、ユレル。グルグルグルリと。ユレにユレユレ、セカイはマワル。
 『彼』にしたこと、それは簡単なことだ。『僕』が来るまでこと。
 「これで・・・・・・・・・わたしは・・・・救われ――――――――――」
 『彼』の頭が縦に嫌な音を立てて、回る。一回転して戻った頭はもはや人の顔ではなかった。目は虚ろに何処かを見つめながら魚のように膨れ上がり、鼻の部分は口の部分と繋がって大きな穴になっていた。髪は柔らかさこそ残っているが鎖のようにジャラジャラと音を立てている。
 ガタリと『彼』だったものは立ち上がった。細くなっていた腕と足は竹を縦から割いた音と共に血を噴き出す。その血の中から出てきたのは黒い線の塊だった。身体はその黒い線に侵食されるようにギチギチと音を立てている。いずれは全身が黒い線だらけの”何か”に変わるだろう。まさに子供でも描けるような落書きと誰かが言った。そこから滅茶苦茶である姿を見て、『冗』と呼ばれた。
 「『冗』は人の救いの形だ。そう、信じてきた」
 冷静な僕が苦しそうに言葉を紡ぎだす。
 「でも間違いだった。悪いことをした、神官長は懸命に僕に使えてくれたのに」
 「やめろ・・・・・」
 「神官長っていうのを決めたのは僕だ。僕が一番まともだった『彼』に救いの形を教えて、神官長にして、そして救いの方法を教えた」
 「やめろぉ・・・・・・・」
 「『彼』はそれを信じたが、同時に否定した。僕に神子としての務めなんてしてほしくなかったからだ」
 「やめろって言ってんだろ!!!」
 「なにキレてんだよ、もう終わってるんだ。これはなりの反省だ。分かってるだろ」
 「・・・・・・・・・うぅ!!」
 僕は知らなかった。本当に知らなかったんだ。だって、働く以前の記憶は
 「僕は・・・・僕は・・・・・」
 「そうだ、言ってみろ」
 怯えた顔で固まる『彼女』を見ながら僕は言う。

 「妬ましかったんだ、『彼』が」

 『彼女』との時間は楽しかった。記憶達がそれに太鼓判を押してくれている。僕も同じことをするだろう。でも『彼女』には『彼』がいた。それがすごく妬ましくて苦しくて憎かった。ああ、これが愛憎なのだろうか、嫉妬というのだろうか。ただ欲しいと求めることはそんなに酷くて惨いことなのだろうか。
 「何度でも言う」
 冷静な僕でも、怒った僕でもなく、舞台の中にいる『僕』が僕に向かって言った。
 「分かってるんだろう?」
 「ああ、だからこの選択をした」
 「見る勇気は」
 「ある」
 「立ち向かう勇気は」
 「ある」
 「後悔はしないか?」
 僕はクスリと笑って、目の前にいるに向かって舞台役者のように溜めてから小さく漏らした。
 「もう、遅いだろうが」
 僕は立ち上がって『彼女』の元まで歩く。そして『彼女』を立ち上がらせて、僕は。

 「え」


 『彼女』を『彼』の前に押し出した。


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