100均で始まる恋もある

三森のらん

文字の大きさ
57 / 108
7.オーナメント

56

しおりを挟む
 クリスマスソングほど、今の僕の胸を抉るBGMはないと思う。たぶん、自分以外の人が幸せになれる曲だからかもしれない。
 レジの中のつり銭を確認し終えて、ため息をつく。

「ちょっと、何、辛気臭い顔してんのよ」

 久しぶりにシフトが一緒になった尾賀さんから、呆れられたように言われてしまう。

「すみません……」

 ここのところ、金曜日は別の店舗に行くようになったから、尾賀さんと話をする機会はあまりなかった。まぁ、リア充な尾賀さんと、この時期に一緒にいるのは、それはそれで、なんだか気が重い。

「なに、あっちの店、しんどいの?」
「いえいえ、そういうわけじゃないです。みなさん、いい人で」

 実際、自分の母親とたいして年齢が変わらないおばさんも多いから、ほぼ息子扱いされてる。

「じゃ、何。ここが嫌になったとでも?」
「いやいやいや、そんなんじゃないです」

 苦笑いしながら、僕はレジを離れて品出しに向かった。
 週末の昼間のシフトは、そこそこ忙しい。なにせ、主婦のパートさんたちがいない分、僕たち学生ばかりになって、人数も多くはいないのだ。それでも週末だけに、ビジネス街のほうの人出は多くはないものの、普通に駅を利用する人たちはけっこういる。
 駅直結のこの店と、スーパーの中にあるあちらの店では、完全に客層が違う。ここは比較的、ビジネスマンやOLさんの姿が多いけど、あっちは子連れの主婦層が多い。だから出ていく商品の傾向も違うし、商品の納品の量も違う。二つのお店を掛け持ちしてるからこそ、気が付いたことだった。

「こっちはクリスマスグッズの動きがいいですねぇ」

 同じように品出しをしていた海老原さんに、通りすがりに話しかけた。

「ん? そうだなぁ。たぶん、お店関係のとことか、ディスプレイとかに使うんじゃない?」
「あっちの店は、かなり店頭に出してたけど、まだ、それほどでもなかったんですよね」
「へぇ、そんな違うんだ」

 補充するために、商品を山盛りにしたカゴを抱えなおしていく海老原さん。僕も倉庫のほうに向かおうとカゴを手に取った時、海老原さんがお客さんに声をかけられている姿が見えた。
 急いで倉庫から商品を持って出てくると、まだ、そのお客さんに捕まっている。気が付くと、いくつかの棚が、空っぽになってる状態なのが目に入った。

『ヤバイな』

 内心、焦りながら、どんどん商品を補充していく。
 空調のせいもあるかもしれないけど、何度も倉庫と売り場を往復したせいか、額に汗が滲んできた。補充しても補充しても追いつかない。そんな時、フロアに、軽やかなベルが鳴った。これが鳴るときは、レジが混雑し始めた時。慌てて、レジに向かうと、すでに新人とは言えなくなった谷敷さんがレジに入っててくれた。
 こうして忙しくて仕事に集中してると、段々とクリスマスソングのBGMも気にならなくなってくる。そして山本さんのことも考えなくてすむ。

「濱田くん」

 そんな僕の背後に立って声をかけた人がいた。
 その声に、僕は、返事が出来なかった。だって、その声は。

「濱田くんだろ?」

 山本さんだったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...