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閑話:先代と嫁
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少し広めの静かな和室に、池中組の先代とおっとりした雰囲気の中年の女性、組長の妻が二人、茶を飲んでいた。
「ふぅ……」
茶を飲み干した先代が、深い溜息をつく。
「まったく、あいつにも困ったもんだ」
「お義父様」
息子である組長のことを思い出して、苦々しく言う。
嫁が少し困ったような顔をしながらも、口元は緩く微笑んでいる。
「こっちが上手く別れさせようとしてやったというのに……」
「まぁ、最初から藤崎が相手にしてなかったんですから、仕方がないですわ」
息子の浮気など、とうの昔に察していた。自分も若い頃はいくらでもやっていたことだった。今の相手とはダブル不倫なのもわかっていたし、嫁には悪いがどうせ遊びだろうからと、暫く放置していた。
しかし、女の方の夫が馬鹿をやり、警察に捕まる羽目になったのをきっかけに、女の方が離婚すると言い出したのだ。
女には、藤崎との過去もある。あの当時は、目をかけていた藤崎を思い、別れさせた。
息子はそこまで馬鹿ではないはずと思いながらも、今回は下手をすると息子夫婦も、という考えに至ってしまった。
だから先代は、捕まった夫との円満離婚の説得を条件に、まだ独身だという藤崎との再婚を勧めた。自分より若く、今では武原組での地位もある藤崎に、女の方も満更ではなかったようだったが、肝心の藤崎の方から断られてしまった。
さすがに若い頃のように、藤崎が簡単に言うことを聞くわけもなかったのだ。
「なんにせよ、あの女の自業自得ですわ」
うっそりと嗤う嫁の様子に、亡き妻の面影を思い出した先代は、ぶるりと寒気を覚える。
何度となく浮気をされても、遊びだろうからと割り切っていた嫁。おとなしそうな顔をしているが、今回はさすがに自ら動いた。浮気相手の女の代わりになる、もっと若く綺麗な女を見繕い、女の後釜になるように、しっかりと教育をしていたのだ。
そして、藤崎から先代への連絡がきたのだ。
――なんにせよ、タイミングがよかった。
「藤崎には、改めて、お礼をしておかないと」
そう言いながら、嫁が少し温くなった茶を飲み干す。
「そうだな。アイツのおかげで、手を切らせることが出来たんだし」
結局、女は刑務所にいる夫との離婚は出来ないまま、わずかな手切れ金とともに娘を連れて街を出ていった。きっと夫は、出所後、組長や藤崎のような後ろ盾もない女を血眼になって探すに違いない。
そして、女たちは、二度とこの街には戻ってくることはないだろう。
組長はの方は女とは別れたものの、今では新しい若い女に入れ込んでいるようだが、遊びの範囲ならと、嫁も目をつぶっている。
「本当にお義父様に似て、困った人ですよ」
「ははは。苦労かけるね」
嫁が新しく淹れなおした茶を、旨そうに飲む先代。
諦め顔の嫁は、綺麗に整えられた庭の方に目を向け、小さく溜息をついた。
「ふぅ……」
茶を飲み干した先代が、深い溜息をつく。
「まったく、あいつにも困ったもんだ」
「お義父様」
息子である組長のことを思い出して、苦々しく言う。
嫁が少し困ったような顔をしながらも、口元は緩く微笑んでいる。
「こっちが上手く別れさせようとしてやったというのに……」
「まぁ、最初から藤崎が相手にしてなかったんですから、仕方がないですわ」
息子の浮気など、とうの昔に察していた。自分も若い頃はいくらでもやっていたことだった。今の相手とはダブル不倫なのもわかっていたし、嫁には悪いがどうせ遊びだろうからと、暫く放置していた。
しかし、女の方の夫が馬鹿をやり、警察に捕まる羽目になったのをきっかけに、女の方が離婚すると言い出したのだ。
女には、藤崎との過去もある。あの当時は、目をかけていた藤崎を思い、別れさせた。
息子はそこまで馬鹿ではないはずと思いながらも、今回は下手をすると息子夫婦も、という考えに至ってしまった。
だから先代は、捕まった夫との円満離婚の説得を条件に、まだ独身だという藤崎との再婚を勧めた。自分より若く、今では武原組での地位もある藤崎に、女の方も満更ではなかったようだったが、肝心の藤崎の方から断られてしまった。
さすがに若い頃のように、藤崎が簡単に言うことを聞くわけもなかったのだ。
「なんにせよ、あの女の自業自得ですわ」
うっそりと嗤う嫁の様子に、亡き妻の面影を思い出した先代は、ぶるりと寒気を覚える。
何度となく浮気をされても、遊びだろうからと割り切っていた嫁。おとなしそうな顔をしているが、今回はさすがに自ら動いた。浮気相手の女の代わりになる、もっと若く綺麗な女を見繕い、女の後釜になるように、しっかりと教育をしていたのだ。
そして、藤崎から先代への連絡がきたのだ。
――なんにせよ、タイミングがよかった。
「藤崎には、改めて、お礼をしておかないと」
そう言いながら、嫁が少し温くなった茶を飲み干す。
「そうだな。アイツのおかげで、手を切らせることが出来たんだし」
結局、女は刑務所にいる夫との離婚は出来ないまま、わずかな手切れ金とともに娘を連れて街を出ていった。きっと夫は、出所後、組長や藤崎のような後ろ盾もない女を血眼になって探すに違いない。
そして、女たちは、二度とこの街には戻ってくることはないだろう。
組長はの方は女とは別れたものの、今では新しい若い女に入れ込んでいるようだが、遊びの範囲ならと、嫁も目をつぶっている。
「本当にお義父様に似て、困った人ですよ」
「ははは。苦労かけるね」
嫁が新しく淹れなおした茶を、旨そうに飲む先代。
諦め顔の嫁は、綺麗に整えられた庭の方に目を向け、小さく溜息をついた。
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