牛丼、大盛、つゆだくで

三森のらん

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6.俺とオッサンと若頭

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 出された酒は飲まないわけにはいかない。何せ、目の前に『坊ちゃん』が俺が飲み切るのを待っている。飲め、と言われたわけじゃない。だけど、ニヤニヤしてても目が笑ってないんだ。もう、それは口にはしなくても、飲めと言ってるようなもんでしょう。
 だからといって、一気に飲む勇気はないから、ちびりちびりと舐めてる。だって、バイト上がりで、まともに夕飯食べてないんだぜ? 目の前にあるのは、ナッツ類ばっか。このままじゃ、普通に酔っぱらう。

「マサくん、早く飲んでぇ?」

 隣に座るお姉さんが、甘えた声を出しながらボトルを持って待っている。まだまだ、たっぷり入ってますけど。俺のグラス。

「もう、重くて、ゆいな、持ってられない~」

 嘘つけっ! と言いたいところだけど、口を尖らせてかわい子ぶってる姿を見ると、わかってても何も言えない。チラッと『坊ちゃん』の顔を伺うと、クイッと顎を上げた。

 ――飲め、と。飲めとおっしゃってるんですねっ!

 俺は、慌てて一気飲みした。

「きゃぁ、素敵~。マサくん、カッコいい!」

 内心、苦いよぉ、と思っても、えへへ、と笑いながらグラスを差し出す。ゆいなと名乗ったお姉さんは、いそいそと水割りを作り始める。

「マサくん、すごいね~」

 そう言ったのは目の前に座ってる『坊ちゃん』。今度はちゃんと目も笑ってる。それに内心ほっとする。ちゃんと『坊ちゃん』の要望に応えられたということか。

「顔色もよくなってきたみたいだし、ちょっと俺と話をしようか」

 長い脚を組み替えて、革張りのソファでふんぞり返る姿は、ああ、偉そう、とぼんやり考える。若そうなのに、ほんと偉そう。でも、やっぱ、カッケェなぁ、とも思う。

 ――あれ? ちょっと酔っぱらったか?

 なんだか思考の箍が緩んでる気がする。ほぉっ、と吐き出す息が熱い。
 コツンとテーブルの上に俺のグラスが置かれた音。なんで俺に渡さないの? と思ったら、ゆいなちゃんも、『坊ちゃん』の両脇の美女たちも立ち上がっていく。
 あれ~? と見送りつつ、俺はグラスに手を伸ばす。最初の一口は、やっぱりチロリと舐めるだけ。やっぱり苦いなぁ、と思いつつ、ぼやんと『坊ちゃん』の方へと目を向けた。今度はニッコリと笑顔を浮かべる『坊ちゃん』。おお、イケメンはオーラが違うな。オーラが。

「マサくんはさぁ、藤崎とはどういう関係?」

 藤崎?
 誰だっけ、藤崎って。

 俺はコテンと頭を傾げる。酔いがまわった頭では、うんうん悩んでもその答えが出てこない。誰だっけ? グラスをテーブルの上に戻して、腕組みしながら悩み続ける俺。

「……何、この子、超可愛いんだけど」

 ぼそりと『坊ちゃん』の声が聞こえたと同時に、腕を引っ張られて、ぼすんと音をたててソファに座る。ありゃ、『坊ちゃん』に引っ張られた? 素直に隣に座り込む。

 ――ありゃりゃ?

 俺の頭が『坊ちゃん』の肩の上に乗ってて、なぜだか『坊ちゃん』の大きな手が、俺の頭をなでなでしてる。

 ――ありゃりゃりゃりゃ?

 なんか気持ちいいぞ?

「うーん、ちょっとだけ、藤崎の気持ち、わかっちゃったかも……なぁ、藤崎」

 最後の方はなんだか怖い声になってる。なんで? と思って視線を上げると、俺の目の前に、雨に濡れたおっさんが怖い顔で立っていた。
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