牛丼、大盛、つゆだくで

三森のらん

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10.牛丼よりも、愛を大盛、お願いします

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 講義の間中、天童の見せたあの表情が気になって仕方がなかった。
 普段、どちらかといえば飄々としていて、海老沢に絡まれても、どこか嫌がっているような風に見えていた。それなのに、海老沢と元カノ、二人の仲の良さそうな様が予想外だったのか、天童自身、酷いショックを受けていたように見えた。

 チラチラと見てはいるものの、天童は微動だにせず、ずっと前を向いている。
 どんな顔で講義を受けているんだろうかと心配で、まともに講義を聞けてなかった。
 チャイムの音と共に講義が終わると、すぐに天童の姿を探したが、皆が一斉に立ち上がるから、小柄なあいつは完全に埋没してしまう。
 そんな人の流れの中、チラリと黒髪が逃げるように出ていくのが見えた。俺は急いで追いかける。

「天童」

 少し先に、小さな背中が見えて、俺は声をかけたけど、天童の耳には入ってこないのか、ドンドン歩くペースが早くなっていく。

「天童っ! ……くそっ」

 途中から小走りになってる天童に、俺も走るはめになる。

「天童っ!」
「っ!?」

 ようやく俺の声に気付いたのは、校舎を出るところだった。天童は潤ませた目を大きく見開いて振り向いた。

「はぁ、はぁ……、お前、何回呼んだと思ってんだよ」
「え、ああ、悪い……何か用?」

 ぐいっと目の辺りを拭って、ふいっと顔を背ける。俺はゆっくりと感じる天童の隣に立って顔を覗き込む。

「えと……大丈夫か?」
「はっ、何のこと」

 皮肉っぽく口を歪めて返事をする天童が、痛々しい。

「……海老沢と何かあったか?」

 天童の顔色を伺うように問いかけると、その名前を出しただけで、ビクンッと身体を震わせる。もう、明らかに海老沢が何かやらかしたに違いない。こんな悲壮感漂う天童を見たのは、大学に入ってから初めてだ。

「何もない、何もない」

 それでも天童は、なんとか堪えようとしたのか、顔を引きつらせながら否定する。

「何もないで、そんな顔、なんないだろう?」
「っ!?」

 その言葉に、天童が我慢してた涙がポロリと零れ落ちてきた。
 慌てて涙を拭う天童。俺はあたふたしながら、ポケットに突っ込んでたハンカチを差し出すが、天童は自分のシャツの袖で涙をぐしぐしと拭う。ああ、子供みたいに目の周りが真っ赤になってるよ。そんな自分のことがわかってるのか、天童は余計に困ったような顔になる。

「あー、なんだかな」
「天童……」
「うん、まぁ、なんだ……ちょっと、ここでは話しづらいかな」
「わかった……旧館の学食にでも行くか」
「……うん」

 旧館の方の学食は少し狭いせいか、メニューも少ないし、学生に人気がない。むしろ教師や事務員の人がよく使っているようだ。
 この時間だったら、余計に人は少ないかもしれない。
 俺たちはそれ以上言葉を交わすことなく、学食へと向かった。
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