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5.ネクタイ
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彼女と話しかけられた直後は、少しぐらいは聞いてあげようかとも思ったけれど、講義中、冷静になってみれば、どうせ言われるのは平川先輩の話だろうし、そもそも僕は、女性から頼まれごとをして断れた試しがないことを思い出した。
完全に母と姉の躾(?)によるものだという自覚はある。だから、下手に聞いて断れない状況に陥るよりも、潔く逃げるほうを選んだ。
いつもなら、講義が終わってもすぐには出ずに、全員が出終わってから教室を出るのだけれど、今日は怒涛の人波の中に紛れて教室から出ようとした。
「あ、は、濱田さんっ!」
シャツの端っこを掴んで僕を引き留めたのは案の定、眼鏡の彼女。
「あ」
「あのっ」
よくまぁ、この中で僕を見つけ出した、と褒めるべきなのだろうか。僕は苦笑いしながら彼女に顔を向けた。ホッとした表情を浮かべたと同時に、再び必死な顔で周囲を見回し、「こっちです」と言って、僕を引っ張る。
仕方なく、人ごみの中、彼女の誘導する方へ歩いていくと、階段そばの休憩スペースに連れてこられた。そこは、僕たち以外の学生も何人か座りながら談笑していた。彼女に無言で勧められて、少し古びたソファに座る。
僕は彼女が話し始めるまで、無言で彼女を見つめていた。
もともと表情の出ないほうの僕が、ただ彼女を見ているだけの様子は、傍から見たら、まるで彼女を怒っているかのように見えるかもしれない。特に、先ほどまでの強引さは姿を消して、本当に僕から怒られているかのようにおどおどしている彼女をみれば、余計にそう見えるような気がする。
僕が何をしたというわけでもないのに、罪悪感を感じさせるとか、それは彼女の特技か何かなのかだろうか?
「あ、あのですねっ。実はバイトの件なんですけど」
あー、やっぱり。
「その件だったら、僕、平川先輩にお断りしました」
彼女に押し切られる前に、僕のほうから言ってしまえ、そう思ったから言い切るだけ言い切ると、僕は立ち上がろうとした。
「し、知ってますっ!」
再び、僕のシャツを掴んでくるから、彼女が掴んでるところが皺になってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい」
僕は思わず顔を顰めてしまったのか。彼女が顔を真っ赤にして慌てて手を離した。断ってるのを知ってるというのに、他に何を話すというのだろう。ため息をつきながらソファに座りなおした。
完全に母と姉の躾(?)によるものだという自覚はある。だから、下手に聞いて断れない状況に陥るよりも、潔く逃げるほうを選んだ。
いつもなら、講義が終わってもすぐには出ずに、全員が出終わってから教室を出るのだけれど、今日は怒涛の人波の中に紛れて教室から出ようとした。
「あ、は、濱田さんっ!」
シャツの端っこを掴んで僕を引き留めたのは案の定、眼鏡の彼女。
「あ」
「あのっ」
よくまぁ、この中で僕を見つけ出した、と褒めるべきなのだろうか。僕は苦笑いしながら彼女に顔を向けた。ホッとした表情を浮かべたと同時に、再び必死な顔で周囲を見回し、「こっちです」と言って、僕を引っ張る。
仕方なく、人ごみの中、彼女の誘導する方へ歩いていくと、階段そばの休憩スペースに連れてこられた。そこは、僕たち以外の学生も何人か座りながら談笑していた。彼女に無言で勧められて、少し古びたソファに座る。
僕は彼女が話し始めるまで、無言で彼女を見つめていた。
もともと表情の出ないほうの僕が、ただ彼女を見ているだけの様子は、傍から見たら、まるで彼女を怒っているかのように見えるかもしれない。特に、先ほどまでの強引さは姿を消して、本当に僕から怒られているかのようにおどおどしている彼女をみれば、余計にそう見えるような気がする。
僕が何をしたというわけでもないのに、罪悪感を感じさせるとか、それは彼女の特技か何かなのかだろうか?
「あ、あのですねっ。実はバイトの件なんですけど」
あー、やっぱり。
「その件だったら、僕、平川先輩にお断りしました」
彼女に押し切られる前に、僕のほうから言ってしまえ、そう思ったから言い切るだけ言い切ると、僕は立ち上がろうとした。
「し、知ってますっ!」
再び、僕のシャツを掴んでくるから、彼女が掴んでるところが皺になってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい」
僕は思わず顔を顰めてしまったのか。彼女が顔を真っ赤にして慌てて手を離した。断ってるのを知ってるというのに、他に何を話すというのだろう。ため息をつきながらソファに座りなおした。
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