2 / 92
1.最初の注文は牛丼の大盛でした
02
しおりを挟む
俺の母親、みわ子は、息子の俺から見ても、可哀相なくらい男運が悪い。
俺が直接知ってるのは、自分の親父からだけど、それまでも、色々とあったらしい。
まずは俺の死んだ親父。
よくまぁ、耐えてたっていうくらい酷いDV男だった。俺が覚えているのは、いつもみわ子を殴ったり蹴ったりしている場面しかない。当然、俺に優しい言葉など、一言もなかったし、むしろ、存在自体を認識されてた記憶がない。俺はみわ子から、隠れてろって言われて、いつも押し入れの中で泣いてばっかだった。
俺が小学校六年になった年。ようやっと離婚することになった。
その寸前で交通事故で死んでくれたおかげで、親父の保険金が入った。それで生活が少しは楽になるかと思ったのに。
今度はみわ子の実兄が借金残して、ばっくれてしまった。
その保証人になぜかみわ子の名前が書いてあったせいで、せっかく手に入った保険金もパーになった上に、その金額以上の借金だったせいで、みわ子が返済することになってしまった。
毎日のように来る借金取りに怯える日々に、俺もみわ子も、心中するかってくらい追い詰められたのは、俺が中学二年になった頃だった。
みわ子は、柄でもない水商売なんかをしたものだから身体を壊してしまい、かといって、入院することもままならなかった。
いつもならドンドンと激しくドアを叩いたり、大声で『高橋さ~ん』『居留守使ってんじゃねぇよ』と騒がれたりする夜なのに、その日はピンポーンという音だけが鳴り響いた。
電気を消した狭いアパートの部屋の奥では、みわ子が不安そうな顔で横になってたから、ビクビクしながら、代わりに俺がドアスコープごしに外を見た。
そこにいたのはガタイの良さそうな黒いスーツの胸の辺りしか見えない。もしかして、借金取りの親玉が出てきたのか、と、みわ子のところに逃げ帰って、二人で怯えていたら、ガチャリと勝手にドアが開いた音がした。
なんで開いたんだ?というので混乱してると、玄関先でごそごそと靴を脱ぐ音がした。
土足で入ってくるかと思ってたから、困惑しながら玄関のある方を見つめていると、やっぱり背の高くて真っ黒なスーツに鋭い眼差しの男が現れた。艶々とした黒い髪を固めた姿は、まさに『ヤ』のつく職業の人、そのもの。その男がポツリと低い声で「みわ子、無事か」と不安そうに声をかけてきた。
その時、その人が、みわ子の兄の幼馴染の武原さんで、まさに、『ヤ』のつく職業……組長さんだってことを初めて知った。親父との離婚の間に入ってくれてたのが、この人だったらしい。
それからは、武原さんが間に入ってくれたおかげで、借金取りに悩まされることはなくなった。あ、それでも、ちゃんと借金は少しずつ返してはいる。みわ子が、武原さんにお金を借りるのを嫌がったからだ。
その武原さんは、みわ子のパートの休みの日に、時々、気まぐれに家に短い時間だけど寄るようになった。ちょっとお茶を飲んで帰る、それだけだけど。
二人は、別に、いわゆる男女の関係ではない、はずだ。俺の知る限り。
だけど、一つだけ、みわ子が教えてくれたことがある。
――俺の名前の『政人』は、武原さんの名前、『政二』から一文字貰ったものだということを。
俺が直接知ってるのは、自分の親父からだけど、それまでも、色々とあったらしい。
まずは俺の死んだ親父。
よくまぁ、耐えてたっていうくらい酷いDV男だった。俺が覚えているのは、いつもみわ子を殴ったり蹴ったりしている場面しかない。当然、俺に優しい言葉など、一言もなかったし、むしろ、存在自体を認識されてた記憶がない。俺はみわ子から、隠れてろって言われて、いつも押し入れの中で泣いてばっかだった。
俺が小学校六年になった年。ようやっと離婚することになった。
その寸前で交通事故で死んでくれたおかげで、親父の保険金が入った。それで生活が少しは楽になるかと思ったのに。
今度はみわ子の実兄が借金残して、ばっくれてしまった。
その保証人になぜかみわ子の名前が書いてあったせいで、せっかく手に入った保険金もパーになった上に、その金額以上の借金だったせいで、みわ子が返済することになってしまった。
毎日のように来る借金取りに怯える日々に、俺もみわ子も、心中するかってくらい追い詰められたのは、俺が中学二年になった頃だった。
みわ子は、柄でもない水商売なんかをしたものだから身体を壊してしまい、かといって、入院することもままならなかった。
いつもならドンドンと激しくドアを叩いたり、大声で『高橋さ~ん』『居留守使ってんじゃねぇよ』と騒がれたりする夜なのに、その日はピンポーンという音だけが鳴り響いた。
電気を消した狭いアパートの部屋の奥では、みわ子が不安そうな顔で横になってたから、ビクビクしながら、代わりに俺がドアスコープごしに外を見た。
そこにいたのはガタイの良さそうな黒いスーツの胸の辺りしか見えない。もしかして、借金取りの親玉が出てきたのか、と、みわ子のところに逃げ帰って、二人で怯えていたら、ガチャリと勝手にドアが開いた音がした。
なんで開いたんだ?というので混乱してると、玄関先でごそごそと靴を脱ぐ音がした。
土足で入ってくるかと思ってたから、困惑しながら玄関のある方を見つめていると、やっぱり背の高くて真っ黒なスーツに鋭い眼差しの男が現れた。艶々とした黒い髪を固めた姿は、まさに『ヤ』のつく職業の人、そのもの。その男がポツリと低い声で「みわ子、無事か」と不安そうに声をかけてきた。
その時、その人が、みわ子の兄の幼馴染の武原さんで、まさに、『ヤ』のつく職業……組長さんだってことを初めて知った。親父との離婚の間に入ってくれてたのが、この人だったらしい。
それからは、武原さんが間に入ってくれたおかげで、借金取りに悩まされることはなくなった。あ、それでも、ちゃんと借金は少しずつ返してはいる。みわ子が、武原さんにお金を借りるのを嫌がったからだ。
その武原さんは、みわ子のパートの休みの日に、時々、気まぐれに家に短い時間だけど寄るようになった。ちょっとお茶を飲んで帰る、それだけだけど。
二人は、別に、いわゆる男女の関係ではない、はずだ。俺の知る限り。
だけど、一つだけ、みわ子が教えてくれたことがある。
――俺の名前の『政人』は、武原さんの名前、『政二』から一文字貰ったものだということを。
2
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる